首藤康之, 山下リオ, 小日向星一 出演「ダブリンキャロル」インタビュー 演出 荒井遼

アイルランドの劇作家、コナー・マクファーソンが描く現代版「クリスマス・キャロル」、99年に『堰-the weir-』がローレンス・オリヴィエ賞最優秀作品賞受賞したコナー・マクファーソンの作品、日本初演。主人公はダブリンの葬儀屋で働くジョン。彼は家族から逃げ出していたが、10年ぶりに娘のメアリーが訪ねてくる。クリスマス・イブ、ジョンは「現在」と「過去」に向き合うことに。出演は首藤康之、山下リオ、小日向星一出演、今年「テンダーシング-ロミオとジュリエットより-」が好評だった演出の荒井遼さんのインタビューが実現した。公演はクリスマスも近い12月3日より。

ーーこの作品のファーストインプレッションをお願いいたします。

荒井:独特の世界観、シンプルで美しい作品だと感じました。言葉にユーモアがあって、緻密に書き込まれている。一人の人物の中に葛藤を抱えていれば、ドラマになる、それが見事に体現されている戯曲だなと思いました。台詞は時々、過去に意識が戻ったり、急に現在に戻ったり、何かに思いを馳せたり、意識の流れが描かれています。最初に読むと「どこでどうなっているんだ?」って思うのですが、考え抜かれている。読めば読むほど違う角度からの発見がたくさんある台本だなと思いますね。演じ方、解釈の仕方もたくさんある、非常に素晴らしい台本だと思います。

――何気ないようでいて計算されていますね。登場人物は3人、主人公・ジョンは50代でしょうもないおっさん、一緒に働いてる若者・マークはやりたいことは漠然とあるみたいだけど、バイトしていて日々に埋没している、ジョンの娘・メアリーは親が離婚しているから複雑な感情を抱いている、3人とも前向きではない。

荒井:そこが惹かれたところですね(笑)、グレーな感じで。マクファーソンは何か相反するものを同じ場所に置くことが好きなのでしょうか? “葬儀屋さんのクリスマス”、ト書きだと“趣味はいい家具だけど、古びてる”とか。この作家の個性が好きです。クリスマスで外ではみんな浮かれているのに、部屋の中ではそれぞれ問題を抱えた3人がどうなるのかという。キャラクター一人ひとりが奥深い。

――どちらかというと、主人公が自分の愚痴を延々と語っているように見えます。

荒井:本当ですよね。自分の頭の整理のために喋っているような。

――愚痴を通して、自分を見つめ直しているところもありますね。

荒井:そうだと思います。喋って初めて気がついたり、そういうことってたくさんあると思います。僕もずっと喋り続けてしまうタイプなので、結構共感するところもあって……(笑)。とはいえ『ダブリンキャロル』もそうですけれど、マクファーソンの作品はお喋りな登場人物が多いですね。

――お酒の力を借りて喋ることもままにあります(笑)。コロナ前なら当たり前の風景でしたけれど。それに近い感じで、割と共感されやすいキャラクター。

荒井:どの人物も非常に身近に感じます。特にマークは街を歩いていても見かけるような。大学の構内に行ったらいっぱいいそう(笑)。とりあえず大学に入って、バイトして、先輩の愚痴を延々と聞いている……そんな情景が思い浮かびますね。人生どうしようと岐路に立っている人間ですよね。このキャラクターを主人公と二重焼きにして描いているところが巧みなところだなと思います。人生のどの位置にいるかでも見え方が変わってくるかもしれません。

――娘が訪ねてくるというところからは、主人公が変わるきっかけというか。娘は決してお父さんのことを嫌ってはいませんよね。

荒井:むしろ父親をすごく好きです。もう一回やり直せたらと思っているだろうし。『クリスマス・キャロル』を下敷きにしているようなので、メアリーというのはジョンにとっては過去の精霊なんだと思います。ここはすごくタフなシーンになると思います。今、このシーンの稽古の真っ最中なんですが、観ていて苦しくなるようなシーンになり始めています。お二人がぶつかり合っている様は、見応えあると思っています。

――稽古もだいぶ、進んでいるようですね。キャストさんもすごくハマっています。

荒井:3人だけなのですごく大変だと思います。首藤さんがこのようなやさぐれた人物を演じるのはすごく意外性があると思います、こんな面があるのか!と感じていただけたら。山下さんは愛情と憎しみを瞬時に切り替える。非常に鋭い演技が魅力です。小日向さんはすごく話を聞くのが上手い。日常でも演技でも。ニコニコしながら話をずっと聞いてくれる感じが役にぴったりです。

――舞台は葬儀屋さんの1部屋でだけ行われているという設定ですけれども、彼ら各々の生き様みたいなものがフッと見えてくるというところが、この作品の面白いところかなと思います。

荒井:表にみえていない、氷山の下の部分が大事な作品だと感じています。どんな戯曲もそうですが、その内面を俳優と丁寧に稽古場で作っていくことがとても大事なことかもしれません。見えている現象でないところを、感じることが。

――最後にメッセージを。

荒井:とてもシンプルで普遍的な話です。愛を拒否し否定し、孤独に逃げた男がもう一度愛に勇気を持って対峙できるのか?『クリスマス・キャロル』に通じる非常に普遍的なメッセージが織り込まれてます。結末が想像つきそうだと感じる方もあるでしょう。でも、この小さなお話しには豊かな時間が広がっています。劇場も70席という非常に親密な空間です。3人の役者さんの息遣いを感じられるような舞台ならではの体験をしてほしいなと思っています。

<あらすじ>
クリスマス・イヴの午前中。外は雨。
舞台はダブリンにある葬儀屋のオフィス。ジョン(首藤康之)はこの葬儀屋の主人のノエルが病気になってしまったため、彼に代わってこの葬儀屋を取り仕切っている。マーク(小日向星一)はまだ二十歳の若者でノエルの甥。アルバイトで葬儀屋の手伝いをしている。そこに仕事を終えたマークとジョンが戻ってくる。ジョンは10年前に家族を捨て、酒に溺れていた。そんなジョンを助けてくれたのがノエルだった。マークを相手に自分の過去を語り出すジョン。どれだけ自分がダメな男だったのかを・・・。そんな午後、ジョンの娘・メアリー(山下リオ)が10年ぶりにジョンを訪ねてくる。母親、つまりジョンの妻が癌で入院しており、ジョンに会いたいと言っているという。さらにジョンはメアリーの突然の来訪によって、蓋をしたはずの自分の過去と対峙することになってしまった。果たしてジョンは妻に会いに行くのか・・・。

<概要>
日程・会場:2021年12月3日〜12月9日 東演バラータ
作:コナー・マクファーソン
翻訳:常田景子
演出:荒井遼
出演:首藤康之 山下リオ 小日向星一
主催・製作 幻都
企画制作 TSP
公式HP:https://theatertheater.wixsite.com/dublin2021
取材:高 浩美
構成協力:佐藤たかし