ミュージカル『薄桜鬼 志譚』土方歳三篇、隊士たちの夢と正義がスパークする

 

 

 

ミュージカル『薄桜鬼 志譚』土方歳三篇、東京公演が無事に終了した。場所は明治座、その名の通り、明治時代に出来た劇場で今年140周年を迎える。つまり明治6年に開業なので、リアルに新選組の何人かのメンバーは【ご存命】だったことになる。

舞台セットは見慣れたもの、幕開きの風の音など、こういった効果音は時代劇らしく、見ている方は『こうこなくっちゃ』と思う。花道のセリから今回フューチャーされている土方(和田雅成)、『THE 明治座』だ。

 

 

 

 

楽曲もかなり変化、振付も前シリーズとは異なり、全体として新しくなった印象。ストーリーは前シリーズの土方歳三篇とほぼ同じであるが、見せ方や楽曲、劇場が変わると全く違った印象になる。舞台上にはおなじみの隊士たち、ピンスポットが当たり、それからそれから一旦はけて再び登場。三味線メインの間奏のところで千鶴(森莉那)登場、風間千景(中河内雅貴)との二重唱は聴かせどころ。風間千景役の中河内雅貴は多くのミュージカルで活躍中、流石の歌唱力。風間千景を中心とする【鬼】関係、キャスト一新、人間ではないので、その卓越した運動神経で魅せる。特に不知火匡役の校條拳太朗の高度なダンススキルを活かした動きはなかなかのもの。

 

 

 

場面は変わり、明治10年。動乱の時期も過ぎ去り、落ち着いてきた頃、大鳥圭介(橋本汰斗)は雪村千鶴に「君の話を聞かせてくれないか」と言う。彼が聞きたいのはもちろん、新選組のことだ。大鳥圭介は幕臣で五稜郭で降伏し、投獄されたが特赦によって明治5年に出獄、類まれなる秀才で、その後は政府に重用され、明治33年には男爵にまで上り詰める人物だ。土方歳三とは江戸城の開城後、合流している。

 

 

土方歳三は言う「俺たちはただ、夢を追いかけていただけだ」と。新選組は浪士で構成された「会津藩預かり」という非正規組織。土方歳三は天保6年(1835年)現在の東京都日野市に農家の土方隼人の10番目の子供としてこの世に生を受ける。豪農であったが早くに両親は死去している。近藤勇も、現在の東京都調布市下石原の百姓の3男として天保5年(1834年)に生まれた。武士に憧れていたことは想像に難くない。慶応3年(1867年)には新選組は会津藩預かりから隊士全員が幕臣となるが同年、王政復古。ほんのうたかたの夢であった。

そんなバックボーンを抑えておくと台詞の一つ一つに重みを感じる。ゲーム原作なのでフィクション、だが荒唐無稽ではない。そこがこの作品の面白さ、今回はミュージカルでありながら台詞劇のようなニュアンスもあり、心の機微やエモーショナルな感情をクローズアップする西田大輔の演出手腕が光る。隊士一人一人のドラマ、そしてヒロイン・雪村千鶴の一途な真心、新選組のメンバーの男気と夢と正義、こういったものが幾重にも重なってドラマを魅せる。「皆さんの力になりたい」という千鶴。変若水を飲んでしまう土方歳三、「俺たちは武士のまがい物として扱われてきた」と言い「でも信念だけは曲げねー!俺たちは本物になる!」ここに全てが集約される。

 

しかし観客は知っている、新選組が、土方や近藤、それ以外の隊士たちがどんな末路を辿るかは。武士の時代は大きな苦しみと共に終わりを告げる。桜のようにほんの短い間、咲き誇り、そしてあっけなく散っていく。その輝きは一瞬だ。

照明、効果音、特殊効果等の舞台機構を要所要所で使い、それでいて全体としてはアナログ。このアナログ感が、作り手の心意気を感じさせる。しっかり【演劇】を追求、また明治座の舞台は間口が広いが、これを存分に活かし、舞台いっぱいにドラマを展開させる。花道も、ここぞという場面で使用、花道近くに座っている観客は『すぐそこに』を感じることが出来る。

 

 

土方歳三役の和田雅成、大役でしかも劇場が明治座、大きな劇場でも臆することなく演じていたのが印象的だ。そしてシリーズをかなりの回数観劇していると『あの曲は?』と思うことだろう。あの、キャッチーな楽曲はラスト近くで歌われる。全ては『諸行無常』だ。

 

 

 

公演日程:
【神戸】
2018年4月21日(土)~4月23日(月) 新神戸オリエンタル劇場
【東京】
2018年4月28日(土)~5月1日(火) 明治座(特別公演)

キャスト:
土方歳三 役・和田雅成 雪村千鶴 役・森莉那/
沖田総司役・山﨑晶吾 斎藤一役・納谷健 藤堂平助役・樋口裕太 原田左之助役・小鳥遊潤 永倉新八役・岸本勇太 山南敬助役・輝馬 山崎烝役・椎名鯛造 近藤勇役・井俣太良 大鳥圭介 役・橋本汰斗/
天霧九寿役・兼崎健太郎 不知火匡役・校條拳太朗 雪村綱道役・川本裕之/
風間千景 役・中河内雅貴 他

スタッフ: 原作:オトメイト(アイディアファクトリー・デザインファクトリー)

演出:西田大輔
脚本:毛利亘宏
音楽:佐橋俊彦
振付:本山新之助
殺陣:六本木康弘

©アイディアファクトリー・デザインファクトリー/「薄桜鬼」製作委員会
©ミュージカル『薄桜鬼』製作委員会

公式WEB:http://www.marv.jp/special/m-hakuoki/

公式ブログ:http://m-hakuoki.jugem.jp/

公式twitter:@m_hakuoki

 

文:Hiromi Koh