市川猿之助、中村隼人主演 スーパー歌舞伎II( セカンド) 『新版 オグリ』左右同時宙乗り!10トンの水で大立ち回り!”人は幸せになるために生まれてきた”、だから一生懸命に生きる!

平成3年に梅原猛と市川猿翁がつくり上げ、演劇界に新風を巻き起こした伝説のスーパー歌舞伎『オグリ』。その斬新さとスペクタクルな演出で話題騒然な舞台であったが、その創造の心を継承し、全国動員数40万人を達成した大ヒット作スーパー歌舞伎II(セカンド)『ワンピース』に続き、今回も日本を代表するクリエイティブスタッフが集結。原作は梅原猛、脚本は横内健介、演出は市川猿之助に木ノ下歌舞伎で成果をあげている杉原邦生、スーパーバイザーに市川猿翁。このスーパー歌舞伎屈指の人気作が、装いも新たに『新版 オグリ』として令和元年に再び!新橋演舞場に!
市川猿之助・中村隼人の小栗判官役 交互出演、そして新橋演舞場初の客席左右同時両宙乗り、最新技術を駆使、かつてないスケールでお贈りする、夢と浪漫、そして 壮大なスペクタクルがあふれる超大作活劇。
オープニングは幻想的、客席通路から手に提灯を持ったキャストたちが登場する。舞台にも灯り、そして!いきなり!桜吹雪(ブリザード並!)が!こういった演出はラストに使用するのだが、ここではしょっぱなから!さすが、スーパー歌舞伎、やることが奇想天外。人々はオグリ(市川猿之助・中村隼人/ゲネプロ撮影時は市川猿之助)のように生きてみたいと願う。オグリは自由な精神の持ち主で「人は幸せになるために生まれてきたのだ」が持論だ。仲間たちもそんなオグリが大好きだ。そんな折、輿入れの行列が・・・・・「その行列、とまれ!」見た目はちょっと不良っぽい小栗党の面々、照手姫(坂東新悟)を輿入れ行列から奪う。照手姫は望まない結婚が控えていたのだが、ここでオグリに強く惹かれてしまう。「自由に生きろ」というオグリ。

しかし、父である横手修理(市川 男女蔵)は、もちろん許すはずもなく、オグリを殺してしまおうと画策する。二人の幸せは一瞬で終わる。刺客を送り込んでオグリ以下、全員を殺してしまったのだった。一気に不幸のどん底に陥る照手姫。しかも破談の償いとして照手姫を処罰するように迫られる横手修理。照手姫を相模川に沈めようとするも鬼王(石黒英雄)と鬼次(市川 弘太郎)は照手姫を助けてしまうのだった。
現世とあの世に別れ別れになってしまったオグリと照手姫、この2人を中心にストーリーが動いていく。芯になっているテーマは『自由に生きる』『人は幸せになるために生まれてきた』ということ。今まで親や家に縛られていた照手姫、オグリとの悲しい別れのあとは実にたくましく生きていく。笑顔を絶やさず、近江屋の下働きになっても楽しく仕事をこなし、いつしか店にはなくてなならない存在になっていた。一方のオグリたちは閻魔大王(浅野 和之)のところにいくも、彼らはぶれることなく、威勢もいい。地獄で大暴れ!さて照手姫は?オグリは?仲間たちは?が大体の流れだ。
とにかく、スーパー歌舞伎らしい派手かつ華やかな演出、「オグリ」の初演時はまだ映像を舞台では使用していなかった時代、とにかく圧倒的なマンパワーでのステージング、今回は舞台の技術革新が進み、最新映像に凝ったライティング、これに『これでもか』と言うくらいのマンパワーを掛け算する。もう観たことのない光景が次々に目の前に。幻想的なシーン、例えば、照手姫が相模川で流されるシーンでは大きな月の映像が印象的、その光景は映画のワンシーンのように計算され尽くした美しさ。またコミカルでシニカルな味付けもあり、こういった場面では客席からゲネプロにもかからわず、笑い声があちこちで!

