剛力彩芽,Dream Ami 主演 &2役に挑戦! 日本語版台本・演出 田尾下哲 ミュージカル『#チャミ』インタビュー

韓国で制作され、耳に残るメロディーと斬新なストーリーが話題を呼び、トライアル公演では観客や批評家から高い支持を得て全席完売を記録したミュージカル『#チャミ』。4年の開発期間を経て2020年に韓国で上演された新作ミュージカルを2021年9月9日より日本人キャストで上演。もしもSNS中の虚像が自分の目の前に現れたら?!笑いと癒しのコメディーミュージカル。
主人公は平凡な女の子チャ・ミホ。現実ではコンビニでアルバイトをしているが、SNSでは「いいね!」をもらうために完璧な自分の虚像「チャミ」(@CHA_ME)を作っている。そんなチャ・ミホのSNSの中にある日、自分の「Cha Me」表示され…。
SNSが欠かせない世の中を生きている私たちの現実をありのまま描いたミュージカル『#チャミ』は激しい競争社会で他人との比較に疲れている現代人に「ありのままの自分を大切に」というメッセージと共感を届ける作品であるが、ここでチャ・ミホとチャミを1人2役演じる剛力彩芽さんDream Amiさん 、日本語版台本及び演出の田尾下哲さんのインタビューが実現した。

――この作品のお話をいただいたときの感想は?

田尾下:やはり若い女性が葛藤する、というストーリーなので、それにふさわしい女性が演出した方が良いのでは、という思いがありました。私は若い学生の方々と接する機会も結構あるのですが、リアルに、悩んでいる人もたくさんいるんですよ。退学する子もいるし、学費の面とかでも…そのような実経験として、自分の理想と現実に悩みを抱えている若い女性の姿をいろいろ見てきているので、人生経験をそれなりに重ねた自分だからこそ描けることを皆さんに伝えられることも演出家としてあるかなと思いました。一方で、“おじさんが抱く女の子に対するファンタジー”を押し付けてはいけないな、とも(笑)。

Ami:はじめは自分にミュージカルができるのだろうか、という不安がありました。今まで本格的にお芝居をやったこともなかったですし。作品云々よりも、演技そのものにハードルがあった感じです。でも、韓国バージョンの映像を観させていただいたとき、すごく楽しそうだなとも思ったし、私は歌を歌いたくてこの世界に入りましたから、自分が歌いたいと思う曲がすごくいっぱいあって。単純に「この曲、歌ってみたいな」とか、「世界観がいいな」とか、ミュージカル初挑戦だからこそ、この作品だったら楽しんでできるんじゃないかと思ったのが第一印象です。

剛力:私は、ずっとミュージカルをやりたくて。観るのももともと好きでしたし。Amiさんとは反対に私は歌がそれほど得意ではないので。ミュージカルやるときが来るなら「ボイトレして、レッスン受けて、いつでも出られるようにしておこう」と思った矢先にこのお話をいただいたんです。はじめはうれしい反面「大丈夫かな?」と思ったので、内容を聞かせていただく代わりに韓国バージョンの映像を観ました。画面の中からとにかく楽しさが伝わってきましたし、あらすじを見たらSNS……今の時代の作品であるということも興味深かったですね。今回これが日本での初めての上演、しかも韓国でさえまだ1回しかやっていない作品を、これからの出演者がどのように色を付けていくのか。そんな作品にミュージカル初挑戦である私が参加できるというのはすごく光栄だな、と思いました。もちろん自信はなかったですけれど、これを自分が、すべてが初挑戦という中でやるというのはすごく意味があることなのだろうな、と考えて「やろう!」と決めました。とにかく物語が、すごくポップで。現代のいい面も悪い面もかわいらしく描いているんですね。そこはやはりお芝居をする側として、ちゃんと伝えられたらいいなと思っています。

――確かにすごく可愛らしく、POPで現代的な世界観で、韓国語がわからなかったとしても楽しそうなのは伝わってきますよね。それでは、主人公についてはどんな印象を?

