舞台「文豪とアルケミスト 異端者ノ円舞(ワルツ)」離れていても想い続ける、それが友情。

大阪公演を終えて、東京公演が、品川で始まった。文学作品を守るために転生した文豪たち、今回は白樺派の志賀直哉(谷佳樹)と武者小路実篤(杉江大志)を主軸にストーリーが展開していく。もともと、志賀直哉と武者小路実篤は学習院時代からの同級生であったが、実は志賀直哉の方が2つ年上、それはボートとか自転車などのスポーツに熱中したあまり、落第した結果、武者小路実篤と知り合ったのだった。そんなエピソードもこの舞台で語られる。そして2人が出会いは彼らの運命を左右するぐらいの大きな出来事であった。セリフでも語られるが”学生時代はよく遊んだ”そうで、篤い友情が生まれた。そんな『事実』をベースにして物語の人間関係を構築している。有島武郎は学習院中退後、札幌農学校に入学、その後は海外に留学し、帰国後に志賀直哉や武者小路実篤らと知り合い、同人誌『白樺』に参加。そんな3人の関係性を覚えておくとストーリーは俄然、面白くなる。
有島武郎の作品『カインの末裔』が侵蝕される。これは由々しき事態!とばかりに志賀直哉と武者小路実篤は『カインの末裔』を救うべく奮闘する。日本の北海道を舞台、農夫の仁右衛門を主人公として、無知ゆえに罪を隠す主人公の生き様を描いているが、ちなみに2007年に映画化も果たしている作品だ(よって「寒い!」というセリフが出てくる)。そして白樺派は大正デモクラシーなどを背景に人間の生命を高らかに謳いあげ、理想主義・人道主義・個人主義的な作品を制作、人間肯定を指向、自然主義にかわって1910年代の文学の中心となった。

『カインの末裔』を守るために戦う、なぜ、このような作品を書いたのか、有島は「そういう人々がいることを知らせたかった」という。「ありのままを書くのもいいけど、自由な発想で」というセリフ、つまり白樺派の考え方なのである。そんな言葉は現代に生きる人々の心を今も捉える。”自由な発想”と言われても、実際はなかなか難しい。
冒頭、暗闇の中、一人で一通の書簡を読み上げる萩原朔太郎(三津谷亮)。その書簡の内容はとある名作を書き始めた志賀直哉(谷佳樹)と武者小路実篤(杉江大志)とのやり取りを綴ったものだ。多くのやり取りをしていたそうだが、それはこの2人の深い友情を示している。しかし、それでも言えないこともある。また有島は自分の作品に潜書し、己と向き合う場面は哲学的で内省的だ。
悩み、立ち止まり、そして前に進む。また自然主義の国木田独歩(斉藤秀翼)と島崎藤村(小西成弥)、自然主義はフランス文学の影響であったが、実際には、現実を赤裸々に描くものとして解釈され、永井荷風らの耽美派と志賀直哉らの白樺派、そして夏目漱石、森鴎外、そして新現実主義の芥川龍之介らの登場により衰退していったのであるが、日本文学史的に見ると必要不可欠な通過点であると解釈できる。

しかし、この作品はあくまでも『ファンタジー』、これらの文豪たちが一度に集まることはないが、この舞台「文豪とアルケミスト」では一堂に集まる。そこから、様々な『化学変化』が起こる、そんな人間関係は見所の一つ。心の内にある”闇”そして表に見える”光”、志賀直哉と武者小路実篤を主軸として、事態は思わぬ方向に、命を削って、命をかけて紡いだ言葉、作品、そして友情。心に響くセリフ、言葉、そして彼らの行動。上演時間はぎゅっと2時間弱。また武者小路実篤の初期の作品「友情」があるが、これも今回のストーリーの鍵にもなっている。「離れていても想い続ける」、それが友情、見た目としてはアクションシーン満載、またアンサンブルの激しくもクリエイティヴな動き、扇子や布などを使ったアナロゲ的な手法は舞台ならでは。気が早いが、次は誰にフューチャーされるのか、そんなことも楽しみな作品であった。


