みんなで楽しむオペラ『ヘンゼルとグレーテル』構成・演出 田尾下 哲 インタビュー

原作は世界中の人が知っているグリム童話『ヘンゼルとグレーテル』。ドイツの作曲家であるエンゲルベルト・フンパーディンクの作曲した全3幕のオペラ。台本は妹のアーデルハイト・ヴェッテで題材と同じ兄妹コンビ。1893年にヴァイマルにて初演。フンパーディンクの代表作、ワーグナー以後に多く現れたメルヘン・オペラの代表的な作品。ドイツ語圏では上演回数上位の人気作で英米でも人気の高い作品だ。
これを多くの世代が楽しめるようにおよそ1時間にして上演。このオペラの構成・演出を担う田尾下哲さんのインタビューが実現した。

――大人も子供も楽しめるオペラ、つまり「ファミリー・オペラ」のような公演ですが、このような幅広い年齢層に向けたオペラの演出は、過去にも演出したことはございますか。もし、あれば、その時のお話を。

田尾下:2006,2007年に新国立劇場でプッチーニのオペラ『トゥーランドット』を指揮者で編曲者の三澤洋史さんとともに翻案しました。舞台を宇宙にした『スペース・トゥーランドット』とした作品でした。子供達に見せるからこそ、時間は短くともエッセンスを凝縮して、宇宙バトルの場面のCGもフルCGで作ってもらい、汗だくになりながらリハーサルをしていたことを良く覚えています。夏休み期間に2年間上演したのですが、全公演が完売で、私や当時の芸術監督ノヴォラツスキーさんの席も販売用に回してもらい、立ちながら観劇し、子供達の反応を嬉しく見ていたことを昨日のことのように覚えています。作品を作るときに心がけたのは、物語のスピードの現代的な速さ、そしてキャラクターの親しみやすさ、映像だけでなく表現技術の新しさ、そして人の心の温かさ、大切さをテーマにしました。

――オペラ「ヘンゼルとグレーテル」、作曲はドイツの作曲家フンパーディンクによるもので、上演時間は2時間ほどのものを1時間にしていますが、どのように1時間にまとめていらっしゃるのでしょうか。

田尾下:バリトン歌手の宮本益光さんと一緒に取り組みました。益光さんは訳詞とセリフもなさっていますが、本来はどぎつい言葉も多く、最後には魔女がかまどに入れられて殺されてしまう物語なのですが、両親が悪戯の過ぎる子供達に愛を持って教育をする、というコンセプトで親子の愛をテーマにしています。ですから、冒頭は序曲から始まるのではなく、ママの子守歌から始めます。もちろん初演時は岡本知高さんを想定してそのようにしたのですが、その構成は2022年度新版でも引き継いでいます。あとは、ママが魔女を演じるのですが、その発案はパパになっていて、通常でいう魔女の場面にパパも登場するのも本作の特徴ですね。

――見どころ、聴かせどころをお願いいたします。振付はZoo-Zooさんが入っていらっしゃいますね。

田尾下:今回は、新しいメンバーと新しいヴァージョンを作る!!と言うことで、演出補の砂川真緒さんと振付のZoo-Zooさんがこれまでの神奈川県民ホール版を踏まえながらも、新たに作っています。ですので、私は演出といっても原案に近い立場で、若い女性たちの感性で思いっきりアクティブに、ポップに作ってくれています。初演メンバーは今回の舞台を見たら驚くかもしれないですね。でも、それだけアクティブになってもメッセージは変わらず、音楽の力そのままに歌われているので、新しいヴァージョンはこれまでご覧になってくださった皆様にも是非ご覧いただきたいです。

――キャストさんはオーディションだったようですが、キャストさんについてお聞かせください。

田尾下:これまでのキャストのイメージを引きずらないように審査に参加しました。
皆さん、既に知られた物語、キャラクターを新しく作り出すプロジェクトにとても真摯に取り組んでくれていて、おそらく1時間とはいえ、ここまで歌って踊って…しかもフンパーディンクのワーグナー張りの歌唱が求められる作品で…大変だと思います。ですが、真緒さん、Zoo-Zooさんの世界観で物語が立ち上がっている姿を見て、とても心強く、まぶしく眺めています。最終公演まで誰も怪我をしないで、今のエネルギーで突っ走って欲しい!そう思っています。

――最後に読者に向けてメッセージを。

田尾下:新しく生まれ変わった神奈川県民ホール版『ヘンゼルとグレーテル』。若い力で作り上げたスピーディでアクティブ、そしてポップで暖かい新版を是非楽しみにご覧いただきたいです。子供達は誰だって遊んだりイタズラしたりしたくなるものです。でも、時にはそれを親たちはたしなめないといけません。そんな時にフンパーディンクのちょっと怖くてかっこいい音楽が、雄弁に家族の愛の物語を描きます。是非、1時間の家族愛の物語を楽しみにご覧下さい。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。

概要
日程・会場:2022年11月26、27日 神奈川県民ホール 小ホール
構成・訳詞・台本:宮本益光
構成・演出:田尾下哲
演出補:砂川真緒
振付:Zoo- Zoo(jaywalker)
出演
11月26日
ヘンゼル:重田栞
グレーテル:竹村真実
ママ/お菓子の魔女:鳥谷尚子
パパ:寺田功治
ピアノ:高田恵子
11月27日
ヘンゼル:郷家暁子
グレーテル:今野沙知恵
ママ/お菓子の魔女:高野百合絵
パパ:野村光洋
ピアノ:平川寿乃
主催:神奈川県民ホール

公式サイト:https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/HanGre2022