檀れい主演 『恋、燃ゆる。~秋元松代作『おさんの恋』より~』自分に正直に生きること、愛に生きること。

檀れい主演
『恋、燃ゆる。~秋元松代作『おさんの恋』より~』が開幕した。
原作の『大経師昔暦』は1715年(正徳5)春ごろ大坂竹本座にて初演。1683年(天和3)に処刑された大経師家の女房おさんと手代茂兵衛との密通事件を題材にした作品で,その三十三回忌を当て込んで上演されたもの。この話はすでに西鶴の『好色五人女』や歌祭文などに取り上げられ、すでに人々の間では人気となっていたが、この作品では、それが,闇紛れの人違いのために止むなく起こってしまった”意志なき姦通”として構想されているという点が最大の特色。貞淑な「ご寮さま」とまじめな若者、運命のいたずらで不倫関係を疑われ、二人の死によって永遠の愛に昇華する、というもの。弱く受け身の存在として見られることの多かったヒロイン「おさん」を自分の意志を持った人間として描き出した『おさんの恋』、これを石丸さち子が上演台本・演出を手がける。
舞台上に光るものが二つ、動いている。夜の闇を飛ぶ蛍のように見えるが、この2匹、仲睦まじく飛んでいるようにも見える。そこから一転して、日中の場面、京都の刑場だ。怒号や泣き声、密通した若い男女が処刑されようとしていた。処刑される男女は直接出てこないが照明や処刑人の槍の動き、人々の声で表現し、それがかえって、場面の凄惨さを表現する。密通や姦通は大罪に当たる。そこから、大経師彩玉堂の場面になる。人々が忙しく働いている。

しかし、ここの主人である永心(西村まさ彦)は女遊びがやまない、つまり手癖が悪い。おさんの義母・刀根(高畑淳子)は、そんな息子を諌めるも、全く効果がない。そんなおりに手代の茂兵衛(中村橋之助)が路上で店の金をすられてしまうが、永心は横領ではないかと疑い、茂兵衛を罰として納屋で謹慎を言い渡す。また番頭の善四郎が茂兵衛を荷物を調べていたら、おさんの櫛が!実は煤払いの日に拾って大切に保管していたのだった。
次から次へと茂兵衛にとって間の悪いことが起こる。これが、”事の発端”、盆を使ってテンポよく見せる。茂兵衛が好きな女中のおたま(多田愛佳)は自分が拾って茂兵衛に渡したと嘘をつく。健気なおたま、茂兵衛とともに永心から罰せられる。

ポジション的にはヒール役となる永心であるが、この櫛は彼がおさんにプレゼントしたものであり、彼が誤解して癇癪を起こすのは無理からぬこと、結局のところ永心はおさんが好きと思わせてくれる場面。現代では男尊女卑と避難されそうな人物であるが、江戸時代、これが当たり前、特別な人物ではない。しかし、こういった『ボタンの掛け違い』で物事は悪い方向に動いていく。おさんに一途な茂兵衛を全力で演じる中村橋之助、この懸命さが茂兵衛の一途さとシンクロしていく。特に舞台上を疾走する様は茂兵衛の気持ち・心情を表現、おたまのいじらしいほどに茂兵衛を思う気持ち、嘘をつく場面を多田愛佳が切ない。息子を諌めるも一向に効果がなく、よく働く嫁のおさんに気を遣う姑を高畑淳子が的確に演じる。そっと物陰に隠れてことの成り行きを見守る姿にどこか哀愁も感じる。

そして檀れい演じるおさんが少しずつ”自分”をみせていくが、ラスト近くで夫にものを言うシーン、茂兵衛の思いを受け止め、自分の思いも告げるシーン、何気ない日常のシーン、そのどれもがナチュラルな存在感を放つ。そして「一人のおなご」といい、一人の自立した人間として立ち上がる。彼らを取り巻く人々、誓岸寺の住職・宗林(石倉三郎)の懐の深さ、茂兵衛を思いやり、永心を諭す。永心の異母兄弟・政之助(東啓介)は廓で酔いが回り、おさんが茂兵衛にお茶を点てたことを話す下り、いくら酔っていたとはいえ、わざと口を滑らせたのでは、と想像してしまう。脇を彩る人々の性格や置かれた立場、そこに目を配ると、実に皆、普通の人々で悪人はいない。茂兵衛が無事だと店の者に言う取引先の商人(山沖勇輝)、宗林の後ろに下がってことの成り行きを見ている良念(百名ヒロキ)の眼差し、そんなところにも目を配ると作品の奥深さが見えてくる。

