北翔海莉・峯岸みなみが芸で火花を散らす!ミュージカル「ふたり阿国」、真実の姿は天に届く、だから!生き切る、芸人として!

皆川博子の傑作小説「二人阿国」が久しぶりの舞台化、しかもミュージカルとなって明治座に蘇る。
静寂の中、笛の音が響き渡り、橋の上で能面つけて厳かに舞う、それを微動だにせずに見ている少女、名はお丹(峯岸みなみ)、そして面を外し、衣装を脱ぐと・・・・・・阿国(北翔海莉)、芸の凄さと存在感、凄みに圧倒されるお丹、この物語の主軸となる人物だ。
場面は一転して賑やかな雑踏、様々な人たちが入り乱れる。時はちょうど戦乱の世が終結に近づき、武士の世の中になろうとしているタイミングだ。右も左もわからないお丹、しかし、何かが変わる、何かが起こる、自分はどう生きていけばいいのか、おぼろげながらも感じ取っている。時代の先端をいく阿国、彼女の人気は絶大。そんな時代の中、貴族である猪熊少将教利(玉城裕規)、粋な男、芸を好み、美しいもの、本物を知っている人物だ。
戦乱の世の中、物事がドラスティックに変化していく、その中で生き抜かねばならない、人々のエネルギー、パッションを歌、音楽、ダンスで綴っていく。中央にしつらえた橋、もちろん『橋』としても使われるが、ヒエラルキーや力関係も示し、しかも動くことによって場面転換の役割も果たす。1幕ラスト近くでは船にも!
芸人たちは自分たちの存続をかけてなんでもやってのける。権力に取り入るのは当たり前。まずいことがあれば、さっさと「トンズラ」もするし、人気を獲得するための努力も怠らない。そんなこんなを1幕でスピーディに見せていく。
登場人物も多彩、うっかりすると古式ゆかしき時代劇になってしまうところだが、今、流行りのダンス、音楽、ワールドミュージックなどを駆使してこの時代の熱くほとばしるものを表現する。ラップにゴスペル、もうなんでもあり!これがいわゆる『ショーストッパー』的な要素もあって客席からはクラップも起こる。通路を使う演出もあり、客席も含めた劇場全体が、この「ふたり阿国」の世界になる。原作はお丹の視点で語られているが、このミュージカルもそこは踏襲している。

北翔海莉演じる阿国は、「ここぞ」という時に現れて舞台を「阿国色」に染め上げる。もしかしたら本当の阿国もこうだったかもしれない、という存在感とカリスマ性。思いっきり傾奇者、阿国がいなければ歌舞伎もなかったかもしれない、という気にさせてくれる。
また群像劇的な要素もあり、一人一人のキャラクターを丁寧に表現し、見せ場もしっかり。俳優陣の得意分野を余すことなく出していき、「ここはさすがだな」とか「この俳優さんはこんなこともやれちゃうのか」みたいな発見もある。また明治座らしい、大舞台らしい見せ方、大衆演劇調の大立ち回り、歌舞伎独特の動きと昨今のスピード感あふれる殺陣の融合は視覚的にもエンタメ。

そして2幕、お丹が『阿国』になってやろうじゃないか!な決意を具現化するところ、1幕では素直な少女だったのが、2幕では野心と向上心でいっぱいのお丹を峯岸みなみがAKBで培った『舞台力』で魅せる。サイリウムは振れないが(他のお客様のご迷惑に!)、心の中で振ってみたくなるようなノリの良さ。北翔海莉の阿国とは対照的な、若さと力まかせで『阿国になってやる』っぽい野心を目一杯全開させる。そして時代は容赦なく人々を飲み込んでいく。消えゆくもの、生き残るもの、変わらないもの、変わるもの、最後の瞬間まで生き切る姿は心に刺さる。
この物語の大きなテーマ、「面(おもて)が真の芸人を選ぶ」、冒頭で世阿弥の舞いを足利義満が見つめて言う。ここから物語全てが始まり、徹頭徹尾、この言葉が物語を貫く。真の芸人とは?エンターテイメントとは奥深い、そして未来へと脈々と続く言葉だ。そしてお丹は「女の声は天に届かぬ」と言われてしまう。お丹も、もちろん阿国も、女性であり、真の芸人を目指して生きる。彼女らの真摯な姿勢は現代にも通じる。ここが、この物語の真骨頂だ。
多彩な出演者、宝塚のトップスターであった北翔海莉、大舞台を一人で背負って立つ姿が『阿国』とシンクロする。歌、ダンス、立ち回り、芝居とさすがの貫禄。その阿国と対照的な位置にいるお丹の峯岸みなみは、アイドルっぽい雰囲気をうまく使って2幕は時代の寵児になろうとする姿を表現する。脇を固める俳優陣、コング桑田の朗々と聴かせる歌、モト冬樹の人の良さをにじませるキャラクター作り、2幕開演前には客席に降りてくるので、ここはぜひ!コミュニケーションをとってみては?玉城裕規のかっこよさ、キャラクターの生き様を観客に焼き付ける。市瀬 秀和演じる京極高次、殺陣のシーンは、もう芸術的、また坂元健児演じるとっぱが男と女を一人で演じ分けるところは、それだけずっと見ていたいくらいな面白さ&可愛さ。全てのキャラクターに見せ場があり、また蜘蛛舞のラップ、ここは客席もノリノリに!たっぷりな2幕ものであるが、長さも感じさせず、物語とエンタメと両方、しっかりと堪能できるミュージカル、初日のカーテンコールは客席総立ちで拍手がなかなか鳴り止まなかった。挨拶では峯岸みなみが昨年、祖父を亡くしたことに触れ「おじいちゃんに観て欲しかった、届いたかな?」と涙ぐみ、「届いたよ」と北翔海莉が肩を抱く場面もあり、会場はあたたかい空気に包まれた。
また明治座の売店は、賑やかなことで知られているが、早めに劇場について限定弁当(北翔海莉監修の「阿国の九肉の策弁当」が何気に人気!)やその他限定品が多数販売されているので観劇の記念に!

【公演概要】
日程:2019年3月29日(金)~4月15日(月)
場所:明治座
原作:皆川 博子 「二人阿国」より
演出・脚本:田尾下 哲
脚本:中屋敷 法仁
出演:
北翔海莉 峯岸みなみ(AKB48) 玉城裕規
グァンス(SUPERNOVA) 細貝圭 伊藤裕一 雅原慶 平田裕一郎
市瀬秀和 大沢健 中村誠治郎
桜一花 鳳翔大 高岡裕貴 関根慶祐(K-SUKE) 今川宇宙 カムイ
坂元健児 コング桑田 モト冬樹

【チケット料金(税込)】
SS席(オリジナル特典付) 13,500円
S席 10,000円
A席 7,500円
B席 4,800円
C席 2,500円
※6歳以上有料/5歳以下のお子様のご入場はご遠慮ください

明治座チケットセンター(10:00~17:00) 03-3666-6666
明治座公式ホームページ https://www.meijiza.co.jp/lineup/2019/03/
文:Hiromi Koh