高橋恵子:母がオロオロ、早霧せいな:娘が、ちょっぴりやさぐれる、舞台『まほろば』大きな古い家屋で繰り広げられる、女性たちの会話と生活と生き様と。

舞台『まほろば』が公演中だ。
田舎の町のとある家の中で繰り広げられる、登場人物は女性だけの物語だ。宴会の準備に追われているヒロコ(高橋恵子)、祖母のタマエ(三田和代)は縁側でのんびり。見知らぬ少女・マオがちゃぶ台にある麦茶を飲んでいる。そこへ「気持ちよかった」とキョウコ(中村ゆり)、そして激しくふすまを開けて「水〜」というミドリ(早霧せいな)、ミドリは二日酔いで足元がおぼつかない。しょーもない娘たちに知らない少女、この状況にややキレかかるヒロコ、そんなことに関知しない祖母。このバラバラ感が面白く、会話もテンポよく進んでいく。

客席からは頻繁に笑い声が響く。ヒロコと少女の会話、「どこからきたの?」「名前は?」の問いかけに淡々と答える少女。ミドリとキョウコの追いかけっこに取っ組み合い、こちらは日々進化している模様で、追いかけっこだけでなく、座布団で本気ではたき合い、観客席からは大きな笑いが起こる(ゲネプロよりも激しい!)。祖母は「賑やかだね」となぜか上機嫌で、その妙なズレ具合がなんともおかしみがある。

そんなこんなの状況にさらに・・・・・・キョウコの娘・ユリア(生越千晴)がカバンをぶら下げてやってくる。何かいわくありげな表情をみせる。古い名家らしい家屋、女ばかりで家を継ぐ跡取りがいないどころか、娘たちはそろいもそろって・・・・・・。登場人物全てが揃ったところで・・・・・会話からそれぞれの考えや立場が見えてくる。ミドリは結婚しない女、ある告白をし、それが大波紋!ユリアもまた爆弾発言をする。身内でもない少女が斜めな感じでそんな大人たちを見ている。ヒロコはこの家の存続を願っているのだが、なかなか思うようにことは運びそうにもない。

さしたる『事件』は起こらず、会話だけで進行するが、その内容たるが『波乱万丈』。それでも日々は過ぎ行く、宴会の準備を皆で行う、箸を並べたりしながら、会話したり、電話したり。子供を作る、家を存続させたい、自分自身の身の処し方、これはきっと時代が変わっても変わらない、どこにでもある、起こりうる問題。高橋恵子はどこにでもいそうな母親像で、家のことや子供達のことに心を砕く、しかし思うようにならない苛立ちを表現、早霧せいな演じるミドリは完璧に婚期を逃した、仕事に埋没していたどこにでもいそうなやさぐれた女性を可笑しさと可愛らしさを内包させて演じ、キョウコ役の中村ゆりはマイペースな空気感を纏う、そしていわゆる実家に『寄生』する、いい年齢の女性を自然体でみせる。そしてキョウコの娘、ユリア演じる生越千晴はちょっと繊細な感受性が強そうな若い女性像を構築する。そして三田和代、全てを達観しているような、そして家のことや家族のことを何気に暖かい視点で見ている祖母・タマエを存在感抜群で演じる(ハバネロのスナック菓子を食べるシーンは必見!)。
そんな人々を大きく包み込むこの『家屋』、元号が変わりろうが、そこに住む人々が『代変わり』しようが、きっとそのままなのだろう。休憩なしの約2時間、笑って、笑って、ちょっとほろっと。結末も、ちょっとふわっと、人の営みに『決着』などない、そんな自然体な舞台、そして普通に生きる人々の何気ない逞しさと愛おしさを感じる舞台であった。

<あらすじ>
とある田舎町、祭囃子が聞こえる中、宴会の準備をする母・ヒロコ(高橋惠子)。長女・ミドリ(早霧せいな)は東京に出ていき仕事を理由に結婚をせず、次女・キョウコ(中村ゆり)は父親不明の娘・ユリア(生越千晴)を出産し今もこの家に住み着いている。かつて地元の名家として知られた藤木家は男の跡取りもなく、ヒロコは娘たちに苛立っていた。
そんなある日ミドリが突然帰ってくる。さらにユリアまでもが前触れもなく現れる。祖母・タマエ(三田和代)、見知らぬ近所の子供・マオ(安生悠璃菜・八代田悠花)も加わり、女たちの赤裸々な会話が進む中、ミドリから衝撃的な告白が―
【公演概要】
舞台『まほろば』
<東京公演>
2019年4月5日(金)~21日(日) 東京芸術劇場シアターイースト
<大阪公演>2019年4月23日(火)~24日(水) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
作:蓬莱竜太
演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
出演:高橋惠子 早霧せいな 中村ゆり 生越千晴 安生悠璃菜・八代田悠花(Wキャスト) 三田和代
公式HP:https://www.umegei.com/mahoroba/