STAGE GATE VRシアター『Defiled-ディファイルド-』、VRマルチアングル生配信で見える作品の多面性、配信の数だけ、物語がある。

Defiled (ディファイルド)、『気高く・神聖なものが汚されること』、という意味だ。テクノロジーが進化し、オンラインで会話ができる時代、もはやそれは当たり前だ。それに慣れてしまい、何かをなくしている現代。 本作品は9.11の起こった2001年の10月に日本初演、さらにこの2020年、未曾有のウイルスの流行、これはグローバル化が進んだゆえに起こっていることだ。この戯曲と今の時代、およそ20年前の作品であるのに、極めてタイムリーである。それを劇場で鑑賞できると同時に劇場にいくことができない観客はVRマルチアングル生配信で鑑賞できる、まさに21世紀。

カメラは3台、観たいアングルでスイッチして鑑賞する

登場人物は2人、ハリー・メンデルソン、図書館員。彼はここの仕事が好きである。図書館の目録カード、それは図書館に収められている数々の書物の、いわば、”歴史”のようなもの、この目録カードにこだわりがあるハリー。それがコンピューターの検索システムに変わるという。時代の流れを考えれば必然であり、便利になることはいうまでもない。これに反対し、図書館に立て篭り、建物ごと爆破するという。もう一人はベテラン刑事、ブライアン・ディッキー。ハリーを説得するために現場にやってきた。つまり『交渉人』である。ハリーの命を救い、歴史ある図書館を守ることが彼の使命だ。
この戯曲の面白さは結果ではない。二人のやり取り、会話から見えるそれぞれの哲学や思惑、感情の変化、心理状況、ハリーの”主張”もブライアンの”常識”もよくわかる、共感もできる。ハリーの追い詰められた状況、ブライアンの職務への実直なまでの姿勢、誰しもが持ちうる可能性のある『こと』だ。
そして、この戯曲を”朗読”という形式で上演。もちろん、新型コロナウイルスの流行を考え、ソーシャル・ディスタンスをとっている。劇場で直にみると、会話では二人の気持ちが近づいたり、離れたりするわけであるが、椅子に座っているので物理的距離は当然、変化はない。観客は照明、音楽、俳優の声の抑揚や首の動きなどで状況や心理状況を把握する。中にはオペラグラスで観劇している観客も散見された。
また、基本的に客席と舞台にはそれなりの距離がある。青山DDDクロスシアターは、いわゆる”小劇場”なので、例えば1000席を超える劇場と比較すると、舞台との距離は近い方である。観客は、どこにフォーカスして観るか、目に飛び込んできた景色をありのままで観るか、そこに観る人間の意思がある。もし、オペラグラスを持っていれば、気になるところを拡大して観ることもできる。つまり、自由である。

ハリー側のカメラ位置

そして劇場ではない、今回のVRマルチアングル生配信で観劇する場合、カメラは3台あり、自分の意思でスイッチしてカメラアングルを変えて鑑賞できる。そのカメラから観ると客席からは到底観ることができないアングルとVRの”R”、つまり、リアルに俳優(キャラクター)に迫ることができる。それは客席からオペラグラスで”アップ”で観る景色とは全く異なる。あたかも”現場”にいつような錯覚に陥る。ハリーが、ブライアンが、”そこにリアルにいる”、自分もそこに居合わせる感覚に陥る。”没入感”という言葉で表現されるVR、確かにそうである。リアルなドキュメンタリーを、すぐそこで観ているような気分になる。俳優がセリフをいう、その時にスポットライトがあたり、劇場で観劇していれば自然とそこに目がいく。ところが、その時、スポットが当たっていないところにいる俳優はどんな表情を、どんな仕草をするのか、スポットが当たっているところを凝視すれば、当たっていないところには目がいかない。

