ミュージカル『オリヴァー・ツイスト』人生は短く、儚い、間違いを犯さないで生きていくことはできない

ディケンズの出世作である『オリヴァー・ツイスト』(Oliver Twist )、1837年から1839年まで「ベントリーズ・ミセラニー」に月刊分載され、単行本は1838年刊。舞台化は有名なところでは1960年制作のミュージカル。こちらはウエストエンドで上演され、後にブロードウェイで上演され、トニー賞を受賞、その後、キャロル・リード監督によって1968年に映画化され、アカデミー賞6部門に輝いた。
しかし、今回上演されるミュージカルはこれではない。脚本・演出は岸本功喜、作曲・音楽監督は小島良太。「魔女の宅急便」や「ズボン船長」のミュージカル化に成功したコンビが手がける。つまり、全くのオリジナルミュージカルであるところに注目したい。
原作の小説は長編で多くのエピソードがある。上演時間は15分の休憩を挟んでおよそ2時間15分ほどの2幕もの。ストーリーは原作のテーマを強調しつつ、再構成、よって見やすく、すっきりとしたものになっている。
物語のスケールを想像させる楽曲、それから繊細なメロディー、雷鳴、「どうか、この子を!」と叫ぶ若い身重の女性。男の子を出産して間もなく死ぬ。そして男の子はオリヴァー・ツイスト(未来和樹/山城力(Wキャスト))と名付けられる。

撮影:山之上雅信
撮影:山之上雅信
撮影:中岡美樹

オリヴァーを含む孤児たちの境遇は悲惨だ。ろくに食べ物を与えられないどころか人間の尊厳のかけらもない非人道的な扱いを受ける。ある日のこと、オリヴァーはくじ引きでおかゆの「おかわりをください」と言ったために売りとばされてしまうのだった。そして最終的に行き着いた先は、フェイギン(福井貴一)を頭とする窃盗団のアジトであった・・・・・。

撮影:山之上雅信
撮影:山之上雅信
撮影:中岡美樹

時代設定は19世紀、場所はイギリス。様々な苦難が彼を襲う、絶望に打ちひしがれて「僕の心は暗闇に覆われる」と歌うが、諦めない。そんな彼を見て周囲の大人たちも何かが変わっていく。孤独なオリヴァーはフェイギンに「家族だ」と言われ、顔が一瞬、明るくなる。家族もいない、そんな彼にフェイギンの言葉は心に響いた。「家族」は憧れであり、キラキラした夢だったからだ。それが不意に自分の手中に。生きる希望の言葉であったのだ。しかし、怒涛のような出来事の連続でオリヴァーは絶体絶命の窮地に立たされてしまうのだった。

撮影:中岡美樹
撮影:中岡美樹

映画などを見ていれば、結末も言わずもがなではあるが、それでもうるっとくるものがある。音楽が途切れない印象で、俳優陣も含めたクリエイティヴスタッフの意気込みを感じる。印象的なメロディ、重唱も多用し、場面に厚みを持たせ、群舞やフォーメーションで賑やかな場面を構築する。子役たちの活躍、皆、自分のキャラクターや演じる場面をきちんと把握し、しっかりと演じており、大人キャストもそれに負けじと場面を引き締める。
特殊な時代だから、ということはなく描かれているテーマは普遍的。どんなに時代が変わっても差別はなくならない。孤児ということで蔑まれてしまうオリヴァー。窃盗団の頭であるフェイギン、原作ではユダヤ人、人種差別にあっていたであろうことは想像に難くない。人としての尊厳、そして人々を取り巻く社会。貧しさゆえにものを盗んでしまう。盗むことは「OUT」であるが、盗みたくて盗んでいるわけではない。そうしないと生きていかれないからだ。そんな状況や悲しい心情を歌で表現、それでも最終的には気高く生きようとする。

撮影:中岡美樹
撮影:中岡美樹
撮影:中岡美樹
撮影:中岡美樹

スピーディにストーリーを展開させ、テーマをクローズアップ、場面転換もスムーズで客席通路の使い方も効果的。ラスト近く「人生は短く、儚い、間違いを犯さないで生きていくことはできない」と歌う。現代社会は時として間違いに不寛容だったりする。人間は人間であってAIでもサイボーグでもない。時には迷い、時には間違った方向に行ってしまうこともある。また、人は人を裁くことはできない。当たり前、と言ってしまえばそれまでであるが、そんなことにも気づかせてくれ、ミュージカルとしても初演ながら完成度も高い。公演は14日まで。少々日程が短いのが唯一、惜しいところだ。

撮影:中岡美樹

【公演概要】
<東京公演>
2019年7月11日~14日
<兵庫公演>
9月14日~16日
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・演出:岸本功喜
作曲・音楽監督:小島良太
出演:
●未来和樹/★山城力(ダブルキャスト)
姜暢雄
川原一馬
神田恭兵
瑞季
福井貴一

安部三博   鈴江真菜
石橋佑果   谷本充弘
伊藤広祥   遠山美樹
太田有美   敷波美保
黒沼亮    松村桜李
古清水愛奈  森雄基
佐々木純   吉田萌美
吉田雄
●川村柚葉 ●香西愛美 ●松岡芽依 ●宮城弥榮
★工藤菜々 ★田島凛花 ★長島海音 ★三浦涼音
※ダブルキャスト
主催:アークスインターナショナル
公式HP:http://www.rkx-t.com/oliver/
◆公演に関する問い合わせ アークスインターナショナル TEL:0798-34-5377(平日13:00〜18:00)
取材・文:Hiromi Koh