スタジオライフ公演 TAMAGOYAKI~Time Year Ago Key~ 過去があるから今がある、それを積み重ねれば、未来になる。

スタジオライフの倉田淳のオリジナル作品が上演中だ。1990年に小劇場界の登竜門と謳われた「パルテノン多摩小劇場フェスティバル」で最優秀賞を受賞。そして2019年、11年ぶりの上演。
トレンチコートを着た男が一人登場する。コートはややくたびれている。モノローグ、「どうも、時男(トキオ)です。大した話じゃないんです」と客席に向かって話し出す。そして「子供の頃は誕生日が楽しくって仕方がなかった」と語る。そして「今は小さな新聞社勤めです」と語る。
この物語の主人公は、この時男と彼の幼馴染、翔(カケル)、蟻巣(アリス)。アルバイトでぼったくりキャバレーの客引きをしている、ちょっと腐れ縁的な匂いのある関係性。ノルマがあるため、客引きに精を出す。この作品が書かれた時代背景なのか、カセットテープで「軍艦マーチ」を流し、安っぽいハッピを着て、半ば、強引に客引き。こんな日々に嫌気がさしている3人だが、これをやらないとお金が入ってこない。まさに負のループだ。

そしていつものように客引きをしていたが、ちょっと不思議な博士と名乗る男に出会い、強引に店に入れてしまうが、これがこの物語の発端。人生初のキャバレー、博士は酔った勢いで暴れまくり、店に多大な損害を与えてしまう。怒り心頭の店長は、莫大なる損害金を3人に要求するのだった。八方塞がりの3人は、この怪しげな博士が発明したタイムマシーン(??)でタイムスリップすることに。いわゆる現実逃避、そして行き着いた先は自分たちが過ごしていた小学校。そこで当時の自分たちに出会い、大好きだった百合子先生にも再会する。みるみるうちに当時の記憶が蘇っていく3人。子供の自分たちと楽しい時を過ごし、そして彼らと一緒に遠足にいくことになるが、そこにいくことは、いわゆる『パンドラの箱』を自ら開けるようなものであった・・・・・。

細かい台詞や行動、これがいちいちおかしく、ほのぼのしながらも笑いのツボにはまる。遠足のおやつ代は300円まで、とか、いじめっ子が弱い子に荷物を全部持たせる、箒で子供たちの尻を叩く男の先生(ジャージ着用)に、上品なスカートにフリルのブラウスを着た若い女性教師、流行っていたTV番組のギャグをすぐに披露する、ちょっと目立ちたがり屋な行動に出る子などなど、ここは大きく頷いてクスリと笑えるところ。そしてグリコの箱、ポッキー、だるまさんが転んだなど、とにかく懐かしい、ノスタルジックな『小道具』の数々、それらを散りばめて物語は進行していく。夢も希望もなくした大人になった3人に、無邪気で希望に溢れた子供の3人、このコントラストが、普遍的なものを観客に示す。そして変わり者の博士、キャバレーで相対性理論を語ったり、また紙飛行機を折ったりする、見た目はおっさんそのものだが、中身は子供のように純真だ。この奇妙な体験を経て3人の中で何かが変わり始める。
キャスト陣がこれらのキャラクターを輪郭をはっきりとさせつつ、リアリティを持って演じる。特にメインキャラクターの3人はどこかにいてもおかしくない人物像、ありふれた人々だ。そして先生や子供時代の彼らもまた、どこにでもいそうなキャラクター。共感する部分も多く、笑いながらもほろりとする。

結末はどうであれ、人生や生き方などについて考えせられる作品だ。ちなみにタイトルにもなっている「TAMAGOYAKI」はお弁当に入っている手作りの卵焼きのこと。実にありふれた料理であるが、作り手によって少しずつ味わいが異なる。そのちょっと甘めの味付けはノスタルジックな感傷に浸れる味であり、噛みしめるほどにいろんな思いが溢れる食べ物。そして3人の人生はこれからも続いていく。その未来は『ありふれた卵焼き』なのかもしれない。過去があるから今がある、その今を積み重ねれば、過去になり、その上に未来がある。

<「TAMAGOYAKI~Time Year Ago Key~」STORY>
何の夢も希望もない生活を送るキャバレーの従業員、時男(トキオ)、翔(カケル)、 蟻巣(アリス)。パワハラ店長に怒鳴られ蹴られながら、しがない日々を過ごしている。 そんな或る日、客引きのノルマを果たすべく引き入れたのはタイムマシーンを開発した物理学者の博士だった。人生初のキャバレー体験、酒に酔った博士は杯盤狼藉、テーブルはひっくり返りグラスや皿は砕け飛び、店内はメチャクチャになる。客引きの責任として途方もない弁償金を押し付けられた三人は、博士の提案に乗り、現状から逃げ出すためにタイムスリップを決意する。そして小学生時代へと辿り着き、その頃の自分と出逢う。子供時代の生意気で甘ったれの要領のいい自分達。憧れていた百合子先生、いじめられっ子の同級生。だんだんとその頃の無邪気な気持ちがよみがえり、懐かしく幸せな時を過ごす三人。そして子供時代の自分達と一緒に遠足へ行くことになる。しかし、そこで思い出したくない、記憶の奥に閉じ込めていたはずの出来事に再び出会い、彼等は時空間の歪みへと迷い込む・・・・。

思い出はやさしく甘美なもの
流れる歳月の中で 都合よく濾過しているから
濾過してしまわなければ やりきれないから

過去の汚点を消せる消しゴム
それは 忘れ去ること
あったことを なかったことにし
逢ったはずの人を 忘れてしまうこと
しかし かすかな記憶は現在(いま)を蝕み
心の隙を苛める

もし現在が
時空を超えて
過去と出逢うとしたら
やり直し という言葉を信じたい
想いと 思い出が スパークする瞬間(とき)
それが「TA MA GO YA KI」
Time Ago Year Key

<出演>
仲原裕之
若林健吾
宮崎卓真(客演)
千葉健玖
高橋里央(客演)
前木健太郎

吉成奨人

宇佐見輝
甲津拓平(客演)

藤原啓児
大村浩司

【公演概要】
日程・場所:2019年7月13日〜7月28日
作・演出:倉田 淳
美術/舞台監督:倉本 徹
照明:山崎佳代
音響:竹下 亮(OFFICE my on)
衣裳:竹内陽子
ヘアメイク:木村真弓
演出助手:宮本紗也加
制作:Studio Life / style office
協力:株式会社トキエンタテインメント 流山児★事務所 style office
TAMAGOYAKI~Time Year Ago Key~公式HP:http://www.studio-life.com/stage/tamagoyaki2019/
スタジオライフ公式HP:http://www.studio-life.com/