《インタビュー》ミュージカル「ふたり阿国」演出・脚本:田尾下 哲

皆川博子の小説「二人阿国」、時は戦国時代が終わりを告げようとしていた1600年頃、まさに世紀の節目であり、新しい時代が近づいてきた頃、芸に生きる阿国、その阿国に憧れ、やがて超えてやろうと野心に燃える少女・お丹、そして彼女らを取り巻く人々を描いた傑作小説として知られている。
そして2019年、平成もまもなく終わろうとしているこの春、様々なテーマを内包している原作を華やかに、そしてエンターテイメントな要素を大いに盛り込んだミュージカル「ふたり阿国」、この演出・脚本を担う田尾下哲さんに作品の魅力や演出プラン、多彩なキャスト陣についてなど、余すことなく語ってもらった。

「1600年の物語でありながら、未来に向けての作品とみんなに言ってます」

――原作の舞台化、有名なところでは木の実ナナさん主演の「阿OKUNII国」がありました。物語自体はかなり知られているとは思いますが、改めて原作の魅力についてお願いいたします。
田尾下:阿国は、伝説的な人物として知られています。また、お丹という少女、物語では彼女が12、13歳ぐらいから始まりますが、彼女の成長を通して、阿国の凄さや、あるいは芸事の歴史的なこと等を描いています。1600年代の物語、この時代ですから政治的な部分もたくさんありまして、そういうものもストーリー背景にしています。実は現代でも全く同じ、芸人とか、人前で披露する人たちがお客様を楽しませるためには、常に悩んで苦しんで、試行錯誤していることがこの物語でわかります。政治とか色々なことの状況によって表現の制限がされたりもします。その中で彼らは、どういう芸能を生み出していくのか、人々を楽しませるか・・・・・・阿国が男装をして傾奇者を演じて楽しせる、そのような試行錯誤が面白いところですが、いつの時代にもあることで全然変わってない、永遠のテーマですよね。
――1600年代は天下分け目の戦いである関ヶ原の戦い、政治的なこと以外でも物事がドラスティックに変わっていく時代で、ふたりの阿国、北翔海莉さんが演じる阿国と峯岸みなみさんが演じる、後で阿国を名乗るお丹、新旧の対決みたいなところがリンクしていくのかな?と思います。
田尾下:はい。立場が変わっていくところ、公家と武将の話、武将たちが生まれに関係なく、力を持ったものが政治を握っていくたくましさ。そんな中での公家は滅ぼされはしないのですが・・・・・・ここでは実在の人物である猪熊少将教利が登場します。
――玉城さんが演じる役ですね。
田尾下:はい。色男ですが、この時代は公家の時代ではなくなってきていく、そこがまた物語として面白いですよね。
――これだけキャストがいると群像劇的な要素もあり、いろんな立場の人が出てきていますね。
田尾下:当時のヒエラルキーがすごく大事になってくる、その中で、どう彼らが生きていくのか、今回は最初は世阿弥も登場します。世阿弥は足利義満の目に止まり庇護されます。そんなわけで能役者はちょっと上に見られていて、他の人たちは河原でしか踊れない、舞えない状況、そういう環境をうまく表現できたらなと。今回は、橋を舞台にワーーっと出しているんですが、その橋の高さを使ってそのヒエラルキーを表現しようかなと。
――高低で視覚的に見せるわけですね。。
田尾下:はい。
――舞台化、ミュージカル化するにあたって、難しいなというところ、工夫したところ、橋の話が出ましたが、そこは工夫したところですね。
田尾下:はい。
――台本読んだ感じでは1幕の終わりがぐわーっと盛り上がる感じですね。
田尾下:そうですね。本当に、お丹と阿国が袂を別つ、お丹は最初は呆然と阿国を見ていて、だんだんと憧れていっていくところから一気に、阿国を凌ごうっていうところに持っていく、しかしそこまでどうやって描くか、ですよね。この物語をご存知の方もいっぱいいらっしゃるのは承知の上ですが、もしかしたら、全く知らなかった、初めてご覧になる方のためにこのキャラクターの設定、時代背景、宗教的なことまではなかなか難しいですが、バテレン大名がいて、キリスト教が入ってくることも描いてはいますが、そういう状況設定、時代設定とかをしっかり描いていこうとすると1幕が長めになってしまう(笑)、どんなものでも、我々はきちんと物語の背景を描いた上でキャラクターのそれぞれを際立つようにしなければならないので、そこに時間は割きます。阿国一座って言ってもわからない、ましてお丹は創作の人物なので。
――阿国はわかるとしても、それ以外がわかりづらい。
田尾下:そうですよね。
――説明しないとお客様が入っていけないですね。
田尾下:そこを丁寧に、かつ飽きさせないように試行錯誤しながら稽古をしているところです。
――原作を読むとお丹の視点で描かれていますね。
田尾下:そこは踏襲していますね。お丹は舞台に出ずっぱりです。阿国の方はポイント、ポイントに出てきて、ワーーーッと場面をかっさらっていくような、そういうキャラクター、作りになっています。
――お丹が変わっていく、成長していくところがポイントになっていると思いますね。
田尾下:はい。物語には2つテーマがあり、まず面(おもて)が真の芸人を選ぶ、この能楽の面が真の芸人を見ているんだっていうことですね。
――それでチラシの真ん中に面があるんですね。


