「巌窟王 Le théâtre」復讐につぐ復讐、愛と憎しみ、人間の業の深さはどこまでも。

2004年にアニメ化した作品の舞台化。よって小説の舞台化ではない。パリが舞台ではあるが、小説に書かれていた時代のパリではなく、架空の未来都市のパリ、という設定だ。よって大筋、人間関係などは原作に沿っているが、アニメ・舞台では、『東方宇宙からやって来た謎の紳士、 モンテ・クリスト伯爵』という設定となっている。
ギターの音、アルベール・ド・モルセール子爵(橋本祥平)の独白から始まる。平凡な日常に飽き飽きしていたアルベールはオペラ座でモンテ・クリスト伯爵(谷口賢志)の圧倒的な存在感と謎に満ちた、そしてクールな面持ちに惹かれてしまう。アルベールには許婚がいたがお互い乗り気ではない。そしてアルベールはモンテ・クリスト伯爵を両親に紹介する。父はフェルナン・ド・モルセール将軍(徳山秀典)、母はメルセデス・ド・モルセール(遠山景織子)、一見なんでもないように見えるが、これが、怒涛のように展開される復讐の序章に過ぎなかった。

冷徹で頭も切れるモンテ・クリスト伯爵、まずはアルベールを自分の虜にし、そこから少しずつ、自分を陥れた憎むべき人々に近づいていく。それは、全く”足音すらしない”という表現がふさわしいだろう。原作の緻密さと心の表現をきちんと踏襲しつつ、現代らしい設定や見せ方で作品世界を展開していく。舞台では映像表現とアナログな見せ方を掛け合わせて、アニメの舞台化らしく魅せていく。そして物語の出だしはモンテ・クリスト伯爵がパリにきてから始まっているところが原作とは少々異なる。
じわじわと復讐を果たしていくモンテ・クリスト伯爵、2幕ではそれがドラスティックに展開していく。モンテ・クリスト伯爵の正体がわかった時の、その彼の復讐のターゲットとなる相手、驚愕し、恐れおののく「生きていたのか!」と。モンテ・クリスト伯爵が若かりし頃に愛した女性はアルベールの母・メルセデスであった。メルセデスはダンテス(モンテ・クリスト伯爵)の婚約者。しかし、彼が死んだものと思って泣きくらし、そしてダンテスを陥れた張本人とは知らずにフェルナンと結婚してしまっていた。そして息子をもうけた。ところが今になって死んだと思っていたダンテスが現れた。『初対面』でモンテ・クリスト伯爵がダンテスと気づいてしまったのである。つまり、メルセデスは結婚後もダンテスを忘れることができなかったのである。

そんな悲劇と復讐と愛が幾重にも折り重なって物語が進行していく。そしてサイドストーリーもしっかり、アルベールの許嫁のダングラールの娘ユージェニー(小泉萌香)は結婚に疑問をもっており、しかも音楽の才に恵まれていた。しかし父のダングラール男爵(村田洋二郎)は娘の気持ちよりも出世や社会での地位の方が大切、彼もまたモンテ・クリスト伯爵の復讐のターゲット、モンテ・クリスト伯爵の画策によって、窮地に陥り、娘をアンドレア・カバルカンティ侯爵(小松準弥)の元に嫁がせようとするも、アンドレアの正体が「ここぞ」というタイミングでバレてしまう。

原作のパワー、そして現代に合わせた味付けを施しても物語自体は色褪せない。復讐、と言ってもモンテ・クリスト伯爵には彼なりの仁義と愛がある。人間の業の深さ、アレクサンドル・デュマが描いた世界観、アニメにしても舞台にしても色褪せることはない。原作は1844年から1846年にかけて、フランスの当時の大手新聞「デバ」紙に連載され、同じく1844年から1846年にかけて18巻本として出版された長編。そのごく一部であってもこれだけのパワー、もちろん過去にも何度も映画化されており、有名なところでは主演にジェラール・ドパルデュー、1998年にフランスのTVシリーズとして制作され、NHKでも放映され、話題になった。近年では2018年、主演はディーン・フジオカの現代の日本に置き換えたテレビドラマが記憶に新しいところ。また漫画化もされており、古いところでは1969年の影丸穣也、梶原一騎の『復讐記』。そういったバージョンも時間があれば紐解いてみるのもまた作品の理解が深まるであろう。

ゲネプロ前に囲み会見があった。登壇したのは、アルベール・ド・モルセール子爵役:橋本祥平、モンテ・クリスト伯爵役:谷口賢志、フランツ・デピネー男爵役:前嶋曜(JBアナザーズ)、メルセデス・ド・モルセール役:遠山景織子、フェルナン・ド・モルセール将軍役:徳山秀典。

