2021年のステージを振り返る。そして2022年は?

2020年は2月後半ぐらいからコロナ禍に見舞われたが、この2021年は年頭からコロナ禍の中にあった。感染者の増減を繰り返し、演劇を含むライブエンタメは公演数が多いゴールデンウィークに緊急事態宣言、中止に追い込まれた。それが落ち着いたかと思いきや夏には再び感染者が増えて、中止や延期を決断する主催者も多かった。ようやく感染者が減り、多少日常に近くなった感も出てきたところで新しい変異株の出現、オミクロン株がじわじわと広まりつつある。公演を決めても安心できない状態が継続している。ただ、手洗い、消毒、距離の確保など、どういう対策を講じれば良いのかがわかり、それを徹底すればある程度は防げるということがわかった。記者会見でよく耳にしたフレーズ「マスクを外して、初めてどんなお顔かわかった」。稽古ではマスク着用のため顔の半分が隠れてしまう、マスクで声が聞こえにくいといった支障があった、ということもよく耳にした。だが、中には、このコロナ禍を逆手にとって時代設定を現代とし、マスクをつけての演劇も散見された。また、ライブ配信、アーカイブ配信はもはやスタンダードになりつつある。その配信だが、中にはスイッチングを自分で行うこともできるケースもあり、これは観た回数だけ違った景色が観られるということ。これは新しい鑑賞方法といえるだろう。

また、朗読劇が増加、距離も取りやすく、物理的に向かい合わない分、俳優陣の感染リスクが少ない。朗読劇は動かない分、俳優陣の技量がより試される。また、朗読劇ならではの良さ、観客が想像力をフルに働かせる。最近はテクノロジーの発達により、映像を駆使し、より具体的に、より派手なシーンを創り出すことが可能になった。特にアクションシーンはど迫力を楽しめる。それとは全くの真逆な立ち位置にあるのが朗読劇。どちらが良いか、ということではなく、その人の趣向、その時の気分で観れば良い。つまり選択肢の幅が広がったということである。

2.5次元は人気シリーズものはやはり根強い人気があるが、中には舞台で前日譚をやり、それからゲームを発売するという新しい舞台も登場した。舞台「 滄海天記・序篇~ 天月、 闇に墜つ ~」は、戦国時代に古事記を掛け合わせた設定、よって登場人物に天照大神、月読命、須佐之男命といった古事記では著名なキャラクターが登場する。彼らがどんな活躍をするかはゲームで、という趣向。また、超人気コミック「北斗の拳」のミュージカル化、物語はラオウ昇天まで。作曲はフランク・ワイルドホーン、演出は石丸さち子、世界マーケットを狙ったミュージカルであるが、作品自体も海外でもよく知られたタイトル、ただなぞるだけでなく、原作よりも民衆の生きざまが色濃く描かれ、物語の輪郭をはっきりとさせ、またファンが期待しているシーンは体当たりな演技。男性陣は文字通り身体を張り、そのために肉体改造までして挑んだ。海外でも通用できるクオリティで、コロナ禍が収まったら、どのような展開をしていくのか、その準備として配信も行っており、やはり、多くの人々に作品を知ってもらうには、配信は欠かせないアイテムになりつつある。

2.5次元以外ではユニークな作品、良質な作品を発表し続けているスタジオライフでは、有名な若草物語を昭和初期に置き換えた「ぷろぐれす」を上演、キャラクター設定などは原作から借りてきているが、物語や雰囲気は独自のもの。母親は割烹着姿、娘たちもこの時代の雰囲気で長女は三越デパートにお勤め、もちろんキャリアウーマン志向はなく、良縁に恵まれれば家庭に入るであろうことは想像つくし次女は「若草物語」のジョー的だが、まだ、大正デモクラシーの匂いが微かに残っている感じのキャラクター、三女は学校を出て家事手伝い、つまり花嫁修業といったところだろうか、四女は末っ子らしい甘えん坊的なキャラクターだが、家族をよく見ている、といった感じだ。典型的な“何も起こらない”物語、叔母が長女に縁談を持ってくるが、これもよくある話。この“よくある話”をいかに魅力的に描き出すかは、演出家の手腕。また、扉座の主宰である横内謙介の私戯曲『ホテルカリフォルニアー私戯曲 県立厚木高校物語―』、劇団創立40周年記念公演であったが、内容は彼の体験がベースになっているので、この時代を知ってるなら、かなりリアルに感じることだろう。絵空事でもなく、ファンタジーでもなく、ノンフィクション。もちろん、舞台作品として仕上げるには多少のフィクションもあるかと思うが、そこに描かれているのは、10代の青春、それも学園ドラマのように爽やかなものではなく、シニカルでクスッと笑えて、ちょっと切ない高校生たちの生きざま。横内謙介は今年還暦、一緒に扉座を立ち上げた仲間たちもアラカン、彼らが詰襟を着ている。舞台を見ないで、それだけ聞いたら「いい歳して」と思うだろうが、実は本人たちが本人を演じることによるリアルと虚構。そこにこの舞台のマジックがある。文字通り、笑いと涙と切なさが混ざり合って観客席に届く。多分、もう上演されないであろう一期一会な公演であった。そして来年劇団創立35年になろうとしている音楽座ミュージカルの『7dolls』が年末に上演、新作ではないが、前回公演とは全く異なるテイスト、原作はポール・ギャリコ。“生きる”ことを色濃く、全面に出し、そしてより洗練された舞台に。22年はアニバーサリーイヤーということで新作が控えている。

2022年は、1月から意欲的な作品が上演される。コザ騒動をベースにした『hana -1970、コザが燃えた日-』、コザ騒動自体を知らない観客も多いかと思う。当時、沖縄の人々には日本の法律もアメリカの法律も適用されなかった。基地があり、1968年には爆撃機が炎上する事件もあった。アメリカ兵が凶悪犯罪を犯しても証拠不十分で無罪や微罪になっていた。細かくあげればきりがないが、大作、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」が夏に控えている。また、赤狩りが吹き荒れたハリウッド映画界を描いているマキノノゾミの「モンローによろしく」、2.5次元では劇団四季の「バケモノの子」、アニメ原作では「美女と野獣」「ライオンキング」などが既に上演されているが、日本のアニメ原作は初めて。また、1月1日には劇団四季公式Youtubeチャンネルで出演候補キャストによる新春スペシャルトークが行われる。そこで作品の魅力などが語られる予定だ。かつては、このように新作については、キャストインタビュー記事などでしか垣間見ることはできなかったが、動画を使って作品を広める。演劇チケットは高額なだけに、このように動画で事前に作品の内容がわかるのは観客にとっては嬉しいこと。他のカンパニーでも行っているが、動画でのプロモーションは今後、もっと増え続けるであろう。あとは劇場版が大ヒットしている芥見下々原作の「呪術廻戦」の舞台化も12月に発表に、公演は7、8月。

2022年、上半期の上演作品が全て出揃ったわけではないが、コロナ対策も浸透し、よほどのことがない限り2020年のようにどこの劇場もほぼ開いてない、という状況にはなりにくい。コロナ前ではあるが、劇場でインフルエンザをうつされたという話も聞く。コロナに関わらず、安全な劇場にするためには主催者は無論、観劇に行く側もマスクで鼻と口をしっかりと覆うなどの基本を行うのが肝要。それを行ってから全力で楽しむ。劇場文化を盛り上げることは特別なことをすることではなく、小さなことの積み重ねで、しっかりと支えていくことが未来につながる。

 

  「シアターテイメントNEWS」 編集長 高 浩美