東京バレエ団 新制作『眠れる森の美女』上演

古典を歪めることなく、現代にふさわしいアップデートを。芸術監督 斎藤友佳理が総指揮をとる東京バレエ団 創立60周年記念シリーズ第2弾。

『眠れる森の美女』は、絶対的な晴れやかさと華やかさが魅力の、古典バレエの最高峰と称されているが、今回新制作の総指揮をとる芸術監督の斎藤友佳理がめざしたのは、この受け継がれた傑作の品格、薫りを保ちつつ、現代のバレエ芸術に相応しいアップデートを行うこと。そのために役立ったのが、斎藤がモスクワの舞踊大学院で専攻した“伝承学”の教えや、『ラ・シルフィード』の蘇演で有名な振付家である故ピエール・ラコットの下で指導に携わった経験、そして本作で自ら主演した舞台経験による様々な気づきも演出に役立てられている。

リラの精はオーロラの‟洗礼の母“。オーロラを守り、導き、王子と引き合わせる

ダンスを技術的にアップデートし、場面展開の矛盾を所々解決するいっぽうで、『眠れる森の美女』を善と悪の対立を描くただのおとぎ話ではなく、そこに舞台芸術が本来持つべき深みを加え、意味のあるものにしたい。
そう願った斎藤は、まずリラの精とオーロラとの関係に注目。この物語ではリラの精はオーロラの「洗礼の母」であり、オーロラが誕生してから100年の眠りにつく間、ずっとオーロラを見守り続けている。また、ここではリラの精は100年後の世界におけるデジレ王子の「洗礼の母」でもあり、時を経てデジレを生い茂るリラ(ライラック)に囲まれたオーロラが眠る城へと導き、彼女と引き合わせる。

リラの花に囲まれたオーロラが眠る城   エレーナ・キンクルスカヤによる舞台装置画より

注目は第2幕、 異界でオーロラとデジレが出会う幻想の場

デジレ王子がリラの精によって初めてオーロラの存在を知る第2幕の幻想の場面では、舞台芸術が古来、観客に示してきた世界──「生と死」の世界が意識されます。従来はここでデジレとオーロラがともに踊ることも多いのですが、斎藤版では、オーロラとデジレはけっして触れ合うことはありません。なぜなら彼らは異なる次元、世界にいるから──というのが斎藤の解釈です。「100年の眠りにつくということは、一旦‟死ぬ”ことと同じ。オーロラはいわば黄泉の世界にいるのです」(斎藤)。その幻想ののち、リラの精に導かれてオーロラの城へ向かうデジレは、彼女と出会うために現世と異界を隔てる“川”を渡っていきます。「‟パノラマ“の場面ではこの考え方を強調して演出を施しました」(斎藤)。

リラの花に守られて眠るオーロラ姫(秋山瑛)
沖香菜子(オーロラ姫)、秋元康臣(デジレ王子)photo:Shoko Matsuhashi
秋山瑛(オーロラ姫)、宮川新大(デジレ王子)photo:Shoko Matsuhashi
金子仁美(オーロラ姫)、柄本弾(デジレ王子)photo:Shoko Matsuhashi

男女のカラボス、華麗なる競演

リラとカラボスの対立は、リラ(ライラック)の花々をあしらった鮮やかな紗幕と、カラボスの悪意を象徴する蜘蛛の巣が視覚的にせめぎ合う効果的な演出が施され、物語を象徴的に導いていきます。ことにカラボス役には柄本弾と伝田陽美という男女の実力派ダンサーが配され、それぞれの持ち味を華麗に競うことが期待されます。

柄本弾(悪の精カラボス)photo:Shoko Matsuhashi
伝田陽美(悪の精カラボス)photo:Shoko Matsuhashi

創立60周年に向けて大躍進を遂げる東京バレエ団

2023年夏、東京バレエ団はオーストラリアで「ジゼル」全11公演を連日満席にして絶賛を博し、この10月には世界的振付家の金森穣による「かぐや姫」全幕の世界初演を果たした。その3週間後に、古典の最高峰『眠れる森の美女』の新制作を初演と、まさにビッグプロジェクトが目白押し。

