《インタビュー》関⻄ジャニーズJr.今江大地,河下楽出演 舞台『ラン・フォー・ユア・ワイフ(Run for your Wife)』演出 野坂実

上質な翻訳劇を日本に紹介することを目的に2018年から1年に1本 のペースで作品を発表しているユニット「SHY BOYプロデュース 」、2018年『キャッシュ・オン・デリバリー』、2019年『ザ・フォーリナー』に続き、2021年4月、レイ・クーニー(注)による人気作 『ラン・フォー・ユア・ワイフ』を上演する。イギリスの人気劇作家レイ・クーニー原作、日本でも多数上演されてきた傑作である。重婚生活を送るタクシードライバーが事故に巻き込まれ、ピンチに陥り、苦し紛れにウソにウソを重ね大騒動となってしまう爆笑コメディ、今も根強いファンに支持されている映画「大丈夫日記」(チョウ・ユンファ主演)は、これを基にして造られたもの。シチュエーション・コメディの鉄板とも言えるこの作品について演出の野坂実さんに見どころやカンパニーについてなど、お話をお伺いした。

――レイ・クーニーの傑作戯曲『ラン・フォー・ユア・ワイフ(Run for your Wife)』、多くのカンパニーで上演されておりますが、この戯曲の面白さ、見どころを教えてください。

野坂:面白いところは「かけ違い、すれ違い」の連続になっていくところでしょうか。美術もそうなんですが、左右でメアリーの家、バーバラの家と分かれていて。同じ空間にいるのに違う空間にいるという設定で、またそこで両方の伏線が張られていくというところが、面白いと思います。この戯曲の難しいところは伏線の張り方を上手にしていかないと、お客さんが話の筋を理解できなくなり、ドリフ的な瞬発的な笑いが来るだけになってしまう。なので、今回、SHY BOYプロデュース三回目にして少し難しい戯曲にチャレンジしてみようかということでこの戯曲を選びました。

――嘘を嘘で重ねて、収集がつかなくなってしまう展開も面白いですね。

野坂:『パパ、I LOVE YOU』よりも伏線がトリッキーなんですよね。風呂敷を広げられるだけ広げたような。レイ・クーニーは人が成り代わるとか嘘を重ねるとかがもともと多いんですが、この戯曲ほど風呂敷を広げたものはない。そういう意味では技術的に難しいですね。

――もう稽古もだいぶ進んでいると思います。今の状況は?

野坂:稽古は、僕の場合特殊な形を取っています。僕の方で立ち位置をかなり細かく指定していまして、それを覚えてもらう。その後、キャストへ「ここが伏線です」、とか、「笑いどころです」、とか説明をして、それをもとに役者さんたちに肉付けしてもらっていますね。こういうコメディの特徴でもあるんですが、セリフそのものが笑いに特化しているので、キャラクター達の関係性がなかなか分かりづらいんです。セリフに一切説明が用意されていませんからね。ほかの現場では先にキャラクターを落とし込んでから段取りを固めていくことが多いように思いますが、この稽古では先に細かい段取りを入れたうえでキャラクターを肉付けして関係性も作っていくことになる。だから役者さんにとっては過酷だろうなと思って見ています。

――こういうコメディは舞台に出る、ハケるの一瞬の差も狂わずやっていかないとセリフの意味合いが変わってしまいますよね。

野坂:段取りのオンパレードみたいな感じですものね。普通のお芝居のほうが演出としてはラクではあるんです。コメディはとにかくやることが多く、キャラクターが精神的に追い込まれていくほど笑える作品になります。テンポも速いですし、しんどいだろうなというのに、皆さん笑顔でやっていて。さすがプロだなと思いました。

――今回、そのキャストについてはいかがでしょうか?

野坂:今江さんは飲み込みが早いですね。こういうコメディは初めてだと思うのですが、結構自由にやっていらっしゃいますね。河下さんも含めておふたりともやっぱり、ジャニーズ事務所の所属であるという自負はあって、常にニコニコしてムードメーカーになってくれています。もちろん、他にも経験豊富な役者たちが揃っていますが、おふたりの空気に引っ張られています。河下さんは、初舞台なので経験としては浅いですが、その分頑張っていますね。ものすごい集中力ですよ。ちゅうえいさんは初舞台の芸人さんとは思えないほど、とてもやりやすい役者さんです。笑いに偏るのではなく、作品の意図をしっかり考えて、一緒に創ってくださる俳優だと感じています。新垣さんは柔軟な女優さんだから今回の役にぴったりですし、緒月さんも気質がバーバラに向いていると思っています。清水さん、我さんに関しては最初からこの役にしようと考えていました(笑)。おふたりが若手の子たちにいろいろアドバイスしたりしてくださり、助かっています。

――なので今回もいい座組に恵まれたというところでしょうか。それでは、野坂さんにとってコメディとは?

