「改竄・熱海殺人事件」モンテカルロ・イリュージョン 妖艶な木村伝兵衛、兄の死を追う速水健作、そして大山金太郎は何を考えているのか、水野朋子の想いは?

初演は1973年、文学座アトリエにて。
主な登場人物は、部長刑事・木村伝兵衛と、地方からやってきた刑事、婦人警官、恋人殺しの犯人の4人。物語の構図は、三流の犯人・大山金太郎を、木村伝兵衛が一流の犯人に育て上げる中で、新任の刑事、婦人警官、さらには木村自身も変わっていく。
1990年代から『熱海殺人事件』は様々なバージョンが作られており、基本設定と構図を残しつつ、役者を替えたり、台詞を変えたり、関係性や結末を変えたりしたもの、さらにバージョンによっては基本の物語すら異なるものも。
主役の木村伝兵衛の設定も、バージョンによって同性愛者だったり精神異常者だったり女性だったり、1990年以降の婦人警官は水野朋子。
しかしながら、大音量の「白鳥の湖」をBGMに木村が電話でがなりたてるオープニングや、新任の刑事に渡す書類を地面にわざと落とし、木村が「拾ってください」というやり取りなど、この作品の名物となっている部分は、形は変わりつつも、どのバージョンにも数多く残っている。
そして、発表されたものは「熱海殺人事件」、「ソウル版熱海殺人事件」、「熱海殺人事件ザ・ロンゲストスプリング」、「熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン」、「熱海殺人事件妹よ」、「熱海殺人事件サイコパス」、「売春捜査官」、「平壌から来た女刑事」とこれだけあり、つか死後に「熱海殺人事件NEXT」が上演されている。
観劇したのはモンテカルロ・イリュージョン。

オープニングは大音量のブルックナーの「復活」それから「白鳥の湖」、木村の大声のセリフ。かつて観劇したことのあるファンならここで”おお〜”と思うはず。「なんなんだ、この首の痛みは!」「なんだ、この孤独は!」「俺は誰だ!」と叫ぶ。そこへ速水が登場、木村vs速水のやり取り、激しく殴ったり。”速水”という名前にはある記憶がある木村。これはストーリーの鍵となる。ここでは木村は同性愛者、という設定。刑事の速水はそれは自分の兄と木村に告げる。そんな時に婦人警官の水野がやってくる。彼女はこの事件を最後に退職するという。名場面、書類をわざと落とし(しかも大げさに)、「拾ってください!」と詰め寄る。犯人・大山金太郎について書かれていることを読み上げる速水、大山に何か恨みでもある様子の木村。そして・・・・・大山金太郎が登場し、これで4人揃う。ここから怒涛のような、そして奇想天外な人間関係、ここにオリンピックも絡んで、事態は思わぬ方向に転がり始める。実は木村伝兵衛は棒高跳びの選手だったが、大山のせいでモスクワオリンピックに出場できなかった。そして速水の兄はロサンゼルスオリンピックの棒高跳びの選手だった。また大山は木村が新宿2丁目で体を売っていたことを暴露した・・・・・・。

 合間に昭和な歌謡曲を歌唱するキャラクターたち、唐突に、しかもちゃんとマイクもある。奇抜でエンターテイメントな瞬間だが、なぜか違和感を感じさせないのが”つかマジック”。もちろんかなりの観客は「待ってました」とばかりに手拍子が起こる。初体験の観客はすぐにこの”マジック”の虜になってしまうだろう。そんなことが・・・・・という展開ではあるのだが、観ている方は知らず知らずのうちに世界観に引き込まれていく。この4人の関係性、感情、これが幾重にももつれ、重なり合い、重層的になっていく。片時も目が離せない、4人。そして”成長”という言葉は似合わない、彼らの気持ち、考えが変化していく、そして狂気もはらみ、そこから昇華していく。狂おしいほどの愛、人が人を思う気持ち、膨大で心に刺さるセリフの洪水、木村の過去、速水の兄との関係、皆、変化していくが、それぞれがそれぞれに影響しあい、化学反応を起こし、怒涛のラストに向かっていく。

演出家はじめ、俳優陣の”つか愛”がストレートに伝わる。マイク持って歌うシーンは本当に楽しそう!汗びっしょりかいての大熱演。かなりの長セリフもしっかりこなす。妖艶な多和田秀弥、兄の死を探る速水のストレートな感情、水野の木村への想い、大山のクセのある佇まい、4人の存在感が一つになって作品世界を観客に放つ。現代のテンポに合わせた演出的アレンジが物語の構造をわかりやすくしている。
つか作品に出演することによって大きく成長した俳優は数多いが、改めてつか作品の面白さ、偉大さを感じる舞台であった。

【「改竄・熱海殺人事件」公演概要】
日程・場所:
<東京公演>
2020年3月12日(木)〜30日(月) 紀伊國屋ホール
<大阪公演>
2020年4月4日(土)・5 日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホール
※ザ・ロンゲストスプリング
<福岡公演 —FM 福岡開局50周年— >
2020年4月11日(土)・12日(日) イムズホール
※モンテカルロ・イリュージョン
作:つかこうへい
演出:中屋敷法仁
出演
<ザ・ロンゲストスプリング>
木村伝兵衛 部長刑事:荒井敦史
水野朋子 夫人警官:馬場ふみか
熊田留吉 刑事:佐伯大地
容疑者 大山金太郎:玉城裕規
<モンテカルロ・イリュージョン>
木村伝兵衛 部長刑事:多和田任益
水野朋子 婦人警官:兒玉遥
速水健作 刑事:菊池修司
容疑者 大山金太郎:鳥越裕貴

[スタッフ]
音響:山本能久 照明:松本大介 衣裳:西本朋子 演出助手:入倉麻美 舞台監督:川除 学 宣伝美術:山下浩介 宣伝写真:神ノ川智早 宣伝衣裳:西本朋子 宣伝ヘアメイク:門永あかね 宣伝:ファイズマンクリエイティブ WEB 製作:メテオデザイン
制作:ゴーチ・ブラザーズ
提携(東京のみ):紀伊國屋書店
制作協力:つかこうへい事務所/アール・ユー・ピー