斎藤 友佳理 (さいとう ゆかり)  東京バレエ団芸術監督

photo:Nobuhiko Hikiji

神奈川県出身。6歳よりバレエを始める。ロシアへの短期留学を繰り返し、M . セミョーノワやE. マクシーモワに師事。1987 年に東京バレエ団に入団、以後25 年にわたって同団のプリンシパル として活躍した。1992 年の海外公演ではボリショイ劇場、マリインスキー劇場などで『ラ・シルフィード』を踊り、“ 日本のマリー・タリオーニ” と称賛される。数々のロシア国内の劇場や、リトアニア、セルビア、またハンブルク・バレエ団などに客演している。 2009 年、ロシア国立舞踊大学院バレエマスターおよび教師科を首席で卒業、2011 年よりモスクワ音楽劇場バレエにて、ピエール・ラコットのアシスタントとして『ラ・シルフィード』を指導した。芸術選奨文部科学大臣賞、服部智恵子賞、東京新聞の舞踊芸術賞、横浜文化賞、神奈川文化賞、橘秋子賞特別賞などを受賞。2012年に紫綬褒章を受章した。2015年8月に東京バレエ団芸術監督に就任。

公演概要
新制作 初演「眠れる森の美女」全3幕 プロローグ付

音楽:ピョートル・チャイコフスキー
台本:イワン・フセヴォロシスキー、マリウス・プティパ(シャルル・ペローの童話に基づく)
原振付:マリウス・プティパ(1890年)
新演出・振付:斎藤友佳理
ステージング・アンド・プロダクション・コンセプト:ニコライ・フョードロフ
舞台美術:エレーナ・キンクルスカヤ
衣裳デザイン:ユーリア・ベルリャーエワ

東京公演:東京文化会館(上野)
11月11日(土) 14:00 沖香菜子、秋元康臣
11月12日(日) 14:00 秋山 瑛、宮川新大
11月17日(金) 13:30* 沖香菜子、秋元康臣
11月18日(土) 14:00 金子仁美、柄本 弾
11月19日(日) 14:00 秋山 瑛、宮川新大
*11/17の公演は1階後方、2~5階に学校団体の予約が入っております。そのため1階席前方、および5階席の一部のみを販売いたします。

上演時間:約3時間(休憩含む)

指揮:トム・セリグマン
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

助成:
文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))|独立行政法人日本芸術文化振興会
主催:公益財団法人日本舞台芸術振興会
後援:一般社団法人日本バレエ団連盟

浜松公演:アクトシティ浜松大ホール
11月23日(木・祝) 15:00 秋山 瑛、宮川新大
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(統括団体による文化芸術需要回復・地域活性化事業(アートキャラバン2))|独立行政法人日本芸術文化振興会
主催:一般社団法人日本バレエ団連盟/公益財団法人日本舞台芸術振興会/公益財団法人浜松市文化振興財団
共催:静岡朝日テレビ
後援:浜松市 / 中日新聞東海本社

横須賀公演:横須賀芸術劇場大劇場
11月26日(日)  15:00 沖香菜子、秋元康臣
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(統括団体による文化芸術需要回復・地域活性化事業(アートキャラバン2))|独立行政法人日本芸術文化振興会
主催:一般社団法人日本バレエ団連盟/公益財団法人日本舞台芸術振興会
共催:公益財団法人横須賀芸術文化財団
後援:横須賀市/横須賀市教育委員会

堺公演:フェニーチェ堺大ホール
11月28日(火) 18:30 金子仁美、柄本 弾
助成:文化庁 文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(キャラバン))
|独立行政法人日本芸術文化振興会
主催:一般社団法人日本バレエ団連盟/公益財団法人日本舞台芸術振興会
協力:読売テレビ/キョードーエンタテインメント
特別協力:フェニーチェ堺(公益財団法人堺市文化振興財団)

指揮:トム・セリグマン
演奏:シアター オーケストラ トウキョウ

公式サイト: https://www.nbs.or.jp/stages/2023/sleeping/