《インタビュー》脚本・演出:横内謙介 新浄瑠璃 『百鬼丸』〜手塚治虫「どろろ」より〜』

手塚治虫漫画の傑作「どろろ」を新浄瑠璃として舞台化、好評につき今回で3度目の上演!脚本・演出の横内謙介さんに手塚治虫漫画ついて、「どろろ」について語っていただいた。

「そもそも僕らは手塚治虫漫画で育っていたから『手塚ヒューマニズム』みたいなのがわかっている」

――一番最初に舞台化を手がけた手塚作品は、確か「陽だまりの樹」でしたよね。
横内:はい。そのほかには「リボンの騎士」「NINAGAWA火の鳥」もやりました。それからわらび座の「アトム」、「NINAGAWA火の鳥」はさいたまスーパーアリーナのこけら落とし公演でした。これはただのイベントではなく、ちゃんとした演劇でストーリーはありました。シアトリカルイベントみたいな内容でしたね。
――「陽だまりの樹」の頃はまだ「2.5次元」という言葉はない時代ですね。
横内:はい。漫画原作で演劇をやるのは当珍しかったのではないでしょうか?当時のセゾン劇場は新しいことをやろうという劇場だった。劇場に堤康二さん、堤清二さんのご子息で映画「帝都物語」をプロデュースしてからセゾン劇場にプロデューサーとして入った方なんです。堤康二さんはずっと「漫画をやりたい」、しかも「手塚漫画をやりたい」っておっしゃっていまして、それで堤康二さんと会って何本か芝居になりそうなもののリストをもらって、その中に「火の鳥」もありました。でも、一番ドラマっぽかったのは「陽だまりの樹」だった。演出は「北の国」からの監督さんで杉田正道さん。相談の結果、「火の鳥」のようなファンタジーよりも人間群像の方が杉田さんらしいのでは?という話になって、それで始まった。やってみたらとても相性が良かったんですね。そもそも僕らは手塚治虫漫画で育っていたから「手塚ヒューマニズム」みたいなのがわかっている。うまくいきまして、全部で3回やりました、そこまでやったのはセゾン劇場では「陽だまりの樹」だけではないでしょうか。
――結構、やりましたね。
横内:初演が終わってから「もう1本やろう」ていって、それで「リボンの騎士」が立ち上がった。本当は「リボンの騎士」っぽくやるはずだったんだよね(笑)。同じチームで演出が河毛俊作さんになった。ところが「そのままやっても・・・・・」っていう話になって(笑)。宝塚には負けるんだから違うことをやろうよって、それで青春ドラマになっちゃった(笑)。
――手塚作品ということでしたら、かなり手がけてますね。
横内:手塚プロさん、松谷社長が最初から面白がってくれたんですよ。彼はそもそも演劇人で、学生演劇やってた人だから「リボンの騎士」は、そのままやるよりも「こういうのもありだ」って言ってくれました。わかってくださって、それでつながりができたんですね。

「そもそも神話的なものだから手法として浄瑠璃はいけるんじゃないかと」

――「どろろ」は・・・・・。
横内:今度で3回目になります。
――今年になってアニメになって、舞台作品もありましたね。
横内:西田大輔さんの演出がありましたね。
――拝見してきました。
横内:行こうかな?と思ったんですが、引っ張られるのが嫌だったから(笑)、でも違うものだし、全く考え方は違うんだろうなと思っていました。「どろろ」は小さな女の子、商業演劇では子役やれる女優さんを引っ張ってくることができるけど、うちの劇団じゃあ気持ち悪い(笑)。「どろろ」って泥棒の意味だし「どろろ」の設定を『親』に変えてみようかなと。「どろろ」は子供の頃には見た時はただ、ただ妖怪退治だった。ところが大人になって改めて読んでみるとすごく神話的に作られているので、これはやろうと。ところが「百鬼丸」って動けない、手も足もないから。ここから描きたいのに「百鬼丸」は動けないから、誰かが動かさなければいけないな、と。それでどろろ役の山中崇史に抱かせようって話になりました。そこを変えさせてもらったわけですが、こういうところは芝居ならではですね。
――今年のアニメは見たんですよ。
横内:見てたんだ。
――確かに神話的な感じで、単なる妖怪退治じゃないですよね。
横内:体を取り戻していく話。
――本来の自分を取り戻す作業の過程の中に妖怪を退治する、そういう作りですね。いわゆる「妖怪を倒しに行こう!」じゃないんですよね。
横内:子供の頃、アニメ見ていてもよくわからなかった。大人になって原作漫画を読む作業をして、それからどうやってやろうかと考えていた時に、誰かのお弔いで竹本葵太夫さんと一緒になったんです。先方もこちらの顔はわかっていらしたようで、「スーパー歌舞伎やってた方ですよね」って・・・・・その後でお寿司食べてね。そこで初めて竹本葵太夫さんとお話させていただいて「拝見しています」とおっしゃってくださいましたので「浄瑠璃ってどんなものなんですか?」と聞いてみたところ「自分では作ったことはないけど、そもそもこういうことで七五調にできるんですよ」というようなことをちらっとおしゃっていて、それが気になっていたんですよ。不思議なもんですね、浄瑠璃ってなんだろうって気になっていたところへ、こうしてお話できた。それからしばらくしてからこの「どろろ」をやるタイミングになった時にハタと思いついて「頼んでみようかな?」と。これが使えたらきっと面白いぞと。そこでお伺いに行ったら「とりあえず、七五調で書いてみましょう」って言ってくれたんです。
――色々と過去公演のことも調べましたけど、確かに浄瑠璃でやった方がこの作品には合うんじゃないかな?って思いましたね。
横内:多分、手塚治虫さんはヒルコ(水蛭子、蛭子神、蛭子命は、日本神話に登場する神)という、のっぺらぼうの子供みたいなものを「古事記」から取っていると思うんです。イザナミの子がヒルコであったこと、「古事記」にでてくるんですよ。ヒルコは水に流されてしまった。こういう神話に寄り添っている、そもそも神話的なものだから手法として浄瑠璃はいけるんじゃないかと。なんとなく、ですが手塚治虫の漫画の発想が僕らの世代の教養のあり方と近い気がするんです。手塚治虫は基本教養で、そこを押さえれば。だから僕らとは親和性が高い気がするんです。

