朝海ひかる主演 舞台『サロメ奇譚』憎しみ、愛、嫉妬が渦を巻き、悲劇へと向かう

演劇ユニット「ブス会*」を主宰するペヤンヌマキによる脚本で、オスカー・ワイルドが新約聖書を元に書いた戯曲『サロメ』を新たに描いた作品。演出は所属する文学座のみならず劇団内外でその才能に注目が集まる稲葉賀恵、誰もが知る「サロメ」を現代に置き換えた意欲作。

主演のサロメを演じるのは、1991年に宝塚歌劇団月組公演「ベルサイユのばら」で初舞台を踏み、芸能生活30周年を迎えた朝海ひかる。共演者には、サロメの母親に松永玲子、預言者ヨカナーンに牧島輝、サロメの義父にベンガル。

不穏な雰囲気を孕んだ音楽、サロメ(朝海ひかる)とその両親、この物語の主要人物が登場。場面はヘロデ(ベンガル)の還暦祝い、資産家で実業家、多くのゲストが招かれている様子、ここでマグロの解体ショーを行う。祝いの席は一段と盛り上がる。そして邸宅のリビングらしき場所、大皿に盛られたマグロ、大きな頭が飾られている。両親と不仲なサロメがいない。「サロメはどこへ行った」とヘロデ。そこへ浮かない顔でサロメ。「風俗王」、なかなかに下品な呼び名。そんな時に男の声、「その男は…うじの餌食となり、朽ち果てるのだ」声の主はヨカナーン(牧島輝)、「取り押さえろ!!」とヘロデ。これが悲劇の始まり。

場面かわって、母・ヘロディア(松永玲子)がサロメに言う「これを着なさい」「はい」「綺麗よ」、いわゆる『毒親』、ドレスに無理やり着替えさせているが、娘の美しさや若さに嫉妬している。こんな家にいたくないと思うサロメ、そんな気持ちのサロメ、運命の出会い、預言者・ヨカナーンに出会う。


オスカー・ワイルドの「サロメ」、そこに現代的な設定やアレンジを加えた『サロメ奇譚』。祝いの席で供されたマグロ、大皿に乗ったマグロの頭、有名すぎる原作、ラストを彷彿とさせる。また、細かいやりとりは時折、クスッと笑えたりする。ヨカナーンに心を奪われるサロメ、親が用意した結婚相手に対して「この人と結婚したくない」というも母は彼女に「言うことを聞いていれば間違いないの」としたり顔でいう。ヘロデは下品なだけではない、原作もそうだが、兄を殺して現在の地位にいる。「兄への嫉妬」という。そしてヘロデはサロメを踊らせることを思いつく…。


”サロメ”と聞けば、耽美、官能、美、ヨカナーンの首を持って微笑む残酷さ、このあたりを連想するのではないだろうか。だが、サロメは普通の感情を持った女性。下品でいやらしい目で自分を見る父を毛嫌いし、自分に嫉妬し、支配しようとする母を疎ましく思う気持ちは、同じ境遇であれば、家を出たいと思うのは自然なこと。だが、翻ってヘロデ、サロメは実の娘ではない、実際には赤の他人、サロメが美しい故に立場的にはそのような感情を抱くのは”不道徳”であり、恥ずべきこと。自分の気持ちに正直なのかもしれない。そして母・ヘロディア、親としての自分、女としての自分が彼女の中に存在している。そんな家族に入り込んできたヨカナーン。権力に屈しない、恐れを知らない、凛々しく、自信に満ちた眼差し、サロメが彼に心惹かれるのは当然の流れ。だが、原作もそうだが、サロメの愛情はヨカナーンには届かなかった。そして有名な”7つのヴェールの踊り”、クライマックスへと物語は進行する。


