ミュージカル「ファントム」、11月9日開幕!ラストは号泣必至、無償の限りない愛。

ミュージカル「ファントム」が11月9日開幕したが、それに先駆けて公開ゲネプロが行われた。キャストは加藤和樹、愛希れいか、廣瀬友祐のグループ。幕開き前から舞台上はすでにパリの街、場内アナウンスは「紳士淑女のみなさん!」と始まる。そして幕があくと・・・・楽しげな街の人々、客席の通路も使っての演出は、ワクワク感を出すが、作品を知っている観客は、これから起こる事件、出来事の真逆なイメージの序章であることを知っている。そんな街中で楽譜を歌いながら売っている若い女性、ひときわ元気いっぱいに美しい歌声を聴かせてくれる。これが、この物語のヒロイン、クリスティーヌ・ダーエ(愛希れいか)だ。そのキラキラした闊達な姿と歌声に魅了される人々、その中にシルクハットをかぶった品の良い紳士が彼女に声をかける。彼はフィリップ・シャンドン伯爵(廣瀬友祐)。オペラ座のパトロンの一人、彼に見初められたクリスティーヌ・ダーエは天にも昇る気持ちでオペラ座に行くことに。しかし、ちょうどその時、支配人のキャリエール(岡田浩暉)が解任され、新しく支配人として赴任してきたのはショレ(エハラマサヒロ)、妻でプリマドンナのカルロッタ(エリアンナ)とともにやってきた。キャリエールはオペラ座の地下には幽霊がいること、それは『オペラ座の怪人』と呼ばれていることを告げたが、ショレは取り合わなかった・・・・・・。そこへクリスティーヌ・ダーエがやってくるが、若さと愛らしさに嫉妬したカルロッタは彼女を衣装係に。それでもオペラ座にいるだけで嬉しいクリスティーヌであった。

支配人の解任、可愛らしい”新人”への嫉妬にかられるプリマドンナ、状況が変わってしまったことは怪人にとっては痛手だ。自分の理解者であった支配人がいなくなる、代わりにやってきた新しい支配人にはカルロッタというプリマドンナがいる。とはいっても彼にとって、クリスティーヌ・ダーエは”天使”、一目見た瞬間、恋に落ちた。しかも透き通るような歌声、早速、レッスンを行うようになる。無邪気で一生懸命に稽古をするクリスティーヌ、怪人にとっては至福の時間、しかし、その幸せは長くは続かなかった・・・・・・・。

「オペラ座の怪人」、原作とミュージカル版(ケン・ヒル版、アンドリュー・ロイド・ウェバー版)、映画版(何作もある!)、これらをある程度、知っているとかなり興味深い作品だ。舞台化されたものの中ではケン・ヒル版が原作に一番近いと言われている。映画版ではロン・チェイニー主演の映画が原作にかなり近いとされている。さらに映画版では、現代のニューヨークで、怪人・エリックが作曲した「勝ち誇るドン・ジョヴァンニ」の楽譜を発見した女優クリスティーヌが100年前のパリにタイムスリップし、エリックと出会うという大胆な内容のものもある(1989年版)。このように様々なアレンジや設定を施したものが数多く存在するのは原作のパワーによるものであろう。

そしてこのミュージカル「ファントム」、音楽が途切れない印象でメロディーも多彩、重唱を多用するなど、知らず知らず、物語に引き込まれていく。形式的にはオペレッタに近い感じである。客席通路も頻繁に使い、観客は、この出来事の目撃者となることができる。怪人・エリックはその容姿ゆえにコンプレックスを抱き、物事に対して絶望的な気持ちを抱いている。もちろん、表に出ることもできない。そんな彼に寄り添うのは元支配人であるキャリエールだ。この2人の関係性はラスト近くで明かされる。そして偶然に出会った歌姫・クリスティーヌはエリックにとっては天使、いやそれ以上の存在。そして新しく赴任してきた支配人、その妻であるカルロッタ、警察など。また恋敵として容姿、性格、地位などで圧倒的に叶わない、フィリップ・シャンドン伯爵、エリックがどんなに努力しても無理な相手、しかもこともあろうにクリスティーヌと恋仲になってしまう。それを知ったエリックは絶望のどん底に・・・・・さらに素顔を彼女に見せたところ、彼女は思わず、後ずさり・・・・・そのリアクッションに自暴自棄になってしまうところは哀れであり、涙を誘う。そんな彼を支えようとする元支配人のキャリエールは彼に無償の愛を見せる。そしてラストにはクリスティーヌも彼に愛ある言葉を贈る。このクリスティーヌがエリックに示す愛はいわゆる男女の愛ではなく、それを超えたもの、『アガペー』的な愛を示す。『アガペー』はギリシャ語で、もともとはキリスト教における神学概念で、神の人間に対する「愛」を表す。キリスト教においては、神が人間をアガペーの愛において愛するように、人間同士も互いに愛し合うことが望ましいとされている。そういった意味においてはエリックは最後の最後に救われたのではないだろうか。

