《インタビュー》 舞台『ドクター・ブルー』 〜いのちの距離〜 作・演出:モトイキシゲキ

2020年、新型コロナウイルスが世界中で蔓延し、2021年になっても収まる気配はなく、東京でも感染者がうなぎのぼりとなっている。緊急を要する病気と闘う医者たちを「ドクター・ブルー」と言われているが、この作品は突如として猛威をふるい始めた未知の感染症に挑む感染医や若き医師(=「ドクター・ブルー」)、様々な立場の医療従事者の日々の葛藤や奮闘ぶりを中心に、感染症に罹患した人々、また彼らを取り巻く家族や市井の人々の姿を描くとともに、命の大切さ、感染予防に対する新たな生活様式、これまでの生活を取り戻すための希望を模索する様子をシュミレーションし、北村義浩氏(KYK医学研究所・医学博士)が医療監修、書き下ろした医学ヒューマンドラマである。この公演を企画し、作・演出をするモトイキシゲキさんに改めて、この作品の誕生のきっかけや過程、脚本完成の経緯、そして劇場対策まで語っていただいた。

――この作品の企画から公演決定、そして作品創作のために取材もなさったとお伺いしております。経緯や稽古のこと、劇場対策などについてお聞かせください。

モトイキ:この作品は、2019年3月に別の舞台公演を行っており、その公演も新型コロナウイルスの影響を受けて、公演を行うための対策をいろいろと調べていました。その時に、改めて世界的なベストセラーであったカミュ「ペスト」(注1)や、コミック誌に過去掲載されて当日話題になっていた朱戸アオ「リウーを待ちながら」(注2)などの伝染病や感染症についての作品にも触れて、今の世の中の状況をベースにした舞台作品を作れないか、興味を持ちました。
その3月の舞台(名古屋公演)を行うため、北村義浩先生にもアドバイスを頂き、無事に終えることができて、それ以来定期的に連絡を取ってました。新しい舞台での感染症対策の取り組み方なども指導していただきました。また、そうした中で私自身もいろいろと取材しました。伝染病と感染症の違い、日本での感染症対策、病院の対応や医師の人数など、特に注目だったのは、病院の数や設備に比べお医者様の人数が圧倒的に少ないことには驚きました。大変な状況でしたが、この夏には病院にも出向いて、お医者様や医療従事者、看護師の方々にも取材を行いました。そして、我々が知らないことがまだまだあることに、改めて気が付きました。そうしたこともあり、感染した患者さんに対応する病院やそこでの医療従事者の方々を取り上げてみては?と北村先生からも提案をいただき、そこを軸に脚本を練り上げていきました。
今回上演にあたり、安心してご覧いただけるように、劇場では換気や上演前後に紫外線(UV)装置で舞台や場内を殺菌するなど対策をして、ご来場いただく皆さんにもマスク着用などのご協力などをお願いして、対策をして参ります。コロナ禍ということもあり、舞台の実現に向けては、これまでの作品とは違い、簡単には進まなかったです。しかし、多くの医療従事者の方たちから「ぜひやってほしいと」と、逆に励ましの声もいただきましたし、舞台を通じて現状を知っていただき、今後の新しい道(生活)を切り拓くきっかけになればと考えております。出演者の皆さんにも年末年始の短期間の稽古にもかかわらず、熱心に上演に向けて日々取り組んでいただいておりますので、そうした熱演にもご期待ください。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。

注1:カミュ「ペスト」 フランスの作家、アルベール・カミュが書いた小説。1947年出版、1957年にノーベル文学賞を受賞したカミュの代表作の一つ。フランスの植民地であるアルジェリアのオラン市をペストが襲い、苦境が訪れる。団結する市民を描き、無慈悲な運命と人間の関係性が問題提起される。医者、市民、よそ者、逃亡者、犯罪者、神父、新聞記者と様々な立場の人物が登場する。ペストの脅威に全員が助け合いながら立ち向かう。災厄は突然終息、人々は元の生活に戻っていき、喜びの声を上げるが、語り手は、ペスト菌は決してなくなることはなく生き延び、再びいつか人間に不幸と教訓をもたらすためにどこかの都市に現れて彼らを死なせる、自分はそのことを知っている、と述べて物語は終わる。

注2:朱戸アオ「リウーを待ちながら」 感染症を扱った漫画、全3巻。3年前の作品であるが、現在と重なる描写のリアルさが注目され、2019年5月に重版された。タイトルに使われている“リウー”はカミュの小説「ペスト」の主人公の名前、そして不条理劇であるベケットの「ゴドーを待ちながら」をかけている。物語の舞台は架空の街“横走市”、主人公が勤める病院に相次いで患者が運ばれ、死亡した。原因は自衛隊が海外派遣先であった中央アジアから持ち込んだ新型ペストであると判明する。政府は緊急事態宣言を出し、街は封鎖される。SNSなどで悪意や風評が拡散され、街の関係者は苦しめられることに。「ペスト」の主人公のリウーの「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです」という言葉が引用されている。また、母をペストで亡くした女子高生がオンライン授業を受けるが市外の同級生との間に疎外感を覚え、「悪いのはここに病気を持ち込んだ人達」という趣旨の発言をして憤る下りもある。『悪』を想定して攻撃する相手を探す社会への問題提起とも受け取れ、印象的である。

[物語]
古くから城下町として栄えた歴史ある街。その主要病院である“雲母(きらら)病院”に地元出身の世界的声楽家ナンシー濱本(麻実れい)が運び込まれる。そこから、その病院で内科研修医を務める原(室 龍太)と北村(吉倉あおい)のもとには、次々と同じ症状の患者が運び込まれることに。
数日後、この病院に疫学研究所から感染医の北里正秀(内 博貴)が派遣され、重大な情報が伝えられる。未知の感染症の拡大を防ぐべく、若き医師(ドクター・ブルー)たちの闘いが始まる…。

<公演概要>
舞台『ドクター・ ブルー』~いのちの距離~
日程・会場:
[横浜]
2021年1月23日(土)~2月7日(日)  KAAT 神奈川芸術劇場
[名古屋]
2月13日(土)~14日(日)  御園座
[大阪]
2月26日(金)~28日(日)  NHK大阪ホール
[出演]
内 博貴
松下優也、室 龍太(関西ジャニーズJr.)、吉倉あおい
黒田こらん、喜多乃愛、杉浦琴乃
麻実れい<特別出演>
ヒデ(ペナルティ)、富岡 弘、大谷 朗、石井智也
天宮 良
高島礼子 ほか
作・演出:モトイキ シゲキ
医療監修:北村義浩(KYK医学研究所・医学博士)

公式HP:https://doctor-blue.jp
公式ツイッター:  https://twitter.com/doctorblue_jp?lang=ja( @doctorblue_jp)
舞台「ドクター・ブルー」公演実行委員会(プロデュースNOTE/エイベックス・エンターテイメント/神奈川芸術劇場)

記事構成:高 浩美
会見スナップ写真撮影:編集部