《インタビュー》『NORA(ノラ)』脚本・演出 長谷川達也&音楽 林ゆうき

唯一無二のダンススタイルを持つダンスカンパニーDAZZLE(ダズル)の最新作『NORA(ノラ)』が2021年6月25日から7月4日まで、あうるすぽっとにて上演される。
観客が物語の行く末を選択し、 刻々と未来が変化していくマルチストーリーとなっている。 2017年頃から建物一棟全てを舞台に行う「イマーシブシアター」に挑戦するなど常に独自の世界観を追求するDAZZLEは、2021年には東京での活動25年目を迎える。 最新作は、東京を舞台とし、身体能力を誇る男子新体操チームBLUE TOKYO(ブルートーキョー)と共に新しい舞台体験を構築する。音楽は林ゆうき。高校時代に新体操の選手となり、そのためのBGMの選曲から音楽に興味を持ち、作曲を始める、という異色な経歴の新進気鋭の作曲家。DAZZLE主宰、脚本・演出の長谷川達也さんと作曲家の林ゆうきさんに体の動きと音楽の関係や新作について語っていただいた。

「僕は結構枠組みを決めてしまうから、作曲家の方には窮屈なのではないかと思っていたんです。ですが林さんからは“目指すところがわかりやすい”と話してくださるのでありがたいと思っています」(長谷川達也)
「より『NORA』の世界観を提示するのにいいだろうな、というアイディアを入れてみて、長谷川さんに聞いてもらうなどキャッチボールしながら作っています」(林ゆうき)

――今回、コラボに至った経緯は?

長谷川:BLUE TOKYOは彼らが結成するときに振り付けをさせていだたいて。彼らが主演したBLUEという舞台が青森で上演されたのですが、その演出も担当させていただきました。そこでDAZZLEも一緒に舞台に参加した経緯があって彼らのことはよく知っているし、彼らの振り付けも一番多く担当しているのが僕なんです。今回の舞台は「ゲーム」という設定なのですが、物語の非現実感を彼らの身体能力で表現したらおもしろいのではないかと考えて、声をかけました。

――ある意味兄弟のような間柄なのですね。

長谷川:そうですね。林君ももともと新体操をやっていて彼らの先輩ですし、いろいろ繋がっているかなと。

――BLUE TOKYOの印象は?

長谷川:(BLUE TOKYOは)もともと新体操の選手だったんです。競技としていい得点を出すことを大切にしていたので、直線の力というか魅せる能力が高くて。アクロバットも驚異的な高さで回転するんです。誰が観ても“すごい”と思えるものを一瞬で披露できる。それを群舞で一糸乱れずやるということは、ダンサーから見てもとても真似できないんです。迫力もありますし美しさもある、そういう身体能力を持つ日本のみならず世界でもトップレベルの人たちが集まっているということが素晴らしいなと思っています。

――林さんはもともと新体操をやっていらっしゃいましたが、身体を動かすことと音楽を一から作ることに関してどうお考えでしょうか?

林:僕がもし、“この映像に音楽をつけてください”と発注を受けたとしたら、例えばDAZZLEさんだったら曲線の美しさだったり、隊形の変化だったりとか、持っているものをどう活かすかということを考えます。BLUE TOKYOならアクロバットのどこが一番ピークなのか、どの技が一番観客が沸くか、そこがクライマックスになるように音楽を設計して。それなら逆算してイントロは静かにしたり、クライマックス後のラストは静かに終わるのか、激しいままか……などは考えています。あとは長谷川さんが演出される、という場合なら僕らは楽曲に対する詳細な発注書をいただいています。長谷川さんの中でこれぐらいのテンポ感で、こういう曲で踊りたいというリファレンスをいただくんです。例えば5曲ないし10曲あるうち“Aという曲では導入部分は1曲目のイントロのように、その後のリズムは2曲目、3曲目のようなイメージで”……と非常に詳細な発注をいただけます。それを聞きつつ、音色などをこちらでアレンジしながら楽曲を作ります。その中で僕ら作家が持っている個性であったり、より『NORA』の世界観を提示するのにいいだろうな、というアイディアを入れてみて、長谷川さんに聞いてもらうなどキャッチボールしながら作っています。

長谷川:僕は結構枠組みを決めてしまうから、作曲家の方には窮屈なのではないかと思っていたんです。ですが林さんは “目指すところがわかりやすい”と言ってくださるのでありがたいと思っています。僕が提示した段階よりもはるかに良い楽曲を作ってくださるので、“いい曲だから振り付けも変えよう”ということもありますね。