野坂:僕の感覚なんですけれど、ないものねだりなものが多いのかな、と。満たされるとドロドロしたものが欲しくなってしまう、というような。意外とコメディの演出やってらっしゃる方って普段は気難しかったりするんですよ。だから笑いを求めるのかな?って。そんな中で、僕にとってのコメディといえば、日常生活で苦しんでいる人たちに苦しい現実を笑い飛ばしてもらう、というところでしょうか。観に来てもらって、腹から笑ってもらって。明日ももう少し楽しんでみようかな、と思ってもらう手助けになりたいと思っています。生まれて初めて観たお芝居が加藤健一さんのコメディなんです。目の前におじいちゃんと女子高生が座っていたのに、同じタイミングで大爆笑するんですよ。全く違う“人種”なのに共通して笑えるとか、コメディってなんて強いものなんだと思ったんですよね。場内にいる全員が幸せそうに見えて。その印象がついていたから、僕もコメディをやっている。あの時の景色が僕の中でずっと残っているままなんでしょうね。

――最後にメッセージを!

野坂:キャスティングの段階で「アタリ」なので。面白くなると信じています。お芝居ってチケット高いから、なかなか手が出ない人も多いと思うんですが、買い時だと思いますよ!ぜひぜひ足を運んでいただければと思います。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

(注)レイ・クーニー(Ray Cooney):1932年まれ、英国出身。劇作家、演出家、プロデューサー兼俳優。46年に子役でデビューし、56年ブライアン・リックスの劇団に参加。82年にはシアター・オヴ・コメディー・カンパニーを主宰し、92年、ジェフリー・アーチャーからロンドンのプレイハウス劇場を買い取る。自作自演の作品に『ラン・フォー・ユア・ワイフ』(Run for your Wife)、『鬼さん、こちら』( Chase Me Comrade)、『情事だ、ジョージ、非常時だ』(Two into One)、『大混乱』( Out of Order)、『パパ・アイ・ラヴ・ユー』(It Runs in the Family)がある。そのほかの作品としては『Funny Money』などがある。

<物語>
ジョンは、ごくごく平凡で優柔不断なタクシードライバー…と見せかけて、実はとんでもない秘密を隠し持っていた。
緻密なスケジュールをコントロールして、二人の女性との二つの家庭のあいだをタクシーで行き来する「重婚ライフ」を満喫していたのだ。ところがある日、その完璧な二重生活に狂いが生じる。
嘘を隠すために嘘を重ね、その嘘を守るためにまたもや嘘。やがてその嘘は二人の妻・メアリーとバーバラや、それぞれのご近所さん・スタンリーとボビー、ついには警察までも巻き込んでの大騒動に発展する。
はたしてジョンは、幸せな生活を守り抜けるのか?

<概要>
[タイトル]
SHY BOYプロデュース『ラン・フォー・ユア・ワイフ』
[出演] ジョン・スミス役:今江大地(関⻄ジャニーズJr.)
スタンリー・ガードナー役:河下 楽(関⻄ジャニーズJr.) ボビー・フランクリン役:ちゅうえい(流れ星☆) メアリー・スミス役:新垣里沙 バーバラ・スミス役:緒月遠麻 ポーターハウス警部役:我善導(WAHAHA本舗) 新聞記者役:津山直紀
トラウトン警部役:清水順二(30-DELUX)
[日程・会場]
東京公演: 2021年4月7日(水)〜14日(水) /オルタナティブシアター
名古屋公演:2021年4月23日(金)〜25日(日)/ウインクあいち
大阪公演:2021年4月27日(火)〜28日(水)/サンケイホールブリーゼ
[スタッフ]
脚本:レイ・クーニー
翻訳:小田島雄志・小田島恒志
演出:野坂 実
プロデューサー:山田とゐち(LIVEDOG)
主催(名古屋公演):中京テレビ放送
主催・企画・製作:SHY BOYプロデュース
公式ホームページ
https://shyboy.jp/runfor/
取材:高 浩美
構成協力:佐藤たかし