舞台『黒白珠』松下優也と平間壮一、高橋恵子、風間杜夫が奏でる家族の在り方、佇まい。 

舞台『黒白珠』が好評上演中、脚本:青木豪、演出:河原雅彦によるオリジナル作品。『エデンの東』(※)をモチーフにした家族の愛憎劇だ。

撮影:桜井隆幸

撮影:桜井隆幸

幻想的な出だし、これから始まるストーリーを予感させるごく短い場面、中央には教会。場面が変わって信谷家のリビング、勇(松下優也)と松原花苗(清水くるみ)がいる。そこへ父親の信谷大地(風間杜夫)が弟の光(平間壮一) と一緒に帰宅する。弟は東京の大学に進学していた、しかも有名校、兄の勇は、というと定職につかないでバイト探し、俗にいうフリーター状態。花苗はイタリア料理店を経営している叔母の吾妻久仁子(平田敦子)にそんな男とは別れなさいと忠告される有り様。そんな状況からか、少々、やさぐれている勇、バイト雑誌の求人欄に見入っているような状態。弟は優等生で父親の期待も高い。そんな信谷家と彼らを取り巻く人々の日常が描かれる。そこへ、謎の男がやってくる、彼の名は薮木三郎(植本純米)といい彼らの母である水森純子(高橋恵子)を知っているという。彼に偶然出会った光、そして母親と思わぬ再会を果たし、それから兄の勇も再会したのであった。自分たちを捨てて家を出た母に対して複雑な感情を抱く2人。それが全ての始まりであった・・・・・・。

撮影:桜井隆幸
撮影:桜井隆幸

1幕では登場人物たちの日常とキャラクターが描かれている。不倫の末に母親が離婚し、子供達は母親を知らない。そんな母親がいきなり長崎に現れた。日常が崩れていく。そしてその母親と顔見知りである薮木三郎は何者なのか。母は勇の顔を観て叫ぶ、「生きていたの?!」と。
シンプルなセット、物語の中心は信谷家。母親が出て行ったので、男手一つで子供たちを育て上げてきた。父親は真珠の加工・販売会社を経営している。実直でコツコツと真面目にやってきた。時折、回想シーンが挟み込まれる。それによってこの家族の知られざる秘密が観客に提示される。それをどう捉えるのかは観客の自由な解釈に委ねられている。時代は1994年、今ほどインターネットは発達してはいない、昭和から平成になってさほど経っていない時代、そして長崎、原爆が落とされた場所、セリフは方言、そして長崎は養殖真珠の産地でもある。そういったバックボーン、時代背景、20年以上離れていた夫婦、どんな事情かはともかく、離れて暮らしていてもどこか繋がっている、しかも母親にとって子供はかけがえのない存在であるはずであるのに離れ離れになってようやく再会できた。家族の絆、感情、想い、家族とは一体なんなのか。そんなことを考えさせられる。しかし、決して暗い展開ではなく、ところどころ、笑えるシーンも挟み込み、緩急つける芝居。芸達者も揃い、観客席からは時折笑い声も起こる。そしてちょっとドキドキ、ちょっとほろり。
松下優也の長男・勇はバイトばかりで定職なし、彼は彼なりに考えて生きている。そして母親の出現で何かが変わっていく。しっかり者の弟・光、父親からの期待を受け、優等生に見えるがふとした時に、屈折した表情を見せる。この2人のコンビネーションとハーモニー、コントラスト、それを彩る周囲の人々。とりわけ、この家族の一員でない人々、植本潤米演じる薮木三郎は出てきた途端に怪しさと可笑しさをまとい、平田敦子演じる吾妻久仁子が周囲に与える『圧』、その姪っ子の松原花苗、清水くるみが軽やかで現代風な女の子を自然体で魅せる。村井國夫の存在感と飄々とした可笑しさ、その娘を演じる青谷優衣、父親よりしっかり者な雰囲気。
それにしても家族とはなんだろうか?血縁関係や婚姻関係によって築き上げられた人間関係、共通の先祖を持つ人々、もちろん間違いではない。しかし、昨今は養子縁組というのもある。例えば、有名なミュージカル「アニー」では偶然に出会ったアニーとウォーバックスは家族になる。もちろん血縁関係はないが家族であることを観客は認めている。この物語に登場する勇、光、大地、純子、まぎれもない家族、たとえ出生に疑問の念があってもなくても家族。信谷家の家族の形、佇まい。この先も家族であり続けるのであろう4人、生き様と在り方。休憩を挟んだ2幕もの、静かに、心に残る作品であった。