ベンガルの演じるヘロデのお下劣さ、松永玲子演じるヘロディアの熟した色香、サロメ演じる朝海ひかる、白い衣装で凛とした雰囲気を放つかと思えば、等身大の普通な女性らしさも見せる。そして”7つのヴェールの踊り”では得意のダンスを、ここは見どころ。白いシャツが眩しいヨカナーン演じる牧島輝、どこまでも真っ直ぐで信じた道を突き進む強さを秘める。上演時間はおよそ90分だが、濃密に物語を見せる。東京公演は3月末日まで、その後は大阪公演、大千穐楽は4月10日。なお、3月26日はアーカイブ付ライブ配信が決まった。詳細は公式HPにて。

<コメント>
朝海ひかる
『サロメ奇譚』いよいよ幕が開きます。
この一ヶ月、脚本家のペヤンヌさん演出家の稲葉さんはじめスタッフの方々、そしてキャスト全員で作り上げてきました。オスカーワイルド版『サロメ』のビターな所は残しつつ、現代の私達にも共鳴できる作品になっていると思います。
是非劇場へ足をお運びください。お待ちいたしております。

松永玲子(ナイロン100C) コメント
ちょうど2年前、最初の緊急事態宣言直前に私はこの東京芸術劇場シアターイーストでの公演が初日前日に自粛要請で中止になりました。カンパニーや作品は違えど、この劇場に再び立つことができるのは、喜び一入と同時に身の引き締まる思いです。あの日、まさか2年後もこんな状況だとは思わなかったし、世界はより深刻な方向へと進んでいます。暗いニュースの多い中、お客様を違う世界へお連れすべく精一杯つとめます。

牧島輝 コメント
今回は預言者ヨカナーンという役を演じる上での課題の一つとして、魅力というものについてずっと考えていました。現れただけで空気を変える存在感。幻想的で魅惑的な声。ある人には希望を、ある人には絶望を、そんな影響を与えられる人はどんな人なんだろうとずっと考えていました。正直答えは出ていないです!! 笑 探し続けています!!
ただ、何者なのか分からないこともヨカナーンの魅力の一つなんだと思います。
どんなヨカナーンを演じるのか、あなたの目にはヨカナーンがどう映るのか、楽しんでもらえたら嬉しいです!

ベンガル コメント
あの世界的に有名な悲劇「サロメ」を今をときめくペヤンヌマキさん・稲葉賀恵さんが作・演出を手掛け、設定を現代の日本に置き換えてお送りする画期的な意欲作です。
悲劇の中に必ず存在する喜劇的要素を楽しんで頂けたら最高です。

ストーリー
サロメ(朝海ひかる)は両親にうんざりしていた。血のつながりのない義父ヘロデ(ベンガル)は常に自分を性的な目で見ており、下品な言動を繰り返す。実の母であるヘロディア(松永玲子)もサロメに過度な女らしさを求め、一方で彼女の美しさに嫉妬していた。ある晩、実業家で資産家でもあるヘロデの還暦祝いが彼の豪奢な邸宅で開かれた。地元の名士が集う中、突然現れた預言者ヨカナーン(牧島輝)。彼は「権威ある者の破滅」を予言する。ヘロデはすぐにヨカナーンを捕らえるが、一方でサロメは急速に彼に惹かれてしまう。誰もが知る悲劇への歯車が、ゆっくりと回り出していく。

概要
『サロメ奇譚』
原案:オスカー・ワイルド『サロメ』
脚本:ぺヤンヌマキ
演出:稲葉賀恵
出 演:朝海ひかる、松永玲子(ナイロン 100℃)、牧島 輝、ベンガル
東谷英人(DULL-COLORED POP)、伊藤壮太郎、萩原亮介
日程・会場:
[東京]
2022年3月21日(月)~3月31日(木) 東京芸術劇場 シアターイースト
[大阪]
2022年4月9日(土)~10日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
公式 HP: https://www.umegei.com/schedule/981/
Twitter : @salomeoddities
企画・制作・主催:梅田芸術劇場
問合せ: 梅田芸術劇場(東京)0570-077-039/(大阪)06-6377-3888