2幕の冒頭ではおばあさんたちが手にはスマホ!しかも昨今、問題化している歩きスマホ!舞台中央のスクリーンにはツイッターやらラインやらの書き込みが映し出され、どんどん話が盛られていき、照手姫を拾った爺(石橋 正次)の妻のフグ婆(下村青)もどんどん疑心暗鬼にかられていき、小屋に放火してしまう下り(小屋も炎上、ラインやツイッターも炎上!)は、皮肉たっぷり!風刺も効いてなかなかに秀逸。また、地獄でのオグリたちの大暴れのシーン、小栗党と地獄軍との戦い、閻魔堂崩壊シーンはさしずめ、『21世紀版屋台崩し』、ここはスペクタクルでダイナミック、そして2幕の幕切れは本水を使った大立ち回り。これは、もうファンは『待ってました!』状態。10トンの水!前列は絶対に濡れる!ここでの立ち回りは皆、力いっぱい!もうジャブジャブ!わざと大きく水をはねあげたり!全員ずぶ濡れで大奮闘!

そして3幕は一転して静かなシーンから。幕が上がると、そこは荒地。花道より遊行上人(市川猿之助・中村隼人/ゲネプロ撮影時は中村隼人)がやってくる。稲妻が!舞台中央の墓には餓鬼病の姿になってしまったオグリが・・・・・・。ここはジーンとくる場面。変わり果てた姿に小萩と名を変えた照手、彼だとは気がつかず、オグリも最初は小萩が彼女とは気がつかなかったが・・・・・・・そして・・・・・・・衝撃のラストへと向かっていく。見所はスーパー歌舞伎初のWでの宙乗り。左右同時宙乗り、オグリと遊行上人とオグリが馬に乗って!スーパ歌舞伎ならではの演出だ。

 

そして華やかで歓喜に満ちたラスト、美濃の国、新しい国守がくるということで戦々恐々とした人々、やってきたのは・・・・・そしてオグリは照手に再び!そして客席を巻き込んで!会見時に市川猿之助が宣伝していた腕に巻く光るバンドを!ぜひ!縦ノリで!なんでもありなラスト!初演も驚きの連続の舞台であったが、こちらは21世紀らしく最新技術を取り入れて、そして現代ならではの細かいネタも散りばめ、スーパー歌舞伎らしい遊び心と冒険的な演出、わかりやすく明快なストーリー、元々は小栗判官は、伝説上の人物。これを主人公として日本の中世以降に伝承されてきた物語で、妻・照手姫の一門に殺された小栗が閻魔大王の計らいで蘇り、姫と再会し、一門に復讐するという話で、説経節の代表作であり、浄瑠璃や歌舞伎などになって、今日まで上演されている。小栗城の城主である常陸小栗氏の小栗満重や、その子・小栗助重がモデルとされている。様々なエピソードがあり、このスーパー歌舞伎以外にも2009年には宝塚歌劇団により『オグリ! 〜小栗判官物語より〜』が上演されており、2014年のオペラシアターこんにゃく座公演・オペラ『おぐりとてるて』などもある。また、1990年には近藤ようこの手によって漫画化(『説教小栗判官』)もされている。

なお、5日の夕方からのゲネプロの前に囲み会見が執り行われた。登壇したのは市川猿之助と中村隼人。ポスタービジュアルの出で立ちで!この日の早い午前には中村隼人・オグリでゲネプロもあり、まさに大忙しの初日前日。
この初日前の気分を市川猿之助は「独特のヒリヒリした・・・・・高額のスロットマシンで勝つか負けるかの気分(笑)」とコメント。中村隼人は「非常に楽しみ。今までにないスーパー歌舞伎です」と意気込む。今回、小栗党はかなり現代風でストリートファッションを衣装に取り入れており、ちょい悪風なかっこよさがある。猿之助は「今回は人情劇として作っています」と語るが、人の心を全面に押し出した、単なるペクタクルであっと驚く!なだけではなく、エモーショナルなシーン、セリフもふんだんに散りばめられている。猿之助は「皆いい個性で・・・・・・稽古初日から断然よくなっている」とキャスト陣に対して太鼓判。登場人物一人一人の個性が光り、サイドストーリーも充実、泣けたり共感できる話を散りばめてあるので、こちらも注目したいポイント。そして「映像と鏡を使っています・・・・・・芝居力がもろに出ます、必要以上のことを要求しています」と語るが、段取りだけでも多く、そして芝居も!稽古は充実したものであったのと同時に大変な作業であったことがうかがえる。そして猿之助はさらに「20数年前にやりたかった演出、映像を使って・・・・・令和になってやっとおじのやりたかったことができるようになりました」としみじみ。初演当初は、まだ映像を演劇で使用する技術がなく、全てがマンパワー、やりたくてもやりきれなかった演出もあったに違いないが、今は21世紀、来年は2020年、演劇は演出面では映像や照明などハイテク面では格段に進歩、10年前にはできなかったことが今では軽々とできてしまう。初演も観客の度肝を抜いたが、今回はさらに上を行く演出。テーマについて猿之助は「人は幸せになるために生まれてくる、そこを描きたい、シンプルですが」と語る。