なお、ゲネプロ前に囲み会見が執り行われた。登壇したのは、谷佳樹、杉江大志、杉山真宏(JB アナザーズ)、小坂涼太郎、斉藤秀翼、小西成弥、三津谷亮、久保田秀敏。

まずは見所について、谷佳樹は「前回と比べると立ち回りのシーンがすごく増えています。ずっと戦っている・・・・・・新しく登場したキャラクターも登場し、もちろん前回のキャラクターもいますので、全体の空気感が違ってて新しい。見所は・・・・・・いっぱいありすぎてね(笑)自分のシーンだけだとネタバレに(笑)」と語るが、立ち回りもさることながら、それぞれの関係性や実際の人物像やセリフなど、たくさんの見所や注目ポイントは多い。それを受けて杉江大志も「どこっていうよりも全編通して・・・・・全部見所。何かを持って帰ってもらいたい」とコメント。久保田秀敏は「前回は太宰治がいて・・・・・生きることを強いメッセージとして・・・・・。芥川龍之介は前回よりも前向きに生きています」とコメント。三津谷亮は「信じることにポシティヴで・・・・」、杉山真宏は「生きるということを諦めてしまった役柄で、再び転生しますが、そこで自分と向き合う瞬間があります」
小坂涼太郎「殺陣のシーンが多いですが、鍋のシーンがあるので心温まる、お客様が鍋、食べたくなるような(笑)、そこが見所」と語るが、皆、美味しそうに食べるのと、ここのシーンは『ほっこり』。国木田独歩を演じる斉藤秀翼は「人間らしさが一瞬、繊細さとかが垣間見えるところ」といい、小西成弥は「2人の友情・・・・・・あと殺陣とか見ていただきたい」
またすでに大阪公演は終了しているが、谷佳樹は「大阪公演の幕があくまでは不安でしたが、大阪で自信がつき、確信も持てて。東京公演は楽しみです。お客様には楽しんでもらいたい、楽しませたい」と大阪を経て余裕が出てきた様子。谷佳樹とW主演の杉江大志は「谷やんと二人で支え合って頑張ろうねって・・・・・・それで支える、支えてもらっている・・・・支えあうってわかりやすいけど、繊細なことで、どっちかの力が強いと違ってしまう、2人のバランス、谷やんと一緒で不安はなかったけど、支えあうのは難しい。でも本番の達成感が!出来上がったっていうところが!」とW主演の良さと難しさをコメント。
最後に公演PR。
「大阪で積み上げたものをさらに!」(小西成弥)
「素敵な時間を!」(斉藤秀翼)
「暖かい作品になっています。培ったものをみんなで一緒に!」(小坂涼太郎)
「大阪で培ったものを届けたいです」(杉山真宏)
「心の1ページに」(三津谷亮)
「とにかく、改めて作品に、文学に興味を持っていただければ、人生が豊かになれば」(久保田秀敏)
「2人の友情がほっこり楽しく、少し心に何か届けば。楽しかったなっていうのがあれば」(杉江大志)
「前作はまっすぐに届く『生きろ』というメッセージで、今回は『友情』と、それと各々の関係性が深く掘り下げられています。現代人にも通じるものがある。大切なことは何か、大事な人は・・・・・そのために生きることの価値と生きる上でのことを感じていただければ」(谷佳樹)

なお、千秋楽はニコ生中継!しかも独占!
<物語>
文学作品を守るためにこの世に再び転生した文豪たち。 侵蝕者との戦いは新しい仲間も加わりながらも続いていた。 そんなある日、有島武郎の作品『カインの末裔』が侵蝕される。 有島武郎と同じ白樺派である志賀直哉と武者小路実篤は、 仲間の作品を救うべく潜書するが――
<出演>
志賀直哉:谷佳樹、武者小路実篤:杉江大志、有島武郎:杉山真宏(JB アナザーズ)、坂口安吾:小坂涼太郎、国木田独歩:斉藤秀翼、島崎藤村:小西成弥、萩原朔太郎:三津谷亮、芥川龍之介:久保田秀敏
【公演概要】
舞台「文豪とアルケミスト 異端者ノ円舞(ワルツ)」
日程・場所:
[大阪]
2019年12月27日(金)~12月29日(日)/大阪・森ノ宮ピロティホール 全5公演
[東京]
2020年1月8日(水)~1月13日(月・祝)/東京・品川ステラボール 全9公演
原作:「文豪とアルケミスト」(DMM GAMES)
監修:DMM GAMES
世界観監修:イシイジロウ
脚本:なるせゆうせい
演出:吉谷光太郎
音楽:坂本英城(ノイジークローク) / tak
主催:舞台「文豪とアルケミスト」製作委員会
コピーライト:© DMM GAMES / 舞台「文豪とアルケミスト」製作委員会
公式サイト:http://bunal-butai.com/
公式Twitter:@bunal_butai
文:Hiromi Koh