橋本祥平は「稽古内容が濃すぎて〜」と作品の”濃さ”を強調。「『芝居の幅が広がる』とありがたいお言葉を頂戴いたしました」と語る。名だたる名優が演じているモンテ・クリスト伯爵役の谷口賢志は「(この役をやるのが)夢だった!!!!ちょうど、このアニメを視聴しておりまして、その頃はまだ役者を始めた頃だったんで・・・・」と感慨深い。そして「夢っていうよりも絶対に演じたいと思っていた、大きな役をいただいた」と感無量な様子。フランツ・デピネー男爵役の前嶋曜は、緊張気味に「やっとこの日がきました!全力で!頑張って演じます!」と気合い十分。メルセデス・ド・モルセール役の遠山景織子は「アニメの『巌窟王』がとても好きだったので!」と念願かなった様子。フェルナン・ド・モルセール将軍役の徳山秀典は「復讐劇ですが、それぞれに愛がある。一人一人、愛に包まれて生きていく、いろんなものもあって・・・・ぜひ!観ていただければ」と挨拶。単なる『憎』だけでなく、そこに理由があり、実は愛がある、そこが作品の懐の深さ。
また、座組が『年長』と『若者』と入り混じった感じであるが、橋本祥平が「大人チームが引っ張ってくれた、稽古場以外ではみんなで仲良くご飯食べに行ったりしました」と笑顔(ドロドロの復讐劇の前だというのに(笑))。谷口賢志がとりわけビジュアルが”濃い”のだが、「普段、役者は、異質な芝居をメイクや衣装を使わずに表現したいと思うものだけど、顔の色を変えたり、ビジュアルで表現できるのは、2.5次元の楽しさなのかな」と笑う。ここはあくまでもアニメ化の舞台化、原作の舞台化ではないので、そこが面白いところ、といえよう。
最後に橋本祥平が「2019年も終わりです。これが今年最後の観劇になるかもしれません。2019年、楽しい思い出を!」と締めて会見は終了した。


<「巌窟王」とは>
アニメ「巌窟王」
15歳の春。僕がはじめて憧れた人は、復讐鬼だった――。 フランス文学の古典名作「モンテ・クリスト伯」(アレクサンドル・デュマ著)を 原作とし、大胆に幻想の未来都市パリを舞台にした 復讐のパンク・オペラとして描かれた。 復讐の生贄となる一人の少年の目線から物語を構築し、 残酷でイノセントなドラマに加えて、映像的にもテクスチャを使った表現など 斬新な試みに挑戦し、多くの視聴者を魅了した。 2004年の放送から15周年を迎え、今年舞台化が決定。 2019年12月、復讐のパンク・オペラが再び幕をあける。
<STORY>
パリの青年貴族・アルベールは退屈な日常に飽き、刺激を求めて、 親友のフランツとともに、月面都市・ルナのカーニバルに参加する。 そのころ、ルナの社交界では東方宇宙からやって来た謎の紳士、 モンテ・クリスト伯爵の話題でもちきりだった。 オペラ座でモンテ・クリスト伯爵の姿を見たアルベールはその存在感に圧倒される。 やがて、モンテ・クリスト伯爵との交流を深めていったアルベールは、 伯爵の妖しい魅力の虜となっていく。

<キャスト>
アルベール・ド・モルセール子爵役:橋本祥平/モンテ・クリスト伯爵役:谷口賢志/フランツ・デピネー男爵役:前嶋曜(JBアナザーズ)
ユージェニー・ド・ダングラール役:小泉萌香/エデ役:市川美織 アンドレア・カバルカンティ侯爵役:小松準弥/マクシミリアン・モレル役:遊馬晃祐/ペッポ役:大野紘幸 ヴァランティーヌ・ド・ヴィルフォール役:田名部生来/リュシアン・ドプレー:熊谷嶺/ジョヴァンニ・ベルッチオ役:加藤靖久
メルセデス・ド・モルセール役:遠山景織子 ダングラール男爵役:村田洋二郎/ビクトリア・ド・ダングラール役:田中良子/ジェラール・ド・ヴィルフォール主席判事役:細貝圭 フェルナン・ド・モルセール将軍役:徳山秀典 ほか

【概要】
日程/会場:2019年12月20日(金)~28日(土)  こくみん共済 coop ホール (全労済ホール)/スペース・ゼロ
原 作: アニメ「巌窟王」
脚本・演出: 村井雄(KPR/開幕ペナントレース)
主 催:「巌窟王 Le théâtre」製作委員会
公式HP:http://officeendless.com/sp/gankutsu/
©2004 Mahiro Maeda・GONZO/KADOKAWA ©「巌窟王 Le théâtre」製作委員会