そして最後のフィナーレなシーンで使用する光るバンドの宣伝!「電池を入れ替えれば繰り返し使えます!出演者は皆つけますので!」と猛烈アピール(笑)。中村隼人は「今回、初めての2人での宙乗りです。またLEDのパネル、映像表現、みてください」とアピール。猿之助は「10月9日、忘れもしません。でももう腕は大丈夫。もう一度やったら自己責任です、まずは安全に」といい、最後に「全てはお客様の歓喜のために!感謝と愛の物語です。一体となって!ぜひ、劇場へ」と締めくくって会見は終了した。
公演は10月6日より11月25日まで!

<物語>
武芸学問に通じた美貌の若者、藤原正清後に小栗判官=オグリ(市川猿之助・中村隼人)は、縛られることを嫌って心のままに生き、集まった若者たちとともに自らを小栗党と称していた。ある日小栗党は、横山修理の娘、照手姫を輿入れ行列から奪い去る。照手姫とオグリは強く惹かれ夫婦となることを誓うが、修理は二人の仲を許さず、オグリたちは殺され、照手姫は川に流されてしまう。閻魔大王の前にやってきたオグリたちは地獄で大立廻りを繰り広げるが、ついには捕えられ、オグリは顔も手足も重い病に侵された姿で娑婆に送り返される。
生き返ったオグリは、遊行上人(市川猿之助・中村隼人)の導きで善意の人が曳く土車に乗り、熊野を目指すこととなる。その道中、照手姫と再会するが、姫はオグリに気づかず再び別れていくのであった。果たして二人は再び会うことができるのか、オグリの旅の行く先は—

【公演概要】
スーパー歌舞伎II(セカンド)新版オグリ
日程・会場:
10/6(日)~11/25(月) 新橋演舞場
原作:梅原 猛
脚本:横内 謙介
演出:市川 猿之助 杉原 邦生
スーパーバイザー:市川猿翁
出演:
藤原正清後に小栗判官/遊行上人 市川 猿之助(交互出演)
藤原正清後に小栗判官/遊行上人 中村隼人(交互出演)
照手姫 坂東 新悟
小栗一郎 市村 竹松
小栗二郎 市川 男寅
小栗三郎/山賊 市川 笑也
小栗四郎 中村 福之助
小栗五郎/山賊 市川 猿弥
小栗六郎 中村 玉太郎
鬼次/銀鬼少将/商人 市川 弘太郎
カメ婆 市川 寿猿
金坊 市川 右近(交互出演)
大納言の妻/閻魔夫人 市川 笑三郎
横山修理太夫/長殿 市川 男女蔵
鷹乃/薬師如来 市川 門之助

翁 石橋 正次
フグ婆/女郎屋女将 下村 青
鬼王/赤鬼大将/女郎千早 石黒英雄
横山家継/鬼頭長官 髙橋 洋
高倉久麿/黒姫/女郎蒲公英 嘉島 典俊
閻魔大王 浅野 和之
<新橋演舞場以降の公演予定>
日程・場所:
2020年2月4日 (火) 〜 2月25日 (火) 博多座
2020年3月4日(水)~26日(木) 南座

公式HP:https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/622/
取材・文:Hiromi Koh