林:もう結構一緒にやってきているので、だいぶ馴染んでいますね。

長谷川:(林さんは)身体表現に合わせた音楽を作るということをやられていたので、僕が提示するものとの親和性などをわかってくださるんです。他の人ではそうはいかないので、心強いですね」

「僕たちみたいにストリートダンスから派生している場合、音楽の力って偉大なんです」(長谷川達也)
「没入感は音楽とストーリーとダンスが総合的に、観客へ与えるものだと思っているので、音楽だけでどうするというよりは世界観をしっかり提示しシーンをしっかり観せられることに重きを置いています」(林ゆうき)

――音楽がダンスにもたらす影響は強いですよね

長谷川:僕たちみたいにストリートダンスから派生している場合、音楽の力って偉大なんです。なぜこのメロディーが楽しかったり悲しかったり、感情を読み取れるのか理由は全くわからない。けれど感情を揺さぶる何かがあって、それをダンスに乗せるとより表現が増幅されるんです。それとは逆に踊りと音楽の表現を真逆にするなど、そういった手法を取り入れながら演出を作るのもおもしろいですね。音楽がなければ我々の公演は成り立たないので、そこの重要度は高いです。

――今回の「NORA」というタイトルの意味は?

長谷川:いろいろな方に聞かれるんですが、内緒です(笑)。そこは公演を観て確かめていただければ。

――今回、マルチストーリーということですが、どのような公演になりそうですか?

長谷川:ストーリーは未来の東京をイメージした作品になっていまして。とても規制が厳しくなっている社会構造の中で、人々が抑圧されて生きている現実世界と、対極に位置する非現実的なオンラインゲームの世界があって、その2つを行き来しながら展開していく作品になっています。DAZZLEの作品は昔からわりとゲームのような設定が含まれることも多いんですが、それは僕自身、ゲームが好きで。些細な選択が人生に影響を及ぼす…というようなゲームをやっていた時に、その物語性のおもしろさやその未来がどう変わっていくかなどに興味があり、それをDAZZLEの作品にも投影するということをよくやっていました。ただ、普通の劇場公演では観客が物語に干渉することはできない。けれど、そこをある程度干渉できるようにしたら、より没入感が高まり、人が人をコントロールすることのおもしろさをその場で体験できるという新しい経験になるのではないかと。そこで今回、マルチストーリーをやってみたんです。いくつかの分岐を用意していますが、それを体験しながら“この選択が結果につながるのか”ということが後々わかるようになっているので、自分がどの選択をしたのか確認することもおもしろくなるんじゃないかと思います。

――今回は音楽も効果的なようですが、どのようなイメージでしょうか?

林:未来の東京の姿をどのように音色もしくは音階で決めるか、例えば舞台が日本なので和楽器を少し取り入れたりしています。その中で電子的な音を入れたり微妙なさじ加減で“未来の東京”のイメージをしっかり作って。それと対比するように仮想現実の世界をどういうふうに描くか、こちらは人工的でない無機質なものにしたいと思っていたので、自動でフレーズを生成してくれるAIソフトを使ってみたりしてプログラミングされた世界観を作っています。没入感は音楽とストーリーとダンスが総合的に、観客へ与えるものだと思っているので、音楽だけでどうするというよりは世界観をしっかり提示しシーンをしっかり観せられることに重きを置いています。

――読者にメッセージを!

長谷川:近年は特に、家にいるままで楽しめるコンテンツがたくさんあリ、そのため舞台に足を運ぶということへのハードルがどんどん高くなっていると感じます。舞台で、生で、人間が踊るという姿を目の前で観た時に感じるものって、画面越しでは伝わらないエネルギーのようなものがあって。それってすごく刺激になると思うんです。生で体験することで得られる刺激って、感覚が豊かになることに繋がるのではないかと思います。DAZZLEの作品は物語を主軸にしているので、全くダンスがわからないという人でも楽しめますし、物語を読んでいく際の感情の揺さぶりなど、そういった体験をいろいろ感じることができる場となっています。今回はマルチストーリーという自分の選択が反映される新感覚の舞台ですので、観にきた方の”新しい舞台体験”になると思います。是非、それを味わいに来ていただきたいです。