Ami:私はすごく共感できました。少なからず、人前での自分と、家族や心を許せる人の前での自分の顔って全然違うんですよ。やっぱり家族の前では素の自分でいますし。それがどこまで、人によって変わっているかというだけで、どんな人でもあることだと思います。自分も気がついたら、外と自分を比べてしまうことも多く、自分の良さを否定して“私らしさ”を忘れてしまうこともあるし。SNSが浸透した時代だからこそ、余計にそうなってしまうんです。普段から「これではダメだ」と反省することも多々ありますが…なので、「わかる」と共感ますね。

剛力:SNS自体、私は苦手意識があって。でも芸能界にいる以上少なからず承認要求というのはあるでしょうね。「いいね」の数とかに結局気にしている自分がいますし。そういう意味ではミホのやっていることは共感できる。“盛る”ことは決して悪いことではない気もしています。ただし、それで自分を見失うということは怖いなと感じています。それがこの作品によって具現化されているというか。実際には、チャミという人物は現実には現れないけど、SNS上には存在しているわけですよね。いつ、ミホではなくチャミが全面的に表に出てしまってもおかしくはない。そう思うと、私もハッとさせられるところが多かったというか。ミホの行動はすごく考えさせられるなと思いました。

田尾下:承認欲求というのは誰でも必ず持っているもの。しかしながら認められるということについては、表現の世界では実力をつければ認められるのか、というとそうでもない。それは時期にかなっていたり、また価値観もいろいろありますから悩むことも当然あるでしょう。自分を“盛る”ということに度が過ぎてしまったとき、人の期待に応えたいがために本当の自分がどこかに行ってしまうという面はすごく怖いなと思っています。

――どちらかがミホを演じているときはどちらかがチャミを演じているんですよね。

剛力:ミホとチャミはいちおう、一人二役のような扱いですが、実際は1.5役くらい。歌詞にも「一心同体」という言葉が出てきますし、連動する部分があるというのが印象的でしたね。ですが、今日一緒にやってみたらめちゃくちゃ難しかったです。2人分のセリフも曲も覚えないといけないですし。稽古中、私がちょっとチャミのセリフが抜けてしまったんですが、(Amiさんが)サッと教えてくれて。すごく「ありがとう!」でした(笑)。

Ami:2人はすごくシンクロするところがあったり、また、違う別の人のようで同じみたいなところがあります。自分としてはミホの方がやりやすいですね。

剛力:ミホはチャミのことをよくわかっているけれど、チャミはミホのことを理解していないイメージ。でも2役やっているからこそ、心情が分かるのはある意味助かりますね。

Ami:気持ち的には意外とやりやすかったんですよね。まだできてないよって言われるかもしれないですけど(笑)。

田尾下:難しいことをやっていると思います。お二人がすごいなと思うことは、お二人の場合、世間から羨ましがられる地位にいる人だと思うんです。そんな人でも必ず悩みをもっているはず。それが、チャミの持つ“みんなを喜ばせたい”という気持ちも、ミホの本来の気持ちも両方わかっているところなんですよね。これは日々、人前で輝いてきた人しかできない。平凡な女の子だったとしたら、ミホはできてもチャミはできないでしょう。逆に、チャミの方が普段、お二人が演じないといけないキャラであって、できて当たり前の役柄だと思うんです。でも、逆算したところの“その裏にあるミホ”を、ミホの持つ素朴さや悩みを演じられてすごいなと思っています。今、お話を聞いていて、ミホに共感できるというところ、葛藤の演技がやりやすいというのが意外でした。とはいえ、普段から期待されているような、芸能界に生きてきたからこそ、悩みもあるでしょうし、実は平凡な子のほうが悩みは軽いかもしれないですよね。それで、お二人の演技が胸に来るんだなと改めて思いました。

――今までにない2役ですよね。稽古をすすめてきて他のキャストさんの感想は?

剛力:やられている皆さんが楽しい方ばかりなんです。だから楽しんでやれているのかな、とも。

Ami:それはめっちゃあるよね!今日の稽古もずーっと笑っていました(笑)。

――男性の方もダブルキャストなんですね。

Ami:そうなんです。それぞれ印象がぜんぜん違いますよね。稽古を重ねれば重ねるほど、みなさんどんどんいろんな引き出しというか、キャラクターをたくさん出してくれるので、それに対してどう受けようみたいなのを考えるのもすごく楽しい。

剛力:みなさん全力でやってくださるので、遠慮なく飛び込んでいけるのがありがたいです。レパートリーが多い方ばかりなので、毎回やるたびに演技も少しずつ変えていらっしゃるので楽しいですし、勉強になります。

――台本と曲以外は、日本のカンパニーで自由にやってよい、ということを聞きました。ある意味、新しい作品とも言えるのではないかと思いますが……。

田尾下:そうですね。最初台本や楽譜をもらえるまでは、映像だけを観ていましたがほぼ覚えていなくて。全く参考にせずに作ったんです。影響されすぎて迷うのも違うなと思ったので。その後の自分の演出プランが終わったあとに最後のハイライトの場面を改めて見返したところ、“この場面と曲にこんな意図があったのか”と。僕が考えたものとは全く捉え方が違っていたんですね。こちらはシリアスにやっていたところを向こうはジョークでやっていて。そこに驚きました。一方で、韓国と日本の文化が違うから変えなくてはならない、というところはほとんどありませんでしたね。同じ、現代の若い女性と就職活動に悩む男性というのは、国が違えど変わりはありませんから。とはいえ、オリジナルチームが観たら“全然違う表現になっている!”と言われるに違いない仕上がりになっていると思います。

――それでは、見どころについてはいかがでしょうか?

