アップダウン二人芝居 音楽劇「桜の下で君と」叶わなかった夢、”また、必ず会おう” 散りゆく桜、ずっと伝えたい想いがある。

お笑いコンビ、アップダウン二人芝居 音楽劇「桜の下で君と」が上演中だ。この芝居は太平洋戦争末期の特攻隊を描いたものではあるが、単純な戦争反対といった内容ではない。
出だしはアップダウンのお笑いから始まる。ボケたり突っ込んだり、お笑いのライブである。自己紹介的なネタがあり、また最近の出来事や時事ネタを織り交ぜて楽しいトーク、ラグビーのワールドカップの話題など、『これが特攻隊の芝居なのか・・・・?』的な出だしだが、桜の話題になり、桜の名所で有名な靖国神社の話に。

そしてお笑い終了、「お疲れ様でした!」と元気よく。そして竹森が「伝えなければいけないことがある」と言い出す。鹿児島の知覧に行ったという竹森。
1941年、知覧に陸軍知覧飛行場が完成、その後、太平洋戦争(大東亜戦争)末期の沖縄戦では、知覧飛行場は本土最南端の神風特別攻撃隊の出撃地となった。知覧特攻平和会館に行った時の話をする竹森。「知覧って知らん?」と竹森がいえば、阿部は「知らん」と返す。そこには多くの手紙や遺影などの多くの遺品が展示されている。また竹森は靖国神社の桜の話をする。「たったの74年前に起こった話だよ」と言い、「戦争っていう暗いテーマにお笑いを盛り込めば伝えられる」と竹森は力強く語り、「俺たちにしか伝えらえない方法がある」と言う。竹森は資料やらなんやらを舞台に持ってくる。「特攻隊の年代って10代後半から20代前半だ」と言い、「どういう思いだったのか・・・・・・笑いもあった、涙もあった・・・・・届けて行こうぜ」と竹森、それに対して阿部は「よーーし」と答える。


そして歌いながら着替えをし、特攻隊の二人組が舞台上に。二人が演じるのは29歳の関根中尉と、18歳の少年飛行兵。歌あり芝居あり、シリアスな題材であるが、笑いを交えながら進んでいく。少年兵は寝坊する。「寝坊した理由を言え!」「襲われました」「何に?」「睡魔」「バカ!」、ついつい笑ってしまうやり取りだ。歌が時折挿入される。「天皇陛下のため」「お国のため」と言って戦争に行った人々。少年にはさちこと言う恋人がいた。ここで・・・・・さちことのシーン、しかし2人芝居なのでさちこ役は?????竹森がカツラをかぶって(もう一回、カツラかぶる!)!ここはもう笑うしかないが、笑いの中に切ないものも感じる。


戦争を題材にした芝居、ずっと辛いシーンや泣きたくなるシーン、死ぬシーンの連続を想像しがちであるが、観客は彼らは自分たちと同じ普通の人々なのだと認識する。普通に恋をして、失敗して、ちょっとしたことで楽しくなったり。我々と違うのは生きた時代、戦争に参加し、死ぬことが運命づけられていた、ということ。つい、先日まですぐそばにいて楽しく笑いあっていた仲間が『戦死』していなくなる。「なぜ、先に逝く」と歌う。切なくなる瞬間だ。そして・・・・・。2幕の冒頭では手紙が読み上げられる。

当時の特攻隊の手紙、母親宛だったり、兄弟宛だったり。一生懸命な気持ちの中に、行間に言葉にならない、彼らの無念さも伝わる。そして2人はいよいよ出撃する。最後に食べたいものが・・・・庶民的。翌日、遺書をしたためる二人。芝居とわかっていても、特にこれは劇中劇の形式、「生まれ変わって、やりたいことを思いっきり!」「清らかな桜の花になる」「また、必ず、会おう」、そして出撃・・・・・・・。

舞台には何もない。BOXがいくつかあるだけ。映像はほぼ使用しない。よく見る資料映像もない。たった二人で見せる、二人の特攻隊の人生。生まれたのが早かったから、だから戦争の渦に巻き込まれる。もっと生きていたい、恋もしたかった、やりたいことをやりたかったが叶わなかった。

この知覧から1000人以上の若者が飛び立っていき、戻ってこなかった。お笑いコンビらしいテンポの良さ、そしてダジャレ、ツッコミ。笑いつつも、涙、そして心に響く彼らの生き様。シンプルでありながらもしっかりとテーマを見せる。アメリカ兵も多く亡くなっている現実。沖縄戦では多くの人々が犠牲になった。あと少しで戦争が終わる、という時に。「74年前の話だ」という竹森。まだ100年も経っていないのだ。「ずっと伝え続けて行こうぜ!」と言う。

これは死んでいく人の話ではなく、短いながらも生き抜いた人々の話。明快な構成、ストーリー、しかし、描かれていることは深淵だ。運命、残酷なものだ。この特攻隊の人々も現代に生まれていたら、と思うと切ないし、もし、自分がこの時代に生まれていたらどうなっていただろうかと考える。平和な世の中であろうと戦争中であろうと人々の営みは変わらない。散り方は様々、どうせ散るなら美しく散りたい、かっこよく散りたい、穏やかに散りたい、いろいろ。観る人々の心模様は様々、この作品は多くのものを観客に語りかけてくれる。アップダウンの熱演も必見!濃密な空間らしいパッションに客席は包まれ、笑って、笑って、泣けること必至。劇中で自分で自分の役を演じる、という演劇的マジックも心憎い設定だ。
公演日程が短いのが残念だが、札幌で追加公演も決定したとのこと。そっち方面の方はぜひ!

<あらすじ>
お笑いコンビ アップダウンの竹森と阿部は、今日も劇場での本番を終えるが、自分達の笑いに何か釈然としないものを感じていた。
そんな時、突然竹森が「特攻隊の芝居を作ろう」と言い出す。命をかけて戦った人達のことを笑いになどできない、と反対する阿部だったが、竹森の「一人一人が短い人生を懸命に生きて、そこには笑いも苦しみもあったはず。死にゆく話ではなく、何を考えどう生きたかを描くのは、芸人も同じではないか」という言葉に押され、二人芝居を作ろうと決意する。
調べるうちにひとつの記録が目に止まる。それは、鹿児島の知覧飛行場から昭和20年5月28日に出撃した一機の二人乗り戦闘機、29歳の関根中尉と、18歳の少年飛行兵であった。
彼らはいかにして二人で同じ飛行機に乗り込み「その日」を迎えたのか…
二人のお笑い芸人の、人生を賭けた挑戦が始まる。
つまり、劇中で「自分自身」の役を演じるということなのである。

【公演概要】
アップダウン二人芝居
音楽劇「桜の下で君と」
会場:
溝ノ口劇場
https://www.mizogeki.com/access
日程:
8月23日
8月24日
8月31日(追加公演)
★札幌公演決定!:2019年11月4日
主催:
アップダウン二人芝居実行委員会
kai.hokkaido150@gmail.com
アップダウン二人芝居ホームページ:
https://updown-kai.amebaownd.com/
出演・演出・脚本:アップダウン(竹森巧・阿部浩貴)
脚本・劇中歌作曲:まきりか
演出監修:山下哲也
原案:竹森巧
ビジュアルデザイン:阿部浩貴
テーマソング:「愛しき人たちへ」 作詞・作曲 竹森巧