林:人が感動するのってプロセスが必要だなと思っていて。昔、新体操をやっていた時に演技を観て、感動したときは号泣したこともあったんです。卒業して伴奏曲を作るようになって試合を観に行ったら、超一流のチームが素晴らしい演技をしてもあまり感動しなかったんです。どうしてだろう?と考えたら、彼らのことを何も知らなかったから。すなわち感動に至るまでの過程がないんです。例えば自分が好きなチームと何度もやり取りして、練習しているところも観に行って、怪我しながらも頑張ってて……ということを知っていたら演技後、号泣できるんです。『NORA』に関して言えば“このエンディングも観たい”“あそこのシーン観られなかったからもう一回”と、例えばもう一回行って一回目では観られなかったところを観たりとか。あるいはSNSで同じ体験した仲間と感想を分かち合うとか。そういう行動一つひとつがプロセスだと思います。それがたくさん体験できるような舞台になっているので、作品に愛情を育みやすいのでより一人でも多く体験してもらえたら、と思います。

――ありがとうございます。公演を楽しみにしています。

<ストーリー>
かつて、 世界が人を作った。
やがて、 人は世界を作れるようになった。
命や、 運命までも。
だが、 理想を求めるほど、 理想から遠ざかる。
人は世界を作ることができても、
平等と平和を作り出すことはできなかった。
自由を求めて人々が逃げ込んだのは、 配信停止となった”いわく付きの”オンラインゲーム。
そこには、 秩序に縛られない人間の本性があった。
あなたの本性を、 あなたは知っていますか?

<DAZZLEについて>

「すべてのカテゴリーに属し、 属さない曖昧な眩さ」をスローガンに掲げ、 独創性に富んだ作品を生み出し続けるダンスカンパニー。
ストリートダンスとコンテンポラリーダンスを融合させた、 世界で唯一つのオリジナルダンススタイルを生み出す。 舞台作品においては映像によるテキストやナレーションで物語性の強い作品を上演。
映画・コミック・ゲームなどのジャパニーズカルチャーの要素を積極的に取り込む。 ダンスコンテストでも受賞多数。 ダンスエンターテイメントの日本一を決める「Legend Tokyo」優勝。 15分間の舞台芸術作品を競う「 Theatri‘KAl(シアトリカル)」優勝。 「花ト囮」ではダンス公演でありながら、 演劇祭「グリーンフェスタ」グランプリ・若手演出家コンクール優秀賞を受賞するなど、 演劇界からの評価も高い。 海外公演も積極的に行い、 SAMJOKOアジア演劇祭(2010 韓国)、 世界三大演劇祭の一つであるシビウ国際演劇祭(2011 ルーマニア)、 中東最大の演劇祭であるファジル国際演劇祭(2012 イラン)で「花ト囮」を上演。 観客総立ちの熱狂を巻き起こし、 ファジル国際演劇祭では審査員特別賞・舞台美術賞の二冠獲得。

<BLUE TOKYO (ブルートーキョー)について>

「青森から全国、 そして世界へ」の志と、 アスリートとして魂を育んだ青森県の「青(BLUE)」を胸に、 2010年に結成し世界での活躍を目指し「東京(TOKYO)」に活動拠点を置く。 所属メンバーは11名。 青森大学・青森山田高校男子新体操部出身のアクロバットプロパフォーマンスユニット。
Cirque du Soleilメンバーとしてワールドツアーとラスベガス常設ステージにて出演するメンバーも在籍。 個人、 グループとして国内アーティストのサポートパフォーマーや舞台公演、 海外公演、 企業イベントなど多方面で活躍中。
2017年2月青森市観光大使として任命。 2017年WORLD OF DANCEラスベガス大会優勝。 American’s Got Talent season 13出演。 写真は、 本作品「NORA」に出演する6名。

【公演概要】
公演タイトル:「NORA(ノラ)」
公演日時:6月25日(金)〜7月4日(日)
会場:あうるすぽっと
主催:キョードー東京
企画・制作:DAZZLE
物語の行く末に参加するかどうかは、 お客様の自由です。 参加希望の方は、 当日会場で無料貸し出しする、 自らの意志を示すための装置を劇中で使用して頂く形を予定しております。
演出・脚本:長谷川達也
振付:DAZZLE
音楽:林ゆうき
出演:DAZZLE(長谷川達也、 宮川一彦、 金田健宏、 荒井信治、 飯塚浩一郎、 南雲篤史、 渡邉勇樹、 高田秀文、 三宅一輝)
BLUE TOKYO(石塚智司、 大舌恭平、 佐藤喬也、 椎野健人、 石井侑佑、 植野洵)

取材:高 浩美
構成協力:佐藤たかし

公式WEB:https://nora-dazzle.tokyo/