《舞台写真追加》草刈民代×髙嶋政宏『プルガトリオ-あなたと私のいる部屋-』密室にいる男と女、立場が逆転し、さらにリバース、2人は何処へ?見える景色は?

二人芝居『プルガトリオ-あなたと私のいる部屋-』が幕を開けた。戯曲『死と乙女』『谷間の女たち』などで世界的に著名なチリの劇作家アリエル・ドーフマンによる戯曲で草刈民代が上演を企画、共演には高嶋政宏、脚色は映画監督・周防正行。企画から実に2年の歳月をかけてようやく上演にこぎつけた。
舞台上は、どこかの監獄のようで部屋にはパイプベッド、金属製の椅子が2脚、天井近くに小さな鉄格子の窓、ドアは1つ、そして監視カメラ。どこか寒々とした部屋だ。音楽が鳴り、ベッドにはシンプルな服を身にまとった女(草刈民代)、座っているが表情はどこか思いつめたような、暗く、何かを考えているようだ。男(髙嶋政宏)、白衣を着て、メガネをかけているが、服装がどこか近未来のような雰囲気もあり、首までピシッとボタンを止めている。

 

男は女に尋問する。密室にたった2人。会話をするも女は冷たい。男は少し柔らかい、だが、どこかとぼけたような、不思議な空気感をまとっているのに対し、女は気持ちがピン張り詰めている印象、対照的な2人だ。男は質問する、女は答えるも攻撃的。「彼は愛している」「愛していないわ」、そして「運命づけられているのよ・・・・・・・生まれるずっと前から!」女の怒りがある程度、『沸騰』した直後に暗転し、立場は逆転する。女は白衣を着てメガネをかけている。男はメガネはなく、シンプルな服に身をまとっている。今度は女が男を尋問するが、きつい口調でメモをとっている。女は男を論理的に問い詰める、男は少々、のらりくらり。しかし、男の顔つきもだんだんと険しくなっていく。「僕は僕自身が大切、勘弁してくださいよ」「あなたはお母さんがあなたを慰めると信じて疑わない」と女。「嘘をつくのはうんざり」と女。双方とも感情的になっていく。そして暗転、声が響く「お前の方がひどかった」と男の声が・・・・・・・。そして、また男は白衣、女は元に戻り、シンプルな服になる。男は「心神喪失では?」という。そしてここで二人の関係性がはっきり見えてくる・・・・・・最後は・・・・・・・。

対照的な女と男、ただただひたすらに言葉、会話の応酬、そこから透けて見えてくる彼らの性格、立場。女は何かを喪失し、そこからこみ上げてくる怒りとやるせなさと、そしてその矛先を相手にぶつけていく。男は一見柔和で髪を七三に分けて、いかにも分別がありそうに見える。メガネをかけた姿は、本当に良き人物、良き大人に見えているのだが、立場が変わり、最後にまた立場が戻った時、男に中で何かが変わり、何かが暴かれていく。小道具にナイフが出てくるが、これは終始、この物語をつないでいる。最後に女は叫びにも近い口調で「あいつは私から子供を取り上げようとした!」「神と夫に見放された」と。監視カメラ、最初はただそこにあっただけだったのが、ラスト近く、作動していることを示す赤いランプが点滅する。そのカメラに向かって叫ぶ女。おぞましい『事象』が明らかになっていき、それぞれの『仮面』が剥がされていく。

膨大なセリフ、キリキリとした場面があったかと思えば、ごく普通な、ありふれた空気感の場面もあり、登場人物たちの感情や思いが言葉の端々に感じる。設定は特殊ではあるものの、そこに流れている感情は、ともすると大なり小なりの経験はあるかもしれない。立場を入れ替えながら、男と女の『本当の姿』がむき出しになっていく。その過程は、時にはゆっくりと、時には激しく、観る者の感情をえぐっていくような瞬間もある。1時間半弱の1幕物、シンプルでありながらもその奥は深淵で、様々な感情の炎が燃え盛る。その燃え盛る炎の中で2人の『姿』が見えてくる時、観客はこの2人の関係性を知ることになる。男と女、人間と人間、舞台の出だしの音楽がどこか不協和音的、ここで勘の良い観客はきっとラストも想像がついてしまうかもしれないが、そこにいたる過程はきっと想像を超えていくであろう。結果よりも、そこにいたる道筋に人間の業のようなものが透けて見える。
ちなみに『プルガトリオ』とはラテン語で『煉獄』を意味する。カトリック教会の教義では、この世のいのちの終わりと天国との間に多くの人が経ると教えられる清めの期間とされており、煉獄は「清めの火」というイメージで語られる。

