舞台「夕-ゆう-」歳月を重ねても人が人を想う心は変わらない。

”舞台「夕-ゆう-」”は、 2003年に劇団「東京セレソンデラックス」にて初演。 その後、 2005年、 2008年、 さらには2014年には「タクフェス」第二弾として再演されている名作。 また、主題歌として注目のバンド”EOW”が書き下ろした「U」にも注目したい。
舞台上には物語の場所、民宿「あいかわ」、実は宅間孝行の作品の大きな特徴がワン・シュチュエーション、つまり場所は固定されており、そこにこだわりを感じる。
開演前は海の音、カモメの鳴く声が響く、簾にピンクの公衆電話、うちわにちゃぶ台、扇風機、古そうな木造建築な民宿という風情だ。
そこへ喪服を着た女性が入ってくる。そして楽天イーグルスのユニフォームを着た男性がやってきたり。そしてオレンジ色のトップスを着た女性が入ってきて懐かしそうに部屋を見渡す。そこで白い鉢巻で髪を金色に染めた男が窓から入ってきてあれやこれやと楽しそうに長崎弁でしゃべる。この二人、物語の主な登場人物である元弥(伊崎右典)と夕(石井美絵子)。
そして暗転の後、時間軸が遡る。昔、懐かしい、いわゆるヤンキーファッション、ズボンはだぶだぶ(「ボンタン」と呼ばれていた)でカバンはぺしゃんこだ。このファッションが流行っていたのは70年代の終わりから80年代。『ツッパリ』とも呼ばれていたが、ある程度の年齢の観客は「横浜銀蝿」などを思い出すだろう。そしてアイドルといえば、おニャン子クラブが人気を博しており、テレビ番組は「笑っていいとも」が大人気。髪型はリーゼント、粋がって睨んだり、ヤンキー言葉、劇中では「タイマン」「夜露死苦」というセリフも飛び出す。女の子たちはセーラー服におさげ髪。民宿の親父さんとお母さん、近所のおばさん。なんということもない日常、人間関係や淡い恋心も透けて見える場面だ。皆、楽しそうにおしゃべりしたり、ふざけあったり。まさに『青春!』なシーン、この民宿の次男である元弥は薫(今野杏南)が好きなのだが、薫は元弥の親友の塩屋憲太郎(時人)が好き、薫の友達の夕は元弥が好き、という客席から見るとなんとももどかしい関係なのだが、お互いを思いやり、絶妙なバランスを保ちつつ、それでも言いたいことを言い合える仲。「薫と付き合いたかった」と元弥、それに対して夕は「元弥のバーーーーカ」、元弥は「おいは絶対に諦めんけんね!」といい夕は再び「バーーーカ」と言い返す。夕の気持ちを思うとちょっと切ない瞬間だが、空気感は温かい。

この民宿の兄弟、相川欣弥(中村祐志)、 元弥、 雅弥(國島直希)、揃いも揃ってヤンキー、「長崎のキングギドラ」の異名を持っており、地元ではちょっとした有名ヤンキー。見た目はドン引きだが、純情で素直、その性根は皆、承知。そんな彼らの織りなす恋模様、年月が経っても見た目が変わっても時代が変わっても、根っこは変わらない。結婚したり、就職したり、都会に出て働いたり、バブルが崩壊したり、時代は意外とドラスティックに変わっていく。そして時間が経って気が付いたこともある。
そして暗転の度に時間が変わる。部屋のポスターが変わり、登場人物のファッションも変わることによって「今、この時代」とわかる仕組み。もはや『絶滅』したガングロギャルも登場するし、セリフで時代もわかる(証券会社の倒産とか)。そういった小ネタをあらゆるところに仕込みながら、登場人物たちの心模様を描いていく。こういったところが宅間孝行脚本の『マジック』だ。

ラストはまた最初の『時間』に戻るのだが、これが切なく、そして温かい。夕の気持ちに心が熱くなる。特に大きな事件も起こらず、何かが大きく変わるということもない。日々が過ぎゆき、歳をとり、子供が生まれたり、ごく普通の営み、そこにドラマがあり、心があり、思いやりがある。奇をてらわないオーソドックスな演出も作品世界にマッチする。そして俳優陣のチームワークの良さでストーリーは元弥と夕が主軸ではあるものの、群像劇的な部分もある。
最後に主題歌「U」が流れるが、キャッチーでPOP、『やり直せたら・・・・・』と歌う。人生は長いようで短く、『ああすればよかった、こうすればよかった』の連続だ。そんな切ない気持ちと歌がリンクする。見終わった後は心にささやかで温かい灯がともる。公演は8月18日まで、シアターサンモールにて。

○あらすじ
AKBではなくおニャン子、バイキングではなくいいとも、iPodではなくカセットテープ
Appleではなく、 みかん箱….そんな古き良き1980年代の長崎から物語は始まる。
舞台は長崎のとある町にある海の家兼民宿「あいかわ」そこに住むヤンキー兄弟、 相川欣弥、 元弥、 雅弥の3人。 地元では「長崎のキングギドラ」の異名で恐れられていた。
そして、 底抜けに明るくて底抜けにおバカな次男坊、 元弥こと「もっちゃん」に淡い恋心を寄せる隣に住む幼馴染の三上夕。 伝えたいけど伝えられない青春の片想い真っ只中!! でも、 そんな想いを知らない元弥はよりにもよって夕の親友である高橋薫に夢中。 そんでもって薫はというと元弥の親友の塩屋憲太郎に恋をしてしまっているもんだからもう大変!なんとまあ綺麗な四角関係!そして、 青春時代の甘酸っぱい想いを抱えたまま大人になっていく夕たち。 それぞれの初恋はどんな結末を迎えるのか、 伝えきれず言葉に出来なかった想いの行方は…
一見どこにでも、 誰にでも経験のあるような青春ラブストーリー。 しかし、 最後は思いも寄らぬ衝撃の展開!感動の嵐!!
この作品を見終わったあとのあなたはきっと、 大切な人に大切な言葉を伝えたくなることでしょう。 最後はそんな気持ちにさせてくれる最高に切ない、 最高の夏の物語‘夕-ゆう-’

<キャスト>
相川元弥:伊崎右典/三上夕:石井美絵子/高橋薫:今野杏南/塩屋憲太郎:時人
相川雅弥:國島直希/信子:藤本かえで/三上波:水原ゆき/宇津見緑:酒井萌衣
徳永さん:菅野勇城/坂田:大川慶吾/ガリバー:坂本康太/三上静子:八福☆みずほ/
相川欣弥:中村祐志/相川浩子:篠原あさみ/相川登:三又又三

【公演概要】
上演スケジュール 8月7日(水)~18日(日)計15公演
8月7日(水)19:00
8月8日(木)19:00
8月9日(金)19:00
8月10日(土)13:00/18:00★
8月11日(日)13:00/18:00★
8月12日(月)休演日
8月13日(火)19:00
8月14日(水)14:00★
8月15日(木)19:00
8月16日(金)19:00
8月17日(土)13:00/18:00
8月18日(日)12:00/16:00
★はアフタートークショーを予定しています。
※受付開始・ロビー会場は開演60分前、 開場は開演30分前
○舞台「夕-ゆう-」公式サイト
http://www.yuu-stage.net
○舞台「夕-ゆう-」公式Twitter
https://twitter.com/yuu_stage55
主催:TAG

取材・文:Hiromi Koh