< VRで見た時の舞台>

しかし、このVRマルチアングル配信で自分でスイッチして、セリフを言ってない俳優を観ると、思いがけないことに気がつくことができる。例えばブライアンがしゃべっている時に聞いているだけのハリー側のカメラにスイッチしたとする。ハリーはため息をついて肩を落としたりする。そこで観客はハリーはブライアンの言っていることにがっかりしているのではないか?ということがわかり、ハリーの奥にいるブライアンはそのことに気づいてないかもしれない、ということがわかるだけでなく、この二人のやり取りのリアルな”証人”にもなれるのだ。配信は合計39、仮に1人の人間が全てをVRマルチアングル生配信で観劇できたとしたら、39通りの『Defiled-ディファイルド-』が観劇できるのである。そして、公演が終わって視聴者数が出れば、配信期間中に39✖️視聴者数の『Defiled-ディファイルド-』が生まれたことになる。物語には、人間には多面性があり、VRマルチアングル生配信によって無限に物語を”体験”できるというわけだ。こう考えると、VRマルチアングル生配信の将来性やユニークさに改めて気づかされる。

 

ブライアン側のカメラ位置

人類が体験したことのないウイルスの流行により、観劇スタイルも変化が求められている。もはや普通に客席には座れない。間隔を開ける、マスクやフェイスシールドの着用、手を消毒するなどが求められる。そこから考えられた、劇場にいかなくても演劇を、ライブエンターテイメントを体験できる方法が”配信”。また、Zoomを使った新しい演劇も生み出されている。新しい表現方法の模索、図らずもそこから全く新しい景色が見えてくる。従来通りの、同じ場所で同じ体験をし、喜怒哀楽を共有する体験と、遠く離れていても喜怒哀楽を体験する”配信”、その配信の方法は様々であるが、ここではVRという最先端の技術を使っての配信。演劇は究極のアナログ体験とも言われており、中にはZoomを使った演劇は演劇ではない、配信を観るのは観劇とは言えない、映像を観ているのだ、という意見もあろう。しかし、客席の数は減らされており、かつてのように観劇できない現実。『観劇とは?』『演劇とは?』『劇場とは?』、その定義は時代とともに変わる部分もあるかもしれないし、変わらない部分もあるのかもしれない。それは、この戯曲『Defiled-ディファイルド-』で描かれていることと部分的にシンクロする。
新しい時代に向かう時、そこに摩擦が起きる。それは人類の歴史が証明している。現代、我々は歴史の稀有な1ページに存在している。

<配信コンテンツ></strong
本公演の配信内容は下記の通りとなります。
・主催/企画制作:株式会社シーエイティプロデュース
・コンテンツ名:STAGE GATE VRシアター vol.1 『Defiled-ディファイルド-』
(リーディングスタイル) (東京公演)
・会場・日時:DDD青山クロスシアター 7月1日(水)~8月2日(日)39公演
・作:LEE KALCHEIM
・翻訳:小田島恒志
・演出:鈴木勝秀
・出演キャスト:総勢19名の出演者が2名1組となり、 毎日日替わりで上演します。
毎公演全く違う”Defiled”がお楽しみいただけます。
猪塚健太、 伊礼彼方 、上口耕平、 加藤和樹 、岸 祐二 、小西遼生、 章平 、鈴木壮麻、成河 、千葉哲也 、中村まこと 、羽場裕一 、東啓介 、前山剛久、 松岡充、 三浦宏規、水田航生、 宮崎秋人 矢田悠祐 (※ 50 音順)
※出演スケジュール詳細: https://stagegate-vr.jp/
・撮影/技術協力:株式会社アルファコード
・作品概要:ハリー・メンデルソン、 図書館員。 自分の勤める図書館の目録カードが破棄され、 コンピュータの検索システムに変わることに反対し、 建物を爆破すると立てこもる。目まぐるしく変化する時代の波に乗れない男たちが、 かたくなに守り続けていたもの。 神聖なもの。 それさえも取り上げられてしまったら…。 交渉にやってきたベテラン刑事、 ブライアン・ディッキー。 緊迫した空気の中、 巧みな会話で心を開かせようとする交渉人。 拒絶する男。 次第に明らかになる男の深層心理。 危険な状況下、 二人の間に芽生える奇妙な関係。 果たして、 刑事は説得に成功するのか。
・配信日時:2020年7月6日(月)19時(予定)~8月14日(金)19時(予定)
・配信方式:時間指定ストリーミング配信
・視聴料金:3,500円 (税込)
・販売方法:チケットぴあにて販売(チケットぴあURL: https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2019376

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取材・文:高 浩美