ゲネプロ前に会見が行われた。登壇したのは草刈民代、髙嶋政宏、そして脚色の周防正行。企画者である草刈民代は「2年前から準備してやっと幕が上がるな、という感じです。お稽古も積極的に取り組んでいただいて髙嶋さんには感謝しています」と笑顔。それに対して髙嶋政宏は「日本初です」と補足。
周防正行は「二年間準備して・・・・・・・普段、こういうところでは緊張しないんですけど緊張しています!まさか、(96年の映画)『Shall We ダンス?』やって20
数年経ってからこういう舞台作るとは結構!ドキドキしています(笑)」草刈民代は「演出をお願いするバーター先生と出会って、素晴らしい先生で、ぜひ一緒にやりたいと思って、それでこの戯曲が見つかって、それで髙嶋政宏さんにお願いをして、それでこういう形になりました。一昨年に拝見して素晴らしかったので!」、髙嶋政宏は「光栄です!」とコメント。それに対して「仕事の取り組みが素晴らしいし、舞台も素晴らしい」と草刈民代絶賛。「セリフをちゃんといきたものにする、今回のテーマだな」と周防正行。舞台は「初めてです!好きで見ているんですが、映画を選んだ時に舞台は選択肢から外れていました。こういうことがあるんだなって」と照れ笑いしながら語る。
稽古は8月から始めたそう。「ワークショップを10日ぐらいやって、それから稽古」と草刈民代。基本的にはセリフ劇であるが、見所は?と聞かれて「スピード感。そして、チリの人が書いているので、濃いんですよ!男女の関係性の濃さと激しいバトル。ラテンの人じゃないとここまでのパッションは!日本人がやってることの面白さ」と草刈民代がいえば高嶋は「草刈さんの激しさ!こんな!阿修羅(あしゅら)のような女に!すごいです!」と語る。ラスト近くの草刈民代に注目!「こういう役を演じることはなかったので、こういうのができるのはなかなか・・・・・演劇でないとこういう役は演じられないですね。踊りではいろいろやりましたが・・・・・」と笑う。
周防正行は2年の歳月をかけての舞台について「2年間、しつこかったです(笑)」とコメントし、草刈民代も思わず笑う。「やってよかったです」と草刈民代。さらに「(演出家が)ストイックな方なので、レベルも高く、そこに向かっていくのを受け入れてくれた」と髙嶋政宏の芝居に対する姿勢を絶賛。「集中しないとできない芝居」と草刈民代。たった2人、引っ込む瞬間も全くなく、出ずっぱりの1時間半弱の疾走する感情、揺れ動き、その振り幅が次第に大きく激しくなっていく、ここの2人の変化に注目したい。
最後に
「日本初演、みなさん馴染みがないかもしれませんが、スピード感、ユーモアもありますけど、私も髙嶋さんもあまり見せたことのない顔をお見せできると思います。みなさん、ご覧になっていただきたいと思います」(草刈民代)
「日本初演なので、この最初の証人になってもらいたいです。芝居の面白さ、芝居を見ない人にもきてもらいたいですね」(髙嶋政宏)
「2年前からセリフをああだこうだと試行錯誤して芝居の稽古が始まってからもすごいセリフが変わっていく、実は自分の仕事の関係で頭から最後までの舞台を見てないんですよ(草刈民代が「ああ〜」)。これからゲネプロがあって本番ですが・・・・・。そういう意味では楽しみです。それで緊張感があるのかも(笑)劇場で音がついて・・・・ラストがどうなるか楽しみです」(周防正行)
「私、すごい形相で!1時間半!」と草刈民代が締めて会見は終了した。会見が終わってから周防正行、いきなりスマホを取り出し、取材陣を記念撮影(笑)。

<物語>
簡素な白い部屋。尋問なのかカウンセリングなのか。白衣の男が女に問いかける。
女は家族のこと、子供時代のこと、そこで何があったかを話しはじめた。
皮肉とユーモア。その駆け引きからやがて女の本音が浮かび上がる。
同じようにしか見えない白い部屋。白衣の女が入ってくると男に問いかける。
男と女の立場が入れ替わった。男はすべてを剥ぎ取られるように追い詰められる。
男と女は立場を入れ替えながら、二重のらせん階段を登る。
衝撃のラストに向かって

<出演(配役)>
女:草刈民代
男:髙嶋政宏
【『プルガトリオ-あなたと私のいる部屋-』:公演概要】
作:アリエル・ドーフマン
演出:ニコラス・バーター
脚色:周防正行
劇場・場所:2019年10月4日(金)-10月14日(月・祝)東京芸術劇場シアターウエスト
公式HP:https://www.purgatorio-stage.com/
一般発売:2019年7月20日㈯
お問い合わせ:サンライズプロモーション東京
TEL:0570-00-3337(全日10:00-18:00)
協力:オスカープロモーション
制作協力:インプレッション
主催・製作:スオズ
文:Hiromi Koh
撮影:金丸雅代