《インタビュー》 SF時代活劇『虹色とうがらし』 脚本 鳥澄若多

あだち充原作の『虹色とうがらし』が初の舞台化となる。1990年~1992年にかけて、週刊少年サンデーにて連載。SFを交えた時代劇で、七人兄弟を中心に織りなすラブコメとアクションが魅力の、 あだち充作品の中でも異色。現在、文庫版コミックスが全6巻発売中。まんがアプリ「サンデーうぇぶり」などで電子コミックも発売中。地球によく似た星の、江戸という町のからくり長屋。そこで暮らす七人兄弟はそれぞれ母親が違う異母兄弟。彼らを中心に物語が展開する。この作品の舞台化、脚本の鳥澄若多さんのインタビューが実現した。

――「虹色とうがらし」舞台化の脚本執筆にあたって、作品のコンセプト面白さ(時代考証口出し無用とか)をお願い致します。

鳥澄:この作品はとにかく様々なコンセプトが存在する物話です。SF要素や時代劇というベースとなる舞台に加え、環境問題も大きな一つのテーマです。もちろんあだち充先生の描く各キャラクターの人間模様の面白さやラブコメ要素もふんだんに入っています。
そして「時代考証に口出し無用」という、時代ものにはあり得ない最強の予防線を最初に張って物語が始まっていくというまさかの展開(笑)
ただ、それこそあだち充先生の世界観だなとも思っています。
2.5次元舞台でも時代劇がモチーフになっている作品は数多くありますが、その中で展開されるSF要素やラブコメ要素、そして時代観を無視した演出構成というのは類を見ないものと思います。
「時代考証口出し無用」をまさに地でいくシーンも劇中に取り入れたので、そういったところも楽しんでいただければと思います。

――作品は「タッチ」で有名なあだち充さん原作ですが、あだち充さん原作コミックならではの特長はどこらへんにありますでしょうか。

鳥澄:あだち充先生の作品は中学生の頃に「いつも美空」の連載からコミックスを購入し始め、その後「KATSU!」も始まってコミックスを買っている最中、過去作品も買い漁るという学生時代でした。自分は野球少年で少年野球から大学卒業までずっと野球をやっていたのですが、「H2」や「タッチ」をしっかり読んだのは「いつも美空」であだち充先生の世界観にハマってから。
あだち充先生の作品はギャグやコメディシーンほどキャラクターの感情が豊かに描かれていて、喜怒哀楽がはっきりするシーンほど感情を表情に出ないように描かれている。だからこそ何気ないセリフの重みが伝わってきたり、涙が一筋流れるだけでもキャラクターの心中計り知れない感情が痛いほど伝わってくる。
「タッチ」の和也が亡くなるシーンや、「H2」の千川が伊羽商に負けた後に比呂がひかりにもたれかかるシーンなんかまさにそうですよね。
そして、あだち充先生のコマ回し、セリフ回しや何気ない返しが絶妙で秀逸で、本当に恐れ入ります。
はっきりと伝えない、遠回しに伝えるという表現が正しいのかわからないのですが、答えを先送りにしてるとか曖昧にしている、読者に考えさせるとかそういうことではなくて。きっとどんな事でも伝え方って何百通りも存在すると思うのですが、どこを通ってもその答えにたどり着くのだけど、普通の人ならAとかB、ちょっと捻ってEの道を通るところを、Jから入ってBを通ってからのZ、みたいな。でも読んでいる側としては決して複雑ではなくて、A’を通っているように見える。キャラクターの感情や情景もカット割りで表現しながら、複雑な想いほどシンプルにかつ独特に伝えているのが本当にすごいなと。
だからこそ、まっすぐに言葉で伝えるだけのシーンが最大のクライマックスとして際立つんだなと思います。

――コミックを舞台の脚本にすることの難しさ、ポイントなどお願い致します。

鳥澄:あだち充先生の作品全般かもしれませんが、『虹色とうがらし』に関して言えば、とにかく「すべてのシーン、すべてのセリフに意味があるんだな」と、脚本を書いていて改めて実感しました。
11巻分を2時間の舞台にしなければならないので、とにかくまずは改めて漫画を読み込みまくって、どこをフューチャーしていこうかを練りに練りました。
原作のシーンももちろん取り入れつつ、オリジナルストーリーも交えていっていいという事だったので、単なる漫画のダイジェスト版にならないように気をつけてはいたのですが、原作のシーンでここはカット、という所でも、書き進めると徐々に辻褄が合わなくなってきて、なんでだと思って読み返すと、「あっ、このシーンがここに生きてくるのか…」とか、「このセリフないとこのキャラこの考えにたどり着かないじゃん…」と何度絶望したことか…(笑)
普通に娯楽として漫画を読むときにはセリフがない情景のコマだったりは飛ばしがちになったりするのですが、そういうシーンにもひとつひとつ意味があって、色々なところへ繋がっている。
ここまで繊細に丁寧に描かれているのかと改めて感じました。
そしてセリフ終わりの部分一つとっても全然違っていて、例えばカタカナの小文字は漫画のセリフでも随所に使われていて、あだち充先生がカタカナにした意味をしっかり考えた上で、台本にもその意味と通ずる部分は同じように反映しました。
同じように七味の一人称が「俺」と「おいら」のところがあるのですが、演出的には統一したいところだと思うんですけど、例えば日常生活でも普段は「俺」でも目上の人には「僕」とか「私」って使い分けますよね。そういったところも意識して使い分けるように書きました。
そういった部分を自分で捻り出して意味や感情が繋がるように構成したり、あるいは漫画のシーンを一部組み替えて舞台の構成として筋が通るようにしたり。
めちゃくちゃ考えることが多くて苦労はしましたが、その作業は本当に楽しかったです。

――キャストも個性的な面々が揃っていますが、キャストさんと演じるキャラクターについてお願い致します

鳥澄:本当に個性豊かなキャストの皆さんにお集まりいただいたと思います。
演劇界やアイドル界の役者さんだけに留まらず、アーティストとして活躍する方、普段は映画やドラマでしょっちゅう拝見する方、さらには落語家の方まで(笑)
ビジュアルを見た時は全員ピッタリ過ぎてビックリしました。
ただ、脚本の執筆段階ですべてのキャストが決まっていたわけではありませんでしたので、キャストを見て当て書きというよりは、とにかく原作に寄り添った本にしたいなとは意識しました。
執筆と並行してキャスティングも進めていたので、ある程度見た目や立ち振る舞いなど原作イメージに沿った方をキャスティングしつつ、台本ではしっかりとあだち充先生が書いたキャラクターの特徴を損なわないようにと。
浮論や省吾、赤丸なんかは割と特徴的ですが、七人兄弟はもちろん兄弟だからかもしれませんが根の性格そのものはそこまで大きく違わない印象でした。
その中で、胡麻は長男の大黒柱ながらお酒大好きなおとぼけ落語家、三男の芥子の坊はお坊さんというお固い職でありながら同じくお酒大好きな酔いどれ坊主ですし、五男の陳皮は頭が良くて研究熱心だけど、下から2番目でまだまだ寂しがり屋の幼い一面もある。
お殿様の秋光は普通なら厳格でいなきゃいけないのに遊び人だし、半蔵はめちゃくちゃ優秀な忍者なのに抜けまくってるし、琴姫に至っては本家の血を引くお姫様なのにカウボーイの格好してる(笑)
そういうギャップが脇を固める各キャラクターには随所に見えますので、キャストの皆さんには是非そのギャップを意識して、感情をガシガシ当てていく芝居になり過ぎずに、それぞれの心の奥が見えるように、繊細に演じていっていただければと思います。
逆に、七味、菜種の2人はもうまさにあだち充先生の「あだち劇団」たる所以というか、そのまんまのキャラクターですよね。
この二人に関しては性格と立場(職業)のギャップというよりは、それぞれが抱える或いはその時々であらわにしない感情をお芝居の部分でどう長江さんと伊波さんが表現するのか、とても期待しています。
山椒は「パンチ」に変わる本作のマスコットキャラクター。とにかくその可愛さで観客の皆さんをメロメロにしてもらえればと思います(笑)

――ネタバレにならない程度に見所を。

鳥澄:大筋のストーリーはもちろん原作をベースにしているのですが、舞台にするためにただ端折るだけではないたくさんの工夫を凝らしています。それが時に伏線になったり、時に笑いになったり、台本上だけでも様々な仕掛けをご用意しているので、それが佐藤慎哉さんの演出とキャストの皆さんでさらに見応えあるシーンになるのではないかと思っています。
そして、原作では終盤の方に登場するキャラクターも、舞台版では原作要素とオリジナルシーンを交えつつ序盤、中盤から随所に登場します。
18名(山椒はWキャスト)のメインキャスト、さらにアンサンブル6名も含め、すべてのキャストに見所があるような構成にしましたので、好きなキャストが出てるけど、原作読んだら少ししか出てない…と思ってる人も安心して楽しんでいただけるのではないかと(笑)そして、もちろん原作ファンの方にも喜んでいただける「あだち充ワールド」の部分も存分に取り入れているので、最後はあっと驚いてスッキリしてお帰りいただければなと思います。
アクション監督の加藤学さんによるキャスト陣の大立ち回りや、演出の佐藤さんのセンスが光るコメディシーンも必見です。

――最後にメッセージを。

鳥澄:コロナ禍で、さらに現状感染が拡大し続ける中での公演で、観たくても観られない方も大勢いらっしゃると思います。
この企画が通って執筆し始めた昨年11月頃には、正直来年の夏ならもう大丈夫だろうと慢心していたのも事実です。
演劇も人が集まるライブエンターテインメントの一つ、大手を振ってお待ちしておりますと言えないのはとても歯痒いですが、こんな世の中だからこそ、せめて楽しみにしてくださっている方には観て絶対に損はさせないと、自信を持ってお届けできる作品になると思います。
キャストスタッフ含めた運営面での感染対策もしっかり行っておりますので、ずっと我慢してきた方も、自分へのご褒美としてたった二時間だけでも贅沢していただければと思います。

――ありがとうございます。公演を楽しみにしております。

【あらすじ】
七味(長江崚行)は、 母親の他界をきっかけに、 6人の異母兄弟が暮らすからくり長屋に身を寄せる。 実は彼らは将軍・秋光(松田賢二)が若かりし頃に訪れた村々で出会った女性との間に生まれた子ども達。 本人たちはそんなこととはつゆ知らず、 日々平和に暮らしていた。 七味もすぐに打ち解けたが、 次男で絵描きの旅人・麻次郎(荒井敦史)とはすれ違い、 唯一の女兄弟・菜種(伊波杏樹)とだけは、 どうにもお互い素直になれず…。
ある時、 「一人だけ血の繋がらない者がいるかもしれない?」との噂が流れたが、 兄弟たちはそんな話を一蹴し、それぞれの故郷と母親の墓参りを巡る旅に出る。
暗躍する謎の浮浪人・浮論(沢村 玲)、 突如現れた異人、 将軍家のお家騒動にも巻き込まれた、兄弟たちの旅の行く末は…?
地球とよく似た未来の話、 時代考証口出し無用のSF時代活劇が幕を開ける!

<公演概要>
公演タイトル:SF時代活劇『虹色とうがらし』
公演日程:
2021年8月28日~9月5日 全16公演
劇場:あうるすぽっと
原作:あだち充「虹色とうがらし」(小学館 少年サンデーコミックス刊)
脚本:鳥澄若多
演出:佐藤慎哉(アナログスイッチ)
出演:
七味・・・・・・・長江崚行
菜種・・・・・・・伊波杏樹
浮論・・・・・・・沢村 玲(ONE N’ ONLY)
省吾・・・・・・・釣本 南
琴姫・・・・・・・トミタ栞
半蔵・・・・・・・松原 凛
胡麻・・・・・・・桂 鷹治
芥子の坊・・・・・熊野利哉
陳皮・・・・・・・木村風太
山椒・・・・・・・猪股怜生/岡田悠李(Wキャスト)
彦六・・・・・・・上山克彦
貴光・・・・・・・光宣
バン艦長 ・・・・ 富山バラハス
赤丸・・・・・・・藤木陽一
絵美・・・・・・・聖山倫加

麻次郎・・・・・荒井敦史

秋光・・・・・・・松田賢二
アンサンブル…白井サトル 生谷一樹 宮田龍樹 志摩匠人 森野憲一 浅田壮摩
プロデューサー:川瀬良祐
エグゼクティブプロデューサー:大関 真
特別協力:小学館
企画制作:スーパーエキセントリックシアター
問い合わせ:SETインフォメーション TEL:03-6433-1669(平日11:00~18:00)

MAIL:info@set1979.com
公式ツイッター:https://twitter.com/niji_tohgarashi
公式HP:https://nijiirotohgarashi-stage.com

©あだち充・小学館/SET

取材:高 浩美