そして物語を彩る季節、出だしは初夏、そして蛍、永心は処刑場で2匹の蛍を捕まえておさんにプレゼントする、それを後日、おさんは蛍を自由にしてやるシーンは美しく、おさんの優しさも感じつつ、物語のアクセントになる場面だ。そして満月、舞台上にはお供えの団子、中秋の名月、月の光、そしておさんは自分の気持ちに気づく。除夜の鐘のシーン、刀根、永心がいる。除夜の鐘は108回と決まっているが、この数は人間の煩悩の数、早い話が『たくさん』ある、ということ、おびただしい数の煩悩に翻弄される人間、愛おしくもあり、悩ましくもある。そして季節は再び夏になる。この四季の移ろいと物語、日本の四季の美しさだけでなく、登場人物の心の変化をも象徴している。また、盆を効果的に使用し、転換もスピーディで、ここは現代的。また俳優陣の所作、お茶の点てかたや立ち振る舞い、歩き方など、しっかりとした稽古の成果を見せてくれる。
2幕ものであるが、見やすく、そして感情移入もしやすい物語、徳川時代の封建社会で、それに盲目的に従うのではなく、自主性と言うのだろうか、己をしっかりと持つ人々、悪役的な立ち位置でもっとも封建的な匂いのする永心ですら、ラスト近くは柔軟な動きを見せる。最後の氷川きよしの歌、物語を一気に昇華させる歌声、メロディー、歌詞、思わず、聞き惚れてしまうほど。
多くのことがぎっしり詰まっている良作、この時節柄、千秋楽まで無事にたどり着けるかどうか、どのカンパニーも戦々恐々かと思う。無事に千秋楽まで駆け抜けていって欲しいと願う。

【あらすじ】
大経師彩玉堂のおさん(檀れい)は「美人で気立てのよいお内儀」と噂に高い。 だが主人の永心(西村まさ彦)は遊びがやまず、 義母の刀根(高畑淳子)はおさんを気遣っていた。 ある日、手代の茂兵衛(中村橋之助)は店の金をすられるが、 永心からは横領を疑われる。 さらに、 部屋からおさんの櫛が見つかった。 茂兵衛はおさんに秘かな恋心を抱き、 拾った櫛を大切にしていたのだ。 問い詰められた茂兵衛を救おうと、 彼に思いを寄せる女中のおたま(多田愛佳)は「自分が拾い、 茂兵衛に与えた」と嘘をつく。 それを聞いた永心は茂兵衛とおたまに処罰を与える。 そんな店の騒動を永心の異母弟、 政之助(東啓介)は冷ややかに見つめていた。 永心に命じられ納屋に入れられた茂兵衛だが、 父が病との報を受け、 居ても立ってもいられず彩玉堂を抜け出す。 茂兵衛は誓岸寺の住職・宗林(石倉三郎)に相談し、 国許に向かうことにするが、 おさんがまもなく誓岸寺に墓参りに来ることを知ると――。

実際に起きた事件を基にした近松門左衛門作の浄瑠璃『大経師昔暦』を原作とし、 秋元松代が書いたテレビドラマシナリオ 『おさんの恋』を石丸さち子が上演台本・演出を手がけ舞台化。 今の世に改めて問う禁断の恋と真実の愛。 おさんと茂兵衛、 許されない二人の物語。

檀れい主演 『恋、燃ゆる。~秋元松代作『おさんの恋』より~』開幕!会見レポ「初日が開いたことに幸せを感じています」(檀れい)

<概要>
公演期間:2020年10月19日(月)~11月15日(日)
会場:明治座(東京 浜町)
開演時間:12:00/17:30
料金:S席(1・2階席)12,000円  A席(3階席) 6,000円 (税込)

【チケットのお問い合わせ】
明治座チケットセンター:03-3666-6666(10:00~17:00)
グループ観劇(10名以上)のお問い合わせ:03-3660-3941(営業部団体課)

明治座公式WEB  https://www.meijiza.co.jp/

文:高 浩美  写真提供:明治座