田尾下:そうです、それとやはり「女の声は天に届かぬ」、この言葉は原作にもあるんですが、そこがすごく現代的なテーマになるなってと思っているところです。1600年代の物語でありながら、これは未来に向けての作品とみんなに言っています。「女の声は天に届かぬ」と言われながら、実は歌舞伎の開祖は女性である阿国で多くの人がそれは知っていることでありますが、知らない人は「そうなんだ」って。この「女の声が・・・・・」っていうのは、物語の結末から言ってしまうと阿国が「あなたの声が天に届いたみたいだ」っていう、しかし「お丹の声が届いてよかったね」ではない。これから本当にもっともっと天に届くようになるかもしれないっていうメッセージ、芸を極めるとは何なのか。男女とか人種、宗教いろいろと差別がありますが、そこではない、特にエンターテイメントはそういう差別を取っ払ったところにメッセージがある。人を楽しませたい、笑顔にさせる、感動させる、そういうことが芸事の最終的な目標。もともとは神に届けるために舞ったり歌ったりしてきたものかもしれないですが、やはり自分たちが本当にいいものをお客様に届けるという信念のもとにやっている人たちの物語、これは未来の物語だなという風に思っています。これをメッセージとしてお客様にはお届けしたいなと思っています。
――台本上では最後の4、5ページのところですね。
田尾下:そうですね。阿国が成長して『阿国』になったように、お丹もそういう風になりますが、彼らは未来を考えているからこそ、一期一会で楽しませる芸を持っている、芸人であり続けたんだろうなって思いますね。

