Music Program TOKYO シャイニング・シリーズVol.7 東京音楽コンクール入賞者による「テノールの響宴」四天王揃い踏み!圧巻の歌声に魅了

国内外に活躍の場を広げている若手実力派が出演し工夫をこらしたプログラムをお届けする「シャイニング・シリーズ」、 Vol.7では東京文化会館が主催する「東京音楽コンクール」声楽部門の入賞者による「テノールの響宴」が開催された。

国内で確固たる地位を確立しているテノール、 村上敏明、 与儀巧、 宮里直樹、 小堀勇介の4名が出演し、 オペラ・アリアやカンツォーネなど名曲の数々を披露。

当初は5月28日に小ホールで開催予定。 観客同士の間隔を確保と ホールの定員の半分以下の着席制限の状況から、 会場を大ホール(定員2,303名)に移しての開催となった。
舞台にはピアノ1台。もちろん、「ソーシャル・ディスタンス」、前列4列目までは座れない。入場時の検温はもちろん、至る所にアルコールスプレー、やれる限りのことをやる、それが”新しい様式”、ロビーのカフェはお休み。開演前のよくロビーでコーヒーなどを楽しむ光景は、ない。マスク着用率は、もちろん100パーセント。
それでも、客席はワクワク感に満ちていた。久しぶりの公演、劇場、テンションは否応なしに上がる。
開演。まず、村上敏明が登場、「ご無沙汰しております」と挨拶、笑いと拍手が起こった。ここで、”新しい様式”に則った鑑賞の諸注意を。オペラ公演で必ずといっていい「ブラボー!」は「心の中で」と村上敏明。そして「その分、拍手で……大きく、細かく、長く」といい、またまた、笑いが起こった。

場が温まったところで始まった。トップバッターは小堀勇介、ロッシーニのオペラ『泥棒かささぎ』より「おいで、 この腕の中に」、兵役から帰ってきた若者がフィアンセと再会し、その喜びを歌うものだ。ベルカントテノールの小堀勇介、伸びやかな高音で華やかに甘く、後半の難しい速いパッセージは聴きどころ、華麗なテクニックを披露。そのあと(7曲目)にドニゼッティのオペラ『連隊の娘』より「ああ友よ、 今日はなんと素晴らしい日」、ハイCが後半に9回も出てくる難易度の超高い曲、ハイC炸裂!

 

小堀勇介

二人目は与儀巧、「人知れぬ涙」、ガエターノ・ドニゼッティ作曲のオペラ『愛の妙薬』の中で若者ネモリーノ(テノール)が歌うアリア、恋い焦がれている女性が流した涙から、自分が好かれていることを知り、その喜びに高揚する。最初は奥行きのあるしっとりとした歌い出しから始まり、やがてその感情が高まっていく様をドラマチックに、伸びやかに歌い上げた。そのあと(5曲目)はチレアのオペラ『アルルの女』より「ありふれた話(フェデリコの嘆き)」。『アルルの女』の中で、この曲は飛び抜けて有名。失恋の歌であるが、その切ない心情を熱く歌い上げ、ぐっとくるものがあった。

与儀巧

三人目は宮里直樹、マスネの歌劇『マノン』より「やっと一人になった〜消え去れ、やさしい面影よ」、愛した女性・マノンへの思いを 断ち切ろうとしている騎士の苦しい胸のうちを歌ったもの。演劇的で、情景が浮かぶような厚みのある声で切なく辛い心模様を感じる。そして、2曲目はプッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』より「冷たき手を」。テノーレ・リリコの定番アリア。詩人ロドルフォは、お針子ミミに早くも心を奪われたと恋心を打ち明ける。ロマンチックに、そしてパワフルな歌声がほとばしる恋心、観客の心も鷲掴みする。

宮里直樹

四人目は、村上敏明。この4人の中では、もっともキャリアがあるテノール、ジョルダーノのオペラ『アンドレア・シェニエ』より「ある日、 青空を眺めて」。18世紀、革命前後のフランスを舞台に、実在の詩人アンドレ・シェニエの半生を描いたヴェリズモ・オペラの傑作。貴族階級を批判し、己の信念を高らかに歌い上げる名曲、貫禄のある歌声でキメる。そして、ヴェルディのオペラ『イル・トロヴァトーレ』より「見よ、 恐ろしい炎を」、ヴェルディ中期の傑作で、主人公であるマンリーコは母を助けるため伯爵の待ち構える野営地へと向かう。ここで歌われる有名なアリア、聴かせどころで、ピアノなしで歌い上げた部分があり、声の力だけで心揺さぶられる。さすが、という瞬間であった。

