圧倒的な光と音と声の融合でスペクタクルなパフォーマンスを実現した 新感覚・音楽朗読劇『SOUND THEATRE × 火色の文楽』

単なる朗読劇の域を越えて、舞台美術や照明、特殊効果、衣装などにもこだわり、五感を刺激する要素をふんだんに取り入れながら観客の想像力を限界まで刺激しようとする試みの新感覚・音楽劇“サウンドシアター”である。
その最新作『SOUND THEATRE×火色の文楽』が10月5日(土)と6日(日)の二日間、舞浜アンフィシアターにて公演。
今回の原作となる『火色の文楽』は、第22回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門にて審査委員会推薦作品に選出された北駒生による同名コミックで、その題材は人形浄瑠璃・文楽に青春をかけた若者たちの物語だ。
初回直前の5日12時半から同劇場にてゲネプロが行われたが、伝統的“和”の文化と現代の若者たちの青春群像の融合に興味津々ではある……。

と、ゲネプロ開始となった直後、主人公の迫弓矢を演じる天﨑滉平がいきなり「すみません! 第2部の台本持ってきちゃいました!」と大きな声で叫び、スタッフもキャストも思わず吉本新喜劇のようにドドッとずっこけるハプニングが!?

主演の大任で緊張していたのか、平謝りの天﨑ではあったが、逆に周囲も緊張がほぐれたようでみなさん微笑ましくドンマイ・モード。
「いいよいいよ、こんなときのためのゲネプロなんだから」のスタッフの返事で場はさらに和み、天﨑の緊張も解けたようだ。

気を取り直して今一度、最初からゲネプロ、スタート!

『緋色の文楽』のストーリーは、「バレエ界の星」として将来を期待されながらも練習中のけがでその夢を絶たれた少年・迫弓矢が、幼馴染の少女・入江湊(朗読:日笠陽子)が人形浄瑠璃・文楽の舞台へ誘う。

そこで港の祖父・藤竹潮路太夫(朗読:てらそままさき)の声に心震えるものを感じた弓矢は、再び希望を取り戻し、彼の弟子に。

まもなくして弓矢は三味線奏者の弦治(朗読:熊谷健太郎)や人形遣いの柑太(市川太一)、やはり人形浄瑠璃に夢を馳せる若者たちと出会い、共に切磋琢磨しながら成長していく。もがきながらも輝きを放つ「火」となるべく……。

その他、井上和彦や秋元羊介、高橋広樹、植田佳奈を入れて総勢9名の声優による朗読は、当然ながら淀みなくテンポよく、口跡も明瞭で実に聞き取りやすく、思わず目を閉じて聞き惚れていたくなるほど。

しかし、目を閉じるわけにはいかない。この“SOUND THEATRE”、シーンに応じてさまざまな視覚効果が採り入れられており、特に照明がそのつどそのつどキャラクターの心情に合わせながら豪華絢爛に光り放たれていくとともに劇へのスペクタクル性を増大させてくれる。

また光あるところには影もできる道理で、ここではまばゆい光によってキャラクターがシルエットになってはその存在を強くアピールしていく趣向が美しくもダイナミック。
音の面も音楽監督:土屋雄作の指揮の下、弦楽ユニットに三味線や和太鼓を加えた和洋折衷の生演奏が実にユニークで、声優陣の朗読との調和も巧みに図られている。

こうした朗読と音楽と光、その他の特殊効果の融合によって、やがては宙を照らす光の膜をスクリーンにしながら『火色の文楽』のドラマ映像が見えてくるかのような臨場感すらもたらしている。
そして実際の演者による人形浄瑠璃・文楽のお披露目は圧巻としかいいようがないほどで、歌舞伎にしろ能にしろ、とかく自国の伝統芸能に疎くなりがちな日本人に、こうしたアプローチは親しみやすくも魅力的に「和」の文化を伝える術にも成り得ているようにも思えてならなかった。

朗読陣としては、やはりほぼ全編しゃべりっぱなしで、しかも浄瑠璃の発声にも果敢に挑んでいる主演の天﨑滉平に敢闘賞を贈呈したくなるほどの好演。日笠陽子の声の明瞭さも気丈なヒロインに良く似合う。

また特筆すべきはてらそままさき、井上和彦、秋元洋介といったベテラン勢で、彼らが何か一言発しただけで場の空気が変わるほどの説得力に、日本の声優文化の真価を改めて実感させられるほど(井上和彦のオウムの鳴き声も素晴らしかった!)。
正直、“サウンドシアター”は初体験だあったこともあって、舞台が始まるまではちょっとゴージャスな音楽朗読劇くらいにしか捉えてなかった己を恥じたくなるほどにゴージャスかつダイナミック、それでいて青春の繊細な想いを逃すことのないパフォーマンスに圧倒されっぱなしなのであった。
やはり何でもこの目で耳で接してみないとわからない。そして「次は文楽を見に行ってみようかな」と、おそらくは大半の観客が上演終了後にふと思うことだろう。

【公演概要】
日程・場所:2019年10月5日、6日 舞浜アンフィシアター
朗読:
迫 弓矢:天﨑滉平
入江 湊、他:日笠陽子
柳川 弦治、他:熊谷健太郎
大楠 柑太:市川太一
藤竹潮路太夫:てらそままさき
松永珠市、他:井上和彦
蓮本光臣、他:秋元羊介
菊元千鳥太夫、他:高橋広樹
末広 蕗、他:植田佳奈
原作:北駒生「火色の文楽」(ゼノンコミックス/ノース・スターズ・ピクチャーズ)
脚本・演 出:キタムラトシヒロ
公式HP: http://hiiro-no-bunraku.soundtheatre.jp
©北駒生/NSP 2017

取材:増當竜也