大地真央主演明治座 11月公演『ふるあめりかに袖はぬらさじ』攘夷なあっぱれ女郎が身請け拒んで・・・・これは事実なのか嘘なのか、まことしやかに口々に、三味線で引き語り、その行き着く先は?

『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は有吉佐和子が自身の短編小説『亀遊の死』 を基に文学座の名女優・杉村春子のために書き下ろした戯曲。 1972年の文学座初演以来、たびたび再演、横浜に実在した遊廓・岩亀楼を舞台に、幕末の動乱を生き抜く人々の姿を描かれたヒューマンドラマ。11月3日より大地真央主演で上演中だ。
幕開きは華やかに。物語の舞台は幕末の横浜、汽笛の音が遠くに聞こえ、そしてツケが響き、チョンパ!で!「ヨイヨイヨイ!」の元気な声、中央はお園役の大地真央が鮮やかなブルーの着物をきて!大きな拍手!客席から手拍子も飛び出す、勢いのある幕開きだ「ヨイヨイヨイヨイヨイっとなー」、そして「ここは横浜」と歌う。それからこの物語の重要な要素、瓦版だ。緞帳の前で瓦版を配る男、皆、争うようにしてそれを手に入れて、貪るように読む。世間の情報は瓦版から、人々は書かれていることについてあれこれ言う。今なら、さしずめツイッターでワチャワチャと、というところであろうか。瓦版の内容は皇女和宮のお輿入れの内容、ここで時代がわかる。舞台には庶民に混じって思誠塾の志士たち。大橋訥庵が天保12年(1841年)に開いた塾で、子弟に儒学を教えていた。嘉永6年(1853年)の黒船来航以降、訥庵の尊王攘夷論は激しさを増していき、外夷を打ち払うことを幕府に建言したりもする。こんなバックボーンを頭の片隅に入れておくと、この志士たちの発言がよくわかってくる。開国、尊王攘夷、時代は大きく動いていく。横浜で一番の岩亀楼、お園が病気の亀遊(中島亜梨沙)を看病している。彼女は病に倒れたのであった。そこへ蘭学を学び、通訳として働いている藤吉(矢崎広)が薬を持ってくる。2人の様子を見てお園は『ピン』ときた、2人は・・・・・。お園は中座してから再びやってきて「ごちそうさま!」と大きな声で!びっくりする2人、こういった芝居はコメディーセンス抜群の大地真央らしい瞬間だ。客席からもドッと笑いが起きる。

岩亀楼、横浜開港に伴い、外国人を引き付けるため、また、オランダ公使から遊女町開設の要請もあり