「手塚ヒューマニズムはこれからの世代に伝えていきたい。100年後も上演されるような作品を、後世に残せるようなものを目指しています」

――最近の2.5次元舞台でも人気があるものの一つにそういった神話や妖が登場する作品がありますね。
横内:影響を受け続けて、そういう流れが生まれるんでしょうね。ただこの舞台は原作には見た目は似せない。
――原作のビジュアルに似せた方がいい場合と似せる必要のない場合がありますね。着用している衣装がキャラクターのアイデンティティである場合は似せなくてはいけない。それに対して「ひだまりの樹」のような作品は似せる必要性はなく、外見よりも手塚治虫さんが描こうとしていた内面さえ押さえておけばいいんじゃないでしょうか。
横内:僕はまさにそこを作ろうと思っています。
――例えば、「アニー」っていうミュージカル、ありますよね。あれはブロードウェイ初の2.5次元ミュージカルなんですよ。
横内:え?そうなんだ!
――1920年代に連載が始まった人気漫画で1960年代に原作者はなくなっているんですが、別の作家が引き継いで連載は続いたんです。人気もあったのでミュージカル化したんですね。アニーのヘアースタイルは漫画そのもの。養父になるウォーバックスさんは漫画ではスキンヘッド。しかし、最近日本で上演されているウォーバックスさんは髪の毛があります!要するに髪の毛があろうがなかろうがウォーバックスさんのキャラクターには髪の毛は関係ない(笑)。
横内:なるほど(笑)。ウチの劇団でやるぶんにはキャラクターに似せなくていいものを、違うようにできるものしかやらないですね。
――作品によりますね。
横内:ここはプロデューサーの腕が問われるところ。2.5次元ではありませんが「ラ・マンチャの男」は構成が見事ですよね。しかし、中には骨組がなく、ビジュアルを先行させている作品もあります。原作をどこまで守るのか、ダイナミックなストーリーにしない限り、長編マンガは無理だと思う。マンガの構成と舞台の構成は違うし、違って当たり前。「〜せねばならない」を大事にしても、そこのところを履き違えちゃっているのが結構散見される。作家としては仕事が増えるのは喜ばしいことですが、もうちょっと頑張らないと名作は生まれない。そういうのはやがてばれてくる、飽き足らなくなってくる。そこで何かを変えていかないと。
――作り手が100年後も上演したい作品にしたいのか?それとも、今、帳尻が合えばいいのか、そこの考え方ではないかと思うんです。
横内:やっぱり100年だよ。とてつもない時間に思えるけど、扉座も40周年!100年は頑張れない距離感ではないんです。僕らは死んでいるけど、そこまで届かせようって思わないと変わらない。今、舞台はパッパッと消えていってる。寂しいよね。それは自分への反省も含めて、ですが。
――先日「熱海殺人事件」を拝見しましたが、やっぱり面白いし、「ベルサイユのばら」の45周年記念の公演もありましたが、作品のすごさを感じます。
横内:そういうものをもっとみんなが目指していいのに。「ベルサイユのばら」はそういうものだと思います。しかも宝塚歌劇団はそれで生きるようになったしね。作家やプロデューサーはもっと志を持たないと。せっかくやっても残るものにならない。
僕もそういうものを目指していきたいと考えています。
――最後に締めの言葉と今回の見どころを。
横内:漫画原作で浄瑠璃にした作品は珍しいと思います。手塚治虫先生が描こうとしていた世界、手塚ヒューマニズムはこれからの世代に伝えていきたい。100年後も上演されるような作品を、後世に残せるようなものを目指しています。ぜひ、劇場に足をお運びください。

 

<あらすじ>
野心に燃える戦国武将・醍醐影光は、天下取りのために生まれてくる我が子の肉体の
四十八ヶ所を魔物たちに与える取引をする。
四十八ヶ所を失って生まれた赤子(百鬼丸)は川に流されながらも生き抜き、
運命的に出会ったコソ泥の男(どろろ)を供とし、奪われた肉体を取り戻すために
魔物を倒すたびに出る。
そして遂に母との再会を果たす百鬼丸。
しかしその再会は、百鬼丸やどろろに新たな悲劇をもたらしたのだった。
失われたものを、失われた時を、探しに……
母への恋慕に。
父への憎悪に。

【公演概要】
新浄瑠璃『百鬼丸』〜手塚治虫『どろろ』より〜
日程・場所:
2019年5月11日(土)~5月19日(日) 座・高円寺1
2019年6月14日(金) 美浜市民文化ホール
2019年6月16日(日) 厚木市文化ホール 大ホール
原作:手塚治虫
作・演出:横内謙介
制作:赤星明光 田中信也
票券:大原朱音 薗田砂枝
制作協力:手塚プロダクション
製作:(有)扉座
扉座公式HP:http://www.tobiraza.co.jp
取材・文:Hiromi Koh