「北翔海莉さんの存在は本当に惚れ惚れして素敵、峯岸みなみさんは人から見られている、見守られながらスターになっている人」

――キャストさんについて。主軸のお二人もさることながら脇も賑やかで。
田尾下:そうですよ〜。北翔海莉さんは体幹の強さや歌がうまいということもさることながら、まとった雰囲気とか決意のほど、この舞台にかける意気込みという意味においては尊敬するような取り組みをなさっていますし、舞台に出てきて空気感を変える、阿国として、北翔海莉さんの存在は本当に惚れ惚れして素敵だなと思います。前田清実さんが振付、ステージングやってくださっていますが北翔海莉さんが入るとパーっと華やかになるのを感動してみています。峯岸みなみさんはずっとアイドルという職業を10年以上やってきている方で人から見られている、見守られながら、スターになっている人。すごく声がいいんですよね、しかも作っていない声。等身大で感じているところを素直に表現できている人、彼女の中から出てくる声が非常に素直で、お丹という役にあっていますよね。2幕でどこまで化けるかが楽しみ。1幕の時点では素直なところは非常によく出ているので、阿国とお丹という2人のキャラクターの対比がすごくよく出ています。コング桑田さん、モト冬樹さん、ベテランの方が『トメ』としての存在感もあり、かつ稽古を盛り上げてくださる。お二人は役者以外のお仕事もしてくださっている気が・・・・・全体をまとめた時に彼らの一言、一言に愛情が、深さがある。コングさんの歌は凄い!原三郎左衛門役ですが、物語の中では全体のフィクサーのような・・・・・・お丹をコントロールして自分のところに来るように仕向ける、操る、そういう政治的な手腕を含めてやっているのですが、にじみ出てくる温かさがある、悪人ではない、しかも存在感が写真でも凄いですね。モト冬樹さんはお丹の実のお父さんの役、笠屋犬大夫ですが、ひょうきんでいながらも必死で笠屋舞が生きていくためにはどうやって政治家に取り入ることができるのか、それをやっている姿がちょっとほろっとします。市瀬 秀和さんにはステージング、殺陣やりながら、京極高次をやっていただいております。ご自身も凛としてかっこいい方ですが、つけてくださるシーンも当然ながら、何を見せたいか、わかった上できっちりやってくださるのでそこに目がいくようになっている。玉城 裕規さんにはとにかくとことんかっこいい猪熊少将教利をやって欲しいです。彼自身も柔らかいところがある人、役柄としては余裕綽々のプレイボーイが阿国に見据えられてだんだん怖くなっていくが、彼女に惹かれてもいく、彼にとって阿国は宿命の女。この余裕綽々のプレイボーイと阿国の『上下関係』が変わってくるところが面白い。
――2人のポジションが変わっていくところは見どころですね。
田尾下:最初のところで「天下太平の世となりましょう」という、これは僕の創作で原作にはないのですが、耳元で囁いて怒らせるところがありますが、囁いたことは実は阿国がちょっとからかうように一言・・・・・・要するに「あなたの世じゃなくなりますよ」っていうってことで彼は自分が恐れていることを言い当てられること、かつ自分が彼女を欲していることも言い当てられる。そういうところがこの物語、男女の物語としては一つあります。濃厚なラブシーンは特にないのですが、この2人の関係はそういう風に描きたいなと思っています。
――キャストさんの魅力とキャラクターとうまくあっていますね。
田尾下:はい。坂元健児さんは可愛いんですよ。とっぱという役は男と女を演じ分けたりできる、すごく日和見なんです。時機を見て動ける役の人を軽やかにやってくださる。彼自身も体がきく人なので。そういうところが見られるなと思います。こふめ役の雅原 慶さんは歌唱力、どこまでお客様に届けさせていただけるのか楽しみです。こふめはお丹に「あなたは嘘をついて生きてはいけないよ」と、「自分に素直でなければいけないよ」と言って亡くなるのですが、その言葉がお丹に大きな決断を迫っていく、お丹は「自分に嘘をついちゃいけないんだ、嘘つかないで生きていこう」って、そこでお丹は決意して出て行くんです。桜一花さん演じるおあかはモト冬樹さんとは夫婦の役ですが、おあかにとってお丹は実際の子供ではないんです。彼女は常識的な判断をする、例えばお丹を売る「売ったらこれで店が持てるし、芸が禁止されたら売らなきゃいけないんじゃないの?」と考える。現実的で常識的な人物ですね。大沢健さんがやる与八郎は世阿弥ではないのですが、佐渡島で能を継承している人で、能の真髄を彼はすごくわかっている、しかもその末裔と思われているようなところもあります。お丹に能や芸を教えたり、あるいはすごい至言を吐きます、「世阿弥はこういうことを言ったんだ」とかね。お丹の芸をする中での成長に大きく関わる人、ところが「女の声は天に届かぬ」っていうのも彼なんです。そういう言葉はお丹の頭の中に残っていく。彼はお能の芸を継承し、その精神を体現している人。
だからお丹は阿国と対決するとなれば、自分をさらなる高みへ鍛えるにはこの人の元に行かなければって決断し、わざわざ佐渡島に行って稽古つけてもらったりするんですね。蜘蛛舞は平田裕一郎さん、グァンスさん、細貝圭さん、蜘蛛舞は軽やかに実はここはラップ調なんです。和装の中でどういう風に演じられるのかが楽しみです。
――この格好でラップっていうのも面白いですね。
田尾下:そうなんです。中村誠治郎さん演じる三九郎は阿国の旦那であり、芸人でありながらも自分はどこかマネージャーのようで阿国が枕芸しながら色々と仕事を取ってきたりとか権力に取り入ってきたりとかしても目をつぶりながらうまく阿国一座として生き延びていこうと画策できる人。だから非常に冷静でなきゃいけない。中村さんは綺麗なので、もうちょっと下品なところがあってもいいよねっていう話はしていて、河原芸人の泥臭いところをやって欲しいなと。ひょうきんな院主様を演じる伊藤裕一さんは、舞台に現れただけで空気を変えてくれる方。しかも、毎回アイデアを持ち込んで下さいます。 織田有楽斎の御曹司役のカムイさんは大衆演劇の方なので居住まいとかちょっとした刀の使い方や扇子、稽古場でもっている姿を見てると締まりますね、俄然、和物の良さが!阿国一座の高岡裕貴さんは、身体の効く人なので、戦いの場面での特攻振りや、反応の一歩の素早さが際立ちますし、あとは同じく阿国一座の関根 慶祐 (K-SUKE) さん、彼はマジシャンなので、マジックをお願いしたい!お菊は鳳翔 大さんですが、お菊は原作では阿国に小さい頃から育てられていて、恩を感じている人。阿国を信じてずっと待ち続けている。お綺麗で実際には殺陣もやっていただきたいし、姿もかっこいいです。今川 宇宙さん演じる阿国一座の満珠は阿国が姿を消して立ち行かなくなっていき、一座が三郎左の店にスカウトされていくのですが、そこでNO1のお丹の次、NO2になります。2幕の三郎左の遊女の店のバーーーという大きな舞のシーン、ダンスのシーンで芯を取ってもらいたいと思っています。