ファントム役の加藤和樹はエリックの悲しみや喜び、怒りを深く表現、クリスティーヌを見て恋に落ちる瞬間は可愛らしくもいじらしい。この恋が成就しづらいことは観客は知っているが、『うまくいきますように』と思わせてしまう、共感を得やすいキャラクター作り。そしてヒロインのクリスティーヌ、愛希れいか、元宝塚トップ娘役でエリザベート役を演じただけあって歌唱力は抜群、これからパリ・オペラ座で主演もいける!と思わせてくれる。ラストシーンではエリックに限りない人間としての愛を見せるが、ここは温かみに溢れていて納得のシーンに。このエリックの圧倒的な恋敵として登場するフィリップ・シャンドン伯爵、長身で涼しげな目元、優しい微笑み、男気、廣瀬友祐が颯爽と!
さらに脇を固める俳優陣、エリアンナ&エハラマサヒロの夫婦コンビ、夫の妻に対しての愛、オペラ座のプリマドンナとして我が妻!的な態度は正直わかりやすく、微笑ましいし、妻のカルロッタ演じるエリアンナ、ここでは、いわゆる”ヒール”役であるが、若い頃はきっとわがままだけど憎めない、そんな彼女が好きになったショレ。そしてカルロッタのクリスティーヌへの恐れ、若い、可愛い、歌がうまいの3拍子揃った彼女に主役の座を取られるのは目に見えている。「なんとかしなきゃ!」な焦りが見え隠れする。元支配人のキャリエールを演じる岡田浩暉、渋みのあるキャラクターがよく似合い、さらにこの上もなく優しく、懐も深い。最後の最後にエリックに対して衝撃的な形で愛を見せ、ここは必見。
演出は自身もファントム役で出演する城田優であるが、作品に対する深い理解と愛に満ちた印象で、今後の演出家としての活躍が期待される。
なお、もう一つのキャストグループ、城田優、木下晴香、木村達成は後日!

<あらすじ>
舞台は19世紀後半のパリ、オペラ座。
楽譜売りで歌手志望のクリスティーヌ・ダーエは、その歌声をオペラ座のパトロンの一人であるフィリップ・シャンドン伯爵に見初められ、オペラ座で歌のレッスンを受けられるよう取り計らってもらう。
一方、オペラ座では支配人のキャリエールが解任され、新支配人のショレが、妻でプリマドンナのカルロッタと共に迎えられた。キャリエールはショレに、オペラ座の地下に幽霊がいて、自らを“オペラ座の怪人”と呼んでいることを伝えるが、ショレは解任された事への仕返しに怖がらせるために言っているに過ぎないと取り合わなかった。
オペラ座を訪ねてきたクリスティーヌを見たカルロッタは、その若さと可愛らしさに嫉妬し、彼女を自分の衣裳係にしてしまう。ある日、クリスティーヌの清らかな歌声を聞いたファントムは、ただ一人彼に深い愛情を寄せた亡き母を思い起こし、秘かに彼女に歌のレッスンを行うようになる。ビストロで開かれたコンテストで歌声を披露したクリスティーヌは、カルロッタに「妖精の女王」のタイターニア役に抜擢される。フィリップはクリスティーヌを祝福するとともに、恋心を告白。ファントムは、そんな二人の姿を絶望的な思いで見送るのだった。
初日の楽屋、カルロッタの罠にかかったクリスティーヌは毒酒により喉を潰されてしまう。客席からは野次が飛び、舞台は騒然となる。ファントムは失意のクリスティーヌを自分の住処であるオペラ座の地下へ連れて行く。しかしそれが、やがて彼を悲劇の結末へと向かわせることになる―。

【公演概要】
ミュージカル『ファントム』
日程・場所:
<東京>
2019年11月9日〜12月1日 TBS赤坂ACTシアター
<大阪>
2019年12月7日〜12月16日 梅田芸術劇場 メインホール
原作:ガストン・ルルー
脚本:アーサー・コピット
作詞・作曲:モーリー・イェストン
演出:城田 優
出演:加藤和樹/城田 優(W キャスト)、愛希れいか/木下晴香(W キャスト)、 廣瀬友祐/木村達成(W キャ
スト)、エリアンナ、エハラマサヒロ、佐藤 玲、神尾 佑、岡田浩暉
安部三博、伊藤広祥、大塚たかし、岡田誠、五大輝一、Jeity、染谷洸太、高橋卓士、田川景一、
富永雄翔、幸村吉也、横沢健司
彩橋みゆ、桜雪陽子、小此木まり、可知寛子、熊澤沙穂、 丹羽麻由美、福田えり、山中美奈、
和田清香
大河原爽介、大前優樹、熊谷俊輝(トリプルキャスト)
企画・制作:梅田芸術劇場
公式HP:https://www.umegei.com/phantom2019/

取材・文:Hiromi Koh