宮本亞門演出 三島由紀夫原作オペラ『午後の曳航』開幕

二期会創立70周年記念公演、日生劇場にて宮本亞門演出によるハンス・ヴェルナー・ヘンツェ作曲のオペラ『午後の曳航』が上演。日程は、2023年11月23日(木・祝)から26日(日)の4日間。

オペラ『午後の曳航』は、三島由紀夫の同名小説を原作に、戦後ドイツを代表する作曲家ハンス・ヴェルナー・ ヘンツェによりオペラ化され、1990年ベルリン・ドイツ・オペラで『裏切られた海(原題:Das verratene Meer)』のタイトルで世界初演。近年は2020年12月にシモーネ・ヤングの指揮によりウィーン国立歌劇場で上演され、録音がリリースされるなど、ますます評価を高めている作品。
今回の東京二期会公演では、本オペラの決定版ともいえる2005年改訂ドイツ語版の日本初演であり、本格的な 舞台上演としても日本初。東京二期会にとっては、2019年に大きな話題を呼んだ、同じく宮本亞門演出による黛敏郎『金閣寺』に続く三島文学原作のオペラ第2弾。
指揮を務めるのは、アルゼンチン出身のアレホ・ペレス。フランダース・オペラ音楽監督を務め、ザルツブルク音楽祭、パリ・オペラ座など世界の第一線で活躍を続ける俊英。2019年にはその卓越した芸術的功績により、アルゼンチンの文化的栄誉のひとつであるプラチナコネックス賞を受賞、東京二期会には、2018年 『魔弾の射手』以来5年ぶりの登場。

幕開きは舞台上の黒い幕に大きな目、それがだんだん人の顔に、帽子を被った少年の顔、この物語のメインキャラクター・登。それから物語が始まる。彼の部屋の壁には穴があった。そこから隣の母親・房子の部屋が覗き見できる。母子家庭、母はまだまだ女盛りな年齢、そんなある日、2人は航海士の塚崎竜二、船乗りらしく、筋肉質の身体でセクシータイプのイケメン、房子はもちろん、かっこいい竜二に登もまた惹かれていく。

そして2幕では船出した竜二が帰ってくる。喜ぶ2人、房子のファッションが…ミニスカでセクシー。竜二は房子にプロポーズ、もちろん房子は大喜び。熱く抱擁する2人を複雑な眼差しでみる登。海を離れて、どこにでもいそうな父親っぽくなる竜二に対して登の心は離れていく。2幕の出だしの映像は1幕とは逆で少年の顔がだんだん大きくなり目だけになる。

セットが現代アート、映像演出、インパクトのある抽象的なもので、近年よく見かけるリアルなものとは真逆でモノトーンが基調、これが物語の世界観をグッと印象的に観客に見せる。ここで描かれている男女の愛、そして2幕では少年の理想が脆くも崩れていく様を迫力のある管弦楽と歌唱で三島の世界を表現。また、登の仲間、彼はここでは「3号」と呼ばれている。少年たちは見た目は不良っぽく、そして残酷で頭も良い。作曲のハンス・ヴェルナー・ヘンツェは三島作品に魅了され、1986年に『午後の曳航』のオペラ化に着手したそう、1989年に完成、翌年初演。登は早熟で感受性の強い少年、そして仲間と”秘密クラブ”を作っている。母と竜二の情事を覗き見し、彼にとっては美しいものに映る。竜二は彼にとっては理想の男だったが、2幕ではそれが”幻想”とわかる、父親になろうとする竜二、登にとって嫌悪すべきものにものになっていく。さらに覗き見をしていたことを母に見つかってしまい、母は烈火のごとくに怒り狂うが、竜二は登に対して冷静かつ寛容な程度。これがさらに登を幻滅させる。

メインキャラクターは3人であるに違いないのだが、登の仲間たちもまた、この物語の重要なポジション。彼らの残虐性、登がこれまでノートに記録してきた「塚崎竜二の罪科」というリストを見せた途端に、首領が竜二の処刑を煽る。「友だちがみんなでパパの航海の話をききたがっている」と竜二にいい、誘い出す。睡眠薬が入った紅茶を飲ませてからが圧巻、残酷。平凡で幸せな生活を望んでいた竜二にとってはまさかの展開。ちなみに1号はバリトン、2号はカウンターテナー、4号はバリトン、5号はバス、登・3号はテノール。少年たちの狂気と思想、これはこの作品の主要な要素であり、基調。三島の世界観を十分に体感できるオペラ。公演は23日より、日生劇場にて。

あらすじ
少年黒田登は、父を亡くし、夜毎自分の部屋の秘密の穴から寝床に居る母房子の姿を覗いていた。ある日、登と房子は航海士の塚崎竜二と出会う。登は、屈強な身体の竜二に強く惹かれるが、房子と竜二がベッドで抱き合う様子を覗き穴から見てしまう。
やがて房子と竜二は結婚する。海を離れ、房子の経営するブティックを手伝うようになった竜二を、登は軽蔑する。ある夜、房子と竜二は、登の部屋からの覗き穴を見つける。寛容な態度をとる竜二に対して、登はさらに憎悪を募らせ、少年たちとともに竜二に裁きを与えることを決意する。

概要
文化庁 文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))独立行政法人日本芸術文化振興会
《二期会創立70周年記念公演/日生劇場開場60周年記念公演》
東京二期会オペラ劇場 NISSAY OPERA 2023提携
『午後の曳航』〈新制作 2005年改訂ドイツ語版 日本初演〉
オペラ全2幕 日本語字幕付原語(ドイツ語)上演

原作:三島由紀夫「午後の曳航」
台本:ハンス=ウルリッヒ・トライヒェル
作曲:ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ

日程・会場:2023年11月23日(木・祝)〜26日(日) 日生劇場
※開場は開演の30分前
上演予定時間:約2時間20分(休憩を含む)

指揮:アレホ・ペレス
演出:宮本亞門
舞台美術:クリストフ・ヘッツァー 照明:喜多村 貴 映像:バルテック・マシス
振付:avecoo 演出助手:澤田康子
舞台監督:幸泉浩司 公演監督:大島幾雄 公演監督補:佐々木典子
配役:
黒田房子: 林 正子 北原瑠美
登/3号 :山本耕平 新堂由暁
塚崎竜二 :与那城 敬 小森輝彦
1号 :友清 崇 加耒 徹
2号 :久保法之※ 眞弓創一※
4号: 菅原洋平 高田智士
5号: 北川辰彦 水島正樹
航海士 :市川浩平 河野大樹
※ゲスト出演

管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

主催:公益財団法人東京二期会 共催:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]
協賛:みずほ証券株式会社、三井不動産株式会社
支援:宗次未来基金
助成:公益財団法人花王芸術・科学財団
後援:アルゼンチン大使館、ドイツ連邦共和国大使館、山中湖文学の森 三島由紀夫文学館、日本アルバン・ベルク協会
シーズン特別協賛企業:興和株式会社、ソニーフィナンシャルグループ株式会社、ダイドー株式会社、株式会社三井住友銀行

二期会公式サイト:http://www.nikikai.net/lineup/gogonoeiko2023/index.html

劇場公式サイト:https://opera.nissaytheatre.or.jp/info/gogonoeiko2023/

写真提供:公益財団法人東京二期会
撮影:寺司正彦