《インタビュー》『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』主演(シャーロック・ホームズ役):柿澤勇人

この秋の話題作、三谷幸喜の新作舞台『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』。はシャーロック・ホームズが誰もが知る名探偵になるまでの物語。コナン・ドイルの小説にはない、『もしも』の話を三谷幸喜が創り上げる。その三谷からシャーロック・ホームズ役に推されたのが、様々な舞台で活躍している柿澤勇人さん。オファーの感想から役柄について、3日前から始まった稽古のことなどを語ってもらった。

「これはみなさん、初めて見る物語。『そういうことも有りえたかもしれない』と思うんじゃないかな」

――三谷さんから熱烈オファーを頂いたとお伺いしております。オファーが来た時の感想は?
柿澤:僕が出演していたミュージカル「メリー・ポピンズ」を観に来てくださり、そこからシャーロック・ホームズのイメージが湧いたと聞きました。
――今回の作品はホームズシリーズの最初の作品「緋色の研究」の前日譚ということになるそうですね。ちなみにホームズの作で読んだものはございますか?
柿澤:「空き家の冒険」「緋色の研究」も読みましたし、短編など全部合わせると60個の事件があるので、まだ全部は網羅できてないです。今回の作品ですが、「緋色の研究」の前、221bの部屋に一緒に住み始めて「こんな話あったかもしれない」「こんな話だったら面白いよね」ということを三谷さんが書いてくださっています。これはみなさん、初めて見る物語だと思います。

「天才的な一面が垣間見えたりもしますが、挫折もして、失敗も繰り返して、観ているお客様がシャーロックに対して『頑張れ、頑張れ』って応援してくださるような展開になっていくのかな、と思います」

――本家のホームズシリーズ、描かれている事件も面白いし、ホームズとワトソンが非常に魅力的なキャラクターだからこそ、若き日のシャーロック・ホームズはどうだったんだろう、という想像力が膨らんでくるところですね。すでにお稽古に入っていらっしゃるということですが、ネタバレにならない程度に教えて下さい。
柿澤:最終的にはみなさんが知っている世界的な名探偵シャーロック・ホームズが誕生するところで終わりますが、そこに至るまでの成長が描かれています。天才的な一面が垣間見えたりもしますが、シャーロックが人間的にも探偵としても未熟で、推理も間違った方向にいっちゃったり、感情を制御できなかったりする。観ているお客様がシャーロックに対して「頑張れ、頑張れ」って応援してくださるような展開になっていくのかな、と思います。シャーロックが人間的に、あまりにも欠陥だらけなので、ワトソン始め周囲にいる人々みんなで救ってあげよう、支えてあげよう、そのためにはどうしたらいいんだろう、という構図になっている。あとはすでにワトソンは結婚して奥さんがいる設定になっているので、そこも面白いんじゃないかなと思います。
――本家のホームズ、キャラクターが探偵としては完全無欠なイメージですが、年齢的に若いので、推理の力が弱いとか、変な思い違いをしたりとか、感情が揺れ動くとか・・・・・そんな感じでしょうか。
柿澤:はい、本当に揺れ動いていますね。三谷さんから、精神年齢は8歳ぐらいです、と言われています(笑)。常に動いて落ち着きがなくて、10秒もじっとしていられない、自分の周りのことしか目がいかないし、人の話も全然聞いていなくて、コミュニケーションはとれない、そういう意味で全然かっこよくないですね。この物語でも、依頼人が来るんです。それも割とすぐに、解決しそうになるんですが、シャーロックの前に壁が立ちはだかる。「なんでこんなこと、すぐにわかんなかったんだろう」とか、そういう気持ちを吐露したり、推理が完全にひっくり返されたりするので、欠陥だらけですね。それが後半になって、どういう展開になるのか楽しみにしていて下さい。

「三谷組が初めての方ばかりなので、どこかで誰かが弾ければ、それに触発されてどんどん良くなっていくはず。それが稽古場の良さだし、面白いところなので、皆、それが早く産まれるのを楽しみにしていますね」

