本日開幕! 成田凌、黒木華、コムアイ出演! 原作 燃え殻 朗読劇「湯布院奇行」インタビュー 佐藤佐吉 脚本 企画 TBS 佐井大紀

「湯布院奇行」は燃え殻書き下ろし原作、佐藤佐吉脚本、演出は数々のヒットドラマを手掛け、また映画監督としても活躍する土井裕泰の朗読劇。成田凌が演じる作家が、黒木華演じる謎の女に誘われて幻想的な世界に誘われる。コムアイは歌唱と朗読で参加、またコムアイが歌唱する楽曲は坂本慎太郎。

この意欲的な朗読劇、脚本の佐藤佐吉さんと企画のTBS・佐井大紀さんのインタビューが実現した。企画の発端や設定などをお伺いした。

――企画の発端について聞かせてください。

佐井:発端といたしましては、原作者の燃え殻さんとかねてから交流がありまして。年齢は20歳くらい離れているんですが(笑)。Twitterのやり取りをしていたときに、「こういうのあるんだよね」と冒頭の原稿を送ってもらっただけで「これはおもしろそうだ」となりまして。会社に持ち帰ったら「舞台として上演したいね」と、会社の方針とも合致して朗読劇という形で企画が進みました。それから燃え殻さんとやり取りして、冒頭の部分だけでなく全体を広げていって、シナリオ化まで形にしていきました。

佐藤:社長を通じて連絡をいただいたんですが、舞台の脚本は一本もやったことがありませんでした。ですが燃え殻さんの原作は全部読んでいるくらい好きだったし、土井さんの演出という期待感もあって二つ返事で引き受けることにしました。佐井さんも僕の作品をたくさん観ていただいていて、随分プッシュしてもらったみたいで。そこから交流が始まったと思います。

佐井:佐吉さんの手掛けてらっしゃった作品『シリーズ・江戸川乱歩短編集』を観たときに、「こんなに原作にリスペクトしている人はいない」と感じまして。原作のもつセリフの美しさや、登場人物のキャラクター性などを解体して構築するのではなく、ちゃんと汲み取ることのできる人だなと感じたんですね。なので、佐吉さんでなければどうなっていただろうと思えるくらいの脚本を作っていただけたと感じております。

佐藤:やはり、キャラクターは変えられないですから。この人物はこんなことは言わないだろう、と判断したところなどは薄氷を踏むような気持ちで、なんとか書かせていただきました。

――『湯布院寄行』というタイトルにこだわりは?

佐井:これは、あまりこだわりはなかったと思いますが、最初から温泉地というか…桃源郷というんでしょうか、観光地として湯布院というよりも三島由紀夫の「金閣寺」みたいな、金閣寺そのものではなくて内なる概念を示すような、そういったイメージを持って進めていきました。

佐藤:お話をいただいたとき、何一つとして湯布院らしいイメージの言葉が書かれていなくて。なので僕も特に調べることはせず、燃え殻さんの原作重視で行こうと。先程おっしゃっていたようにある種の理想郷というか、浦島太郎の竜宮城のようなイメージですね。

佐井:燃え殻さんが実際に交流のある現代アーティストの方から、「湯布院で休んでくれば」と言われたことがあるそうなんです。冒頭の段階では、その方の印象から発想をしたようですね。

佐藤:僕も(話を聞いたとき)おそらくあの方のイメージなんだろうな、と思っていました。

――物語には「僕」のほかにはいろいろな女性が出てきます。実際に脚本に落としてみていかがでしょうか。

佐藤:朗読劇って本来そこまで脚本は重要ではないかなと思っていたんですが、今回は、小説からなので…極論をいえば誰かが読みさえすれば朗読劇で成り立ってしまう。はじめて打ち合わせをしたときに、土井さんから「対話劇にしたい」という意見がございまして。はじめはこの原作からはちょっと無理があるのでは、と思いましたが結構強引に(笑)脚本へと落とし込みました。
一方で、この作品は今までの燃え殻さんの作品とはまったく違うな、とも。あえて今までと違う方向性を見出されたんだと思っていますが。例えば「昔の彼女」は燃え殻さんが常々書いている女性のタイプに似ていますけれども。主人公や温泉で出てくる人物についてはだいぶ違っていたので。そこに関してはかなり想像しながらのオリジナル要素を過分に含ませていただきました。土井さんからも「魔性の女」とリクエストがあったし、イメージ的には竜宮城の乙姫といったような感じで…そういう流れになればいいかなと。

佐井:ダイアログにしていただくには佐藤さんでないと成立しない、と思っていたんです。新しい台本が来る度、土井さんと会社でお互いニヤっとしながら「今回も素晴らしかったね」と話したり。正直、無理難題っていうんでしょうか、バラバラになったパーツを組み上げたような感じです。

――女性のキャラクターに特徴がありますし、それを一人の女優さんが演じるところもおもしろさがありますよね。そこには意図があったのでしょうか?