「難しいことは言わず、極上のエンターテイメントとして作りたい」

――最後に締めを!
田尾下:はい。1600年代の物語を描きながら、未来への物語を作っています。「かつて、こういうことがあったね」って博物館的にやるのではなく、我々は実際にエンターテイメントや舞台に関わっている者として皆川先生や我々が書かせてもらっている一言、一言の言葉が我々は痛感するわけです。役者さんには等身大の自分たちとしての本当の気持ちをこめながら役柄を演じてもらっているので、さらにシーンが力強くなり、役者さんのファンの方にはその役者さんの人生を重ね合わせて見ていただければ。北翔海莉さん、峯岸みなみさん、いいキャスティングです。苦労しながら成長していく芸人たちの世界をしっかり描けていると思っています。この「女の声は天に届かぬ」と言われた時代の物語を21世紀にどう響くか・・・・・・お客様の一人ひとりの感想を聞いてみたい、我々のメッセージとしてどう受け取っていただけるかな?っていうことをすごく楽しみにしています。難しいことは言わず、極上のエンターテイメントとして作りたいと考えています。時代背景を我々が1幕でどこまでお伝えできるかによって楽しみ方が変わってくると思っていますので、必死に稽古しています!はい!是非、ご覧ください!
――ありがとうございます。公演を楽しみにしています。

【公演概要】
日程:2019年3月29日(金)~4月15日(月)
場所:明治座
原作:皆川 博子 「二人阿国」より
演出・脚本:田尾下 哲
脚本:中屋敷 法仁
出演:
北翔海莉 峯岸みなみ(AKB48) 玉城裕規
グァンス(SUPERNOVA) 細貝圭 伊藤裕一 雅原慶 平田裕一郎
市瀬秀和 大沢健 中村誠治郎
桜一花 鳳翔大 高岡裕貴 関根慶祐(K-SUKE) 今川宇宙 カムイ
坂元健児 コング桑田 モト冬樹

【チケット料金(税込)】
SS席(オリジナル特典付) 13,500円
S席 10,000円
A席 7,500円
B席 4,800円
C席 2,500円
※6歳以上有料/5歳以下のお子様のご入場はご遠慮ください

明治座チケットセンター(10:00~17:00) 03-3666-6666
明治座公式ホームページ https://www.meijiza.co.jp/lineup/2019/03/
文:Hiromi Koh