――共演の佐藤二朗さんがワトソン役、広瀬アリスさんが依頼人役、キャスティングだけでも面白そうだなという『匂い』がしますね(笑)。稽古場はどんな雰囲気ですか?
柿澤:二朗さんは、引き出しもいっぱいあるし、いてくださるだけで面白くって、楽しいです。今回、二朗さんの新しい一面が観られることと思います。ワトソンはシャーロックとの関係性が大事なので、笑いを取りにいくのではなく、皆さんが今まで観てイメージする二朗さんではない気がします。三谷版のワトソンはシャーロックを見守る父性を求められています。二朗さん、実際に繊細であったかいお父さんなんですよ。そういう意味で、僕も演じる中で新しい二朗さんに出会えるのが楽しみです。今は二人でテンパってワタワタとしていますが、役としても必ずいい関係にしたいですし、また役者として、先輩ではありますが、新しい関係性になるんじゃないかなと思っています。
広瀬さんは舞台は2作目だと話していましたが、声もすごく綺麗ですし、存在感があります。依頼人という設定だけではく、これ以上はネタバレになってしまうので言えないのですが、とにかくいろんな面が観られると思います。まだ、みんな探りながら稽古していますが、三谷組が初めての人ばかりなので、どこかで一人が弾ければ、それに触発されてどんどん良くなっていくはず。それが稽古場の良さだし、面白さなので、皆、それが早く生まれるのを楽しみにしていますね。迫田さんと八木さんは三谷作品経験者、はいださんはすごく天然な方で、ムードメーカー的な、ほっこりさせてくれるようなことをいきなり言ったりしますね(笑)。横田栄司さんとはシェイクスピア作品舞台を一緒にやっていて、ここでもとにかく圧倒的(笑)。設定としては決して仲の良い兄弟ではないのですが、栄司さんと楽しみながら探っている状態です。

「ワトソンは確実にシャーロックにとっての一番のキーマンです。」

――ホームズとワトソンので関係性が構築されていくところが観られるのですね。
柿澤:そうです。なぜ、ワトソンが傍にいてくれるのかというと、シャーロックの欠点をワトソンが父のような愛を持って見守っている。シャーロックは常にワトソンが一緒にいてくれないとダメになっちゃうように描かれています。それが二幕にどう変化するのか、そこは舞台で確かめて欲しいところです。ワトソンは確実にシャーロックにとっての一番のキーマンですね。

――三谷さんの演出はいかがでしょうか?
柿澤:今はとにかく「まずはちょっとやってみようか」っていう感じです。皆、個性とか特徴もありますので、何も細かく言わずに、三谷さんが「どういう風にみんなが動くんだろう」と、それを探っている感じがしますね。厳しくもなく、ピリピリもしてないですし、笑いに包まれている稽古です。全力でやって、三谷さんが求めていらっしゃる、描いてらっしゃる画にはまる、はまれるようにしたいですね。
――新しい座組で集まると化学反応っていうんでしょうか、変わってきますので、そういうところを見ながらやっていらっしゃるのでしょうか。
柿澤:そうですね。現在は僕も含めてまだ皆さん、台本をもらって3日なので今は覚える作業、台本を外して動けるようにならなければいけない。僕も二朗さんも動きたいんだけど今は台詞が出てこない、赤ちゃんみたいな状態ですが、初日にはお客様にお見せできるように頑張っております。

――最後に、見に行こうと思っているお客様に向けて一言。
柿澤:シャーロック・ホームズを知っている方だったら、皆さんが知っているかっこいい、完璧な名探偵が誕生する瞬間に出会えることができますし、欠陥だらけのひとりの男が、どうやって、どういうプロセスで名探偵になったのか、という成長物語としても楽しめます。実際に一幕の時点では、お客様が「え?どういうこと?」と、ちょっと推理したくなるようなことや「『あの人』が登場した時から始まっていたの?」とか、いろいろ考えさせられるような作品になっていますので、シャーロック・ホームズを知っている人も知らない人でも楽しめると思います。僕としてはシャーロック・ホームズはみんなに愛されて、天才名探偵になったというところを見せたいなと思います。そして後半は(台本が届くのがこれからなので)どうなるのかわかりませんが、必ず「楽しかった!」って思っていただけるような作品にしたいですね。
――ありがとうございます。公演を楽しみにしています。

<キャスト>
柿澤勇人、佐藤二朗、広瀬アリス、八木亜希子、横田栄司、はいだしょうこ、迫田孝也
【公演概要】
日程・場所:2019年9月1日〜9月29日 世田谷パブリックシアター
大阪、福岡公演あり
作・演出:三谷幸喜
音楽・演奏:荻野清子
企画制作:ホリプロ
公式HP:https://horipro-stage.jp/stage/sherlockholmes2019/
取材:Hiromi Koh