劇団扉座 第66回公演『お伽の棺2020-三つの棺-』公演中止に。 主宰 横内謙介より皆様へ。

「鶴の恩返し」伝説をモチーフにし、機屋に籠もり、珍しい布を織る鶴とは異人の女であるという新解釈で描いた、横内版「夕鶴」というべき異色作。たった4人の出演者で、音響、照明を使わずに、俳優が立てる物音と蝋燭の火だけで進行するシンプルな演出が評判となり、94年の初演以来、5演を重ねた名作、その2020年版『お伽の棺2020-三つの棺-』が公演中止になった。ここで主宰の横内謙介のお客様への言葉を紹介させていただきます。

お客様方へ

 皆様、出口の見えない不安の日々をお過ごしのことと存じます。新型ウィルスの感染が一刻も早く収束して、平穏の日々が戻ることを祈るばかりです。
 そんななかとても心苦しく思いつつ、扉座が考えに考えて、辿り着いた結論をお伝え致します。
 厚木市文化会館と座・高円寺にて6月に予定していました『お伽の棺』の公演を、断腸の思いで中止致します。
 公演の完全中止は40年になろうとする劇団の歴史の中でも初めてのことで、今から2か月後の状況の好転を願って、公演の前日まで実現の可能性を追求したい気持ちはございます。しかし、

第一に、お客様に安心してご観劇頂ける環境が、公演日までに整うという見極めが難しいこと。

第二に、もし稽古場でキャスト、スタッフにウィルス感染者が出た場合、数週間の活動停止が必要となり、作品が仕上がらない可能性があること。(※芝居の稽古は、密集、密接、抜きに成立しません)

第三に、希望的観測で公演の準備を始めて、その後に中止となった場合、経済的リスクが膨らみ過ぎること。(※今、決断すれば、損失が最小限に留められるという判断です。

 そもそもこの公演は韓国人女優を招いて創る、韓国語混じりバージョンと劇団員だけで創る、日本語バージョンの交互上演の企画でした。3月にソウルでのオーデションを行い、韓国人女優を決定する予定にしていました。そのプランは韓国での感染拡大によって、断念を余儀なくされました。その後、日本語版だけでの上演に方針転換して進めていましたが、現在の状況を見て、このような決断に至った次第です。

 公演を楽しみにして下さっていたお客様には、大変申し訳なく存じます。『お伽の棺』は劇団の代表作の一つであり、今後も上演してゆくつもりです。近い将来での上演に是非、ご期待下さい。
 新型ウィルス感染が広がり始めてから、我々劇場人は、お客様方に、様々な注意事項に留意して慎重にご来場ください、とご案内を続け、マスク着用や入口検温などのご協力を得ながら、劇場の扉を閉ざさぬように頑張って参りました。それがついに、自らその扉を閉めなくてはならないことが無念でなりません。
 しかし今、扉を閉めるのは、次にまたその扉を開けるためです。
見知らぬ人たちが一つに集い、肩を寄せ合って過ごし、日々の暮らしをひととき忘れて、俳優たちの表情に涙し、セリフに笑う。そういう幸福の時間を取り戻すことが出来るまで、生き延びるためです。
 扉座を、演劇を、人間を、愛する親愛なるお客様方に復活を誓って、お詫びに代えさせて頂きます。
 皆様、どうぞお元気で。ともにこの困難を乗り越えましょう。

                                                   扉座  横内謙介
扉座HP:https://tobiraza.co.jp