2019年12月25日(水)にリーディングシアター『キオスク』が東京・東京芸術劇場シアターイーストにて開幕した。本作は、関西ジャニーズJr.のユニットAぇ!groupの末澤誠也を主演に迎え、オーストリアの人気作家ローベルト・ゼーターラーによる青春小説「キオスク」をリーディング形式で上演するリーディング公演。
2018年秋、日本でもオーストリア映画版が公開されて好評を博した本作は、第二次世界大戦直前のウィーンを舞台に、キオスクで働くことになったことで時代のうねりに翻弄される17歳の青年・フランツの想いと歩み、そして大人たちとの交流を通じて成長していく姿を描く物語で、今回が日本初演となる。
上演台本・演出を手がけるのは、ミュージカルをはじめ多彩な作品の演出で評価の高い石丸さち子。主演は、『ドッグファイト』や『スケリグ』に出演し、今回が初単独主演となる末澤。共演に、一路真輝、上西星来(東京パフォーマンスドール)、岸祐二、山路和弘といった実力派が名を連ねる。
物語は、ナチスドイツが台頭する1937年のウィーンに、自然に恵まれた湖畔で母親（一路）と二人暮らしだった17歳のフランツ（末澤）がやって来るところから始まる。キオスクの見習店員となったフランツは、母の旧友でもある店主オットー（岸）からさまざまなことを学び、また店の客である精神分析学の創始者、フロイト教授（山路）と知り合いになる。教授からフランツは、人生を楽しみ恋をするよう忠告され、やがてフランツは年頃の青年らしく、謎めいたボヘミアンの女の子アネシュカ（上西）に心を奪われていく……。
リーディングとは、俳優が台本を手に持った状態でシーンに応じて歩いたり、立ち上がったりと動きのある演技をしつつ、時には台本を持たずに演じることで物語を進めていく。朗読劇とはまた違ったスタイルであり、朗読劇＋演劇のような趣を持つ。その中でも本作は、胸に迫りくる魅力的な作品を題材にしたストレートプレイの面白みを感じられるほどの味わい深い作品となっている。
時代に翻弄される環境下において、キオスクで様々なことを学び、恋愛をして、成長していく主人公・フランツを演じる末澤は、本作が初単独主演にして初リーディング公演。2019年の2月に結成された関西ジャニーズJr.のユニットAぇ!groupのメンバーとして、舞台『僕らAぇ!groupって言いますねん』でいきなり東京での舞台デビューを果たした若き俳優が、時代に翻弄され、大人たちとの交流によって移ろい行く青年の心情を豊に表現し、初々しくも純粋で真っ直ぐな演技を見せてくれる。
共演の上西はフレッシュな中にもフランツを虜にする女性としての魅惑的な演技と表情を披露。さらに、メインの役柄以外にもさまざまなキャラクターを演じる実力派の一路、岸、山路の3人が鮮やかで確かな演技力により舞台に安定感をもたらし、見る者を引き込んでいく。
照明やシルエットなども効果的に用いられた演出も印象的で、どこかノスタルジックな空気感を醸し出す魅力的なリーディング公演であり、青年フランツの姿と共に抗えない不穏な時代のもの悲しさを描く奥深い作品となっている。
なお、ゲネプロ後の囲み取材には末澤誠也、一路真輝、石丸さち子が登壇し、挨拶などを行った。
石丸さち子：
今、世界中が過去に学ばなければならない時期に来ていると思うんですけど、今の若い人たちが小説から学ぶことはなかなか難しいと思うんです。今回の公演は映画版の台本からではなくて、原作小説をリーディング台本にしてあるため、尺も長いです。でも、今のエンターテインメントの世界で頑張っている末澤くんのような俳優が、その物語の中に身を置いて、喜び、悲しみ、泣き、そして自分の人生を切り開いていく、切り開いていこうとしてもそれがかなわない時代があったということを、渾身で演じてくれることによって伝わるものがたくさんあると思います。そしてそれを一路さん、山路さん、岸さん、そしてフレッシュな星来さん、彼らが演じてくれるることによって、特に若い方が中心のお客様になると思うんですけど、その人たちにたくさん伝わることがあるんじゃないかと思って期待しています。
一路真輝：
小説をリーディングということを最初に聞いていて、どんな世界観になるのかとても楽しみでした。今回、このように石丸さんの演出で、しかも末澤くんがフランツを演じることで、ものすごく立体的な世界が浮かび上がっている気がしています。そして現代を生きる若い人たちがこの17歳の少年の波乱万丈の言葉では伝えきれないものが、この舞台の上にあります。だから、見にいらしたお客様一人一人が感じられることはそれぞれに違うと思うんですけど、フランツの年齢に近い若い人たちが、第二次世界大戦に生きていたら、こんな運命だったんじゃないかというのを一瞬でも考えて、今を生きる事を少しでも考えてもらえたらと思います。そんな大げさなことではないんですけど、そういうものが詰まっている作品です。
末澤誠也：
稽古の時から演出の石丸さんが作品の解説から時代背景までしっかり丁寧に教えてくださって、それをどうにか全て吸収したいという気持ちで稽古に取り組みました。日本初演という作品に携われたこともすごく光栄です。本作はリーディング公演ということなんですけど、僕自身初めてだったのですが、お客様の方の中にもリーディングを見たことがないという方もたくさんいらっしゃると思います。本当に軽い気持ちで構いませんので、劇場に見に来てもらえればすごく楽しんで帰ってもらえる作品です。ぜひ足を運んでもらえたらと思います。
【概要】
＜日程・場所＞
2019年12月25日（水）～29日（日）
東京都 東京芸術劇場 シアターイースト
2020年1月18日（土）・19日（日）
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
原作：ローベルト・ゼーターラー
翻訳：酒寄進一
上演台本・演出：石丸さち子
出演：末澤誠也（Aぇ！ group / 関西ジャニーズJr.）、一路真輝、上西星来（東京パフォーマンスドール）、岸祐二、山路和弘
キューブHP：http://www.cubeinc.co.jp
取材・文：櫻井宏充