撮影:桜井隆幸
撮影:桜井隆幸
撮影:桜井隆幸

<ストーリー>
1994年、長崎。信谷大地(風間杜夫)は、真珠の加工・販売会社を経営していた。長男の勇(松下優也) は高校卒業後、職を転々とし、大地を心配させていた。勇には花苗(清水くるみ) いう恋人がいる。勇の双子の弟・光(平間壮一) は、大学に進学するために東京に出ていた。光に大地は期待を寄せていた。
勇は、周囲から、叔父に似ていると度々言われることから、いつの頃からか、自分の出自にある疑念を抱き始める。
勇と光は、母・純子(高橋惠子)の事をほとんど知らない。まだ二人が幼い頃、母は、叔父と不倫の末、駆け落ちし信谷家を出て行ったらしいが、その後の消息は聞かされていなかった。
出自へ疑念を抱えた勇。そして、ある出来事から母と再会することになった光…。
封印された家族の物語が、不協和音を立てながら動き出し、衝撃の真実を解き明かすパンドラの箱が、今開かれる。
<配役>
松下 優也 : 信谷 勇(しんたに いさむ)  高校卒業後、地元にいるが、職を転々としている。
平間 壮一 : 信谷 光(しんたに ひかり)   勇の双子の弟。東京の大学に進学している。
清水 くるみ : 松原 花苗(まつばら かなえ)  勇の恋人。伯母のフランス料理店で働いている。
平田 敦子 : 吾妻 久仁子(あずま  くにこ)  花苗の伯母。フランス料理屋を経営。
植本 純米 : 薮木 三郎(やぶき さぶろう)  ある日、光の前に現れる、謎の男。
青谷 優衣 : 須崎 沙耶(すざき  さや)  須崎英光の娘。
村井 國夫 : 須崎 英光(すざき ひでみつ)  大地のはとこ。かつて大地の会社で働いていた。
高橋 惠子 : 水森 純子(みずもり じゅんこ)  勇と光の母。幼少時に家を出た。
風間 杜夫 : 信谷 大地(しんたに だいち)  勇と光の父。長崎・大村で真珠の加工と販売の会社を経営。

(※)『エデンの東』(英: East Of Eden)は、アメリカ合衆国の作家ジョン・スタインベックが1952年に発表した長編小説。旧約聖書の創世記におけるカインとアベルの確執、カインのエデンの東への逃亡の物語を題材にし、父親からの愛を切望する息子の葛藤、反発、和解などを描いた作品。1955年にはエリア・カザン監督、ジェームズ・ディーン主演で映画化。

【公演概要】
舞台『黒白珠』
脚本:青木豪
演出:河原雅彦
出演:松下優也 平間壮一 清水くるみ 平田敦子 植本純米 青谷優衣
村井國夫 高橋惠子 風間杜夫
東京公演:2019年6月7日(金)~23日(日) Bunkamura シアターコクーン
チケット一般発売:2019年4月21日(日)
兵庫公演:2019年6月28日(金)~30日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
チケット一般発売:2019年4月14日(日)
愛知公演:2019年7月6日(土)~7日(日) 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
チケット一般発売:2019年4月20日(土)
長崎公演:2019年7月10日(水) 長崎ブリックホール
チケット一般発売:2019年4月21日(日)
久留米公演:2019年7月13日(土)~14日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
チケット一般発売:2019年4月21日(日)
企画・製作:キューブ/サンライズプロモーション東京
お問い合わせ:キューブ 03-5485-2252(平日12:00〜18:00)
『黒白珠』公式サイト
https://kokubyakuju2019.wixsite.com/official

TOP画像撮影:桜井隆幸
取材・文:Hiromi Koh