村上敏明

 

休憩のあとは、『愛』をテーマにした様々な有名な楽曲を!前半は正装だった4人、ここでは一転してそれぞれ、好きな服装で臨んだが、ファッションに個性が出て、視覚的になかなか。
一発目は「Be my love」、宮里直樹、白のパンツでキメてきた。熱烈な求愛ソングで、内容に負けないくらいの熱量で熱唱。それから4人登場し、この自粛期間の話を(ソーシャル・ディスタンスで立つ)。慣れないフェイスシールドのこと、公演が次から次へと中止になってしまってスケジュール表が真っ白になったことなどを話す。その苦しい期間を経ての「ご無沙汰」なステージ、久しぶりの公演はやはり嬉しいもの。そんな喜びがそこはかとなく滲み出る。
それから順番に、歌う。名曲「追憶」は小堀勇介、オペラとは趣を異にし、澄んだ高音を伸びやかに、緩急つけて歌う。ここはトントンと次々に。「朝の歌」は与儀巧が情感たっぷりに、有名すぎる「帰れ、ソレントへ」は村上敏明が小走りで登場し、盛り上げる。次は「忘れな草」、失恋の歌、与儀巧が切なくドラマ性のある歌声で、それから「マリウ、愛の言葉を」は1932年のイタリア映画「殿方は嘘つき」の主題歌、「ひまわり」などの監督として有名なヴィットリオ・デ・シーカ(1901-74イタリア)が歌った歌、マリウという女性に愛を告げる歌を宮里直樹が歌う、ラストは繊細に歌い上げた。そして、有名な「カタリ、カタリ」、村上敏明が貫禄で、そして「グラナダ」は小堀勇介、速いテンポでの高音、テクニシャンぶりを見せつけ、最後は4人で「女心のうた」、歌い出しは宮里直樹、そして与儀巧、小堀勇介、村上敏明、間奏を挟んで、村上敏明、宮里直樹、与儀巧、小堀勇介、村上敏明、ラストは4人!大サービスな歌唱に大きな拍手と”ブラボー光線”。満席ではない客席が満席のような熱気に包まれた。これだけでも十分なくらいだが、お約束のアンコールでは「誰も寝てはならぬ」と「オー・ソレ・ミオ」。万雷の拍手、久しぶりの舞台、テノールの響宴、たった1回限り、贅沢な時間であった。

【概要】
Music Program TOKYO シャイニング・シリーズVol.7
東京音楽コンクール入賞者による「テノールの響宴」
公演詳細: https://www.t-bunka.jp/stage/5727/
日時:6月28日(日)15:00開演(5月28日から変更)
会場:東京文化会館 大ホール(小ホールから変更)

[出演]
テノール:
村上敏明 *第3回東京音楽コンクール声楽部門 第3位
与儀巧  *第6回東京音楽コンクール声楽部門 第1位及び聴衆賞
宮里直樹 *第10回東京音楽コンクール声楽部門 第2位〈最高位〉及び聴衆賞
小堀勇介 *第16回東京音楽コンクール声楽部門 第2位

ピアノ:江澤隆行

 

[曲目]
ロッシーニ:オペラ『泥棒かささぎ』より「おいで、 この腕の中に」
ドニゼッティ:オペラ『連隊の娘』より「ああ友よ、 今日はなんと素晴らしい日」
プッチーニ:オペラ『ラ・ボエーム』より「冷たき手を」
チレア:オペラ『アルルの女』より「ありふれた話(フェデリコの嘆き)」
ヴェルディ:オペラ『イル・トロヴァトーレ』より「見よ、 恐ろしい炎を」
ジョルダーノ:オペラ『アンドレア・シェニエ』より「ある日、 青空を眺めて」
ララ:グラナダ
カルディッロ:カタリ・カタリ
デ・クルティス:忘れな草/帰れソレントへ 他

「アートにエールを!東京プロジェクト」ウェブサイト
この公演に出演した歌手による「誰も寝てはならぬ」と「オ・ソレ・ミオ」が、 東京都が立ち上げた、 文化の灯を絶やさないための緊急対策、 芸術文化活動支援事業「アートにエールを!東京プロジェクト」の参考動画として公開されています。

Youtube 映像公開ページ
https://youtu.be/qwuJBKi_Cg8

https://cheerforart.jp

(C)堀田力丸

文:高 浩美