Ami:見どころ……ありすぎますね(笑)。全部、全曲が見どころのような。シーンがコロコロ変わっていくところも面白いですね。同じシーンは二度とないというか。目まぐるしい転換というか。曲もいろいろな曲調があります。

剛力:ミュージカルちょっと苦手、という人でも楽しめる作品ですね。

Ami:クラシック全開、というよりもポップスなのでライブみたいな感覚で楽しめるんじゃないかなと思います。サウンドトラック作りたいくらい!

剛力:“みんなで一緒に踊ろうよ!”みたいなこともできそうですよね(笑)。それに、ラップがあるミュージカルってなかなかないと思いますし。

田尾下:とはいえ、その根底にあるのは「芝居の延長線」なんです。強いメッセージとストーリーがある作品だと思っているので。歌も歌っていて、音程つけているんですけれどセリフとしても聞こえる。すごくメッセージ性は高くなっています。

(c)Toru Hiraiwa

――最後にメッセージを。

田尾下:ありのままの自分を見つめる機会になってほしい、という想いをこめた作品です。どんな形であれ悩みを抱えた方はたくさんいると思いますし、加えて現代で生きていく中SNSというのは必要不可欠なものである。それにどう向き合えばよいのかというヒントになるんじゃないかなと思っていますので。いろんな世代の人、すべての性別の人に楽しんでいただきたい作品です。さらに、そんな悩む役柄を、普段人に観られるということを期待されている俳優陣がやっているという凄みを、ぜひ観てほしいなと思います。

Ami:ストーリーからちょっとむずかしいかな?とか、重いテーマなのかな?と思う人もいるかもしれませんが、全くそんなことなく、すごくわかりやすいですし、コメディ要素もたくさんあります。伝えたいメッセージは“自分らしさ”ではありますが、観終わったあとはそういうメッセージとともに楽しい余韻があるミュージカルになっていると思うので、ぜひ楽しみながら観てください。

剛力:観たあとは必ず、元気になれる作品だと思います。ミホもチャミもコデも、ジュニョクも、全員なにかを抱えていて、いろんな視点で共感できると思うんです。ポップなんだけれど言葉が刺さる、というんでしょうか(笑)。また、正直、私は歌うのがやっぱり不安で…常に自信がないミホと重なるんですね。いまそこをミホと一緒に乗り越えている段階なので、その成果をぜひみなさんに披露できれば、と思っていますし、なかなか難しい世の中になってしまいましたけれど、観に来ていただけたらうれしいなと思っています。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

<概要>
■公演タイトル:ミュージカル『#チャミ』
■公演日時:2021年9月9日〜9月21日 22回公演予定
■会場:自由劇場
■作/作詞:チョ・ミンヒョン
■作曲:チェ・スルギ
■キャスト:
・剛力彩芽 (ミホ / チャミ)2 役
・Dream Ami (ミホ / チャミ)2役
・反橋宗一郎(ミホの大学同期。ミホに片想いを寄せている キム・コデ役)
・井阪郁⺒ (ミホの大学同期。ミホに片想いを寄せている キム・コデ役)
・丘山晴己 (ミホが想いを寄せる先輩 オ・ジニョク役)
・石井一彰 (ミホが想いを寄せる先輩 オ・ジニョク役)
■日本版台本/演出:田尾下 哲
■日本語翻訳 / 訳詞:安田佑子
■音楽監督:宮崎 誠
■振付:石岡貢二郎(K-Dance Nexus)
■歌唱指導:モリモトマサミ
■主催/企画/制作 : LDH JAPAN
公式HP:http://musical-chame.jp
公式ツイッター:https://twitter.com/search?q=%23チャミ
(C)ミュージカル「#チャミ」JAPAN (Musical @Cha_Me)
Book & Lyrics by Min-Hyung Cho
Music by Sul-Gi Choi
Original Production by PAGE1
構成協力:佐藤たかし
取材:高 浩美