佐井:女性のキャラクター造形を燃え殻さんとしたときに、母親、姉、恋人といろいろなイメージの女性を全員同じ女だったとするのはどうか、と提案があったんです。これは本作のテーマの根幹である、自己と他者、他者から反射を受けて自分自身が存在するという現代人の病とも、物語上深くリンクしてきます。
実は、佐吉さんが先程おっしゃっていた「昔の女性」が出てくる東京の章が燃え殻さんから送られてきたときに、「湯布院って書いてあるのになぜ東京?」って思っていたんですね。その意図としては、女性と主人公のキャラクター造形には普段の文体というか、人格を作ってからにしましょうというものがあったのだと思います。原作の小説は人物という側面からみればあえて煙に巻いたようなものがあるのですが、そこを佐吉さんにうまく脚本にしていただけたのは、オファーし甲斐があったなと思っています。

佐藤:最初に原作をいただいたとき、朗読劇が出てきたときに、女性がたくさん出てきて「これはいったいどうなるんだろう」と思う部分もあったんです。ですが演じるのが黒木華さんと聞いて…黒木さんだからこそやれる役なのかな、と…主要な二名を演じることも相当たいへんだと思いますが、黒木さんならきっとやってくれるだろうと期待もあって。

佐井:これは無茶振りですよね(笑)。でも、土井さんから「ぜひ黒木さんに」という強い思いがあったので、間違いないと思いオファーさせていただきました。また、何役もやるという面では声優さんがプロフェッショナルだと思うんですが、声優さんはあくまで「演じ分け」で、キャラクターごとに違う“記号”を出していってもらうという部分もありますから、今回の着地点とは異なってしまうかなと。そこでやはり、映画や舞台の女優さんの方が当てはまっているのではないかと思いまして、黒木さんで、ということに。

佐藤:一人で何役もやるってたいへんなことなんですよ。しかも映像のように絵として差をつけることもできないし。それを、キャラクター的な演じ方ではなく、演じきれることができたらそれはすごいことだぞ、と期待しています。

佐井:「僕」を演じる成田さんに関しては、『傷だらけの天使』の萩原健一さんのようなイメージを抱いていて。すごく知的な医大生と言われても、チンピラだと言われても、スターだと言われても、どれも説得力がある人なんです。今回、演じる役は成田さんより年齢が上なんですが、それでも納得できる声を持っている方。土井さんと主人公は成田さんがふさわしいのではないか、と打ち合わせしたら、土井さんも同じことを考えていたようなので、成田さんにオファーしましょうと事が進みました。主人公は、ある意味特殊な人に選ばれてしまって、自分の中を解き離れてしまい違うものに化けてしまう……という部分があるので。そういったところも含めて成田さんが一番合っているなと。

――それでは、最後にメッセージを。

佐井:本当に、おもしろい作品だと思います。こういう環境なので難しいと思いますが、ぜひ生で観ていただきたいなと。朗読劇というだけでなくて、ある種のムーヴメントというか、各界のカルチャーを体現していらっしゃる方が集まっているので。末永く、純粋に楽しんでいただけたら。

佐藤:観たことのない朗読劇になるんだろうな、という確信があります。土井さんとともにことごとく朗読劇のセオリーを潰していっているような作品なので。実は僕以外に佐井さんも、土井さんも、それから成田さんも朗読劇ははじめてで。それが混ざり合って、得体のしれない、けれども、ものすごい魅力的な、観たことのない朗読劇のあり方を示すことができるんじゃないかと思います。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

<あらすじ>
「今、君の⽬の前に立っている女を私たちで共有しないか?」
店先で⼥から渡された手紙に、そう書かれていた。
都会での生活に疲れた作家の「私」は、 知り合いの芸術家の勧めで湯布院へ向かう。
そこで瓜二つの2人の女性に翻弄され、 徐々に現実と虚構の境がわからなくなっていき・・・
彼の行き着く先は楽園か、 それとも・・・!?

<概要>
朗読劇「湯布院奇行」
日程・会場:2021年9月28日〜9月30日 新国立劇場 中劇場
出演:成田凌/黒木華/コムアイ
原作:燃え殻
脚本:佐藤佐吉
演出:土井裕泰
公式HP:https://www.yufuinkikou.com

構成協力:佐藤たかし
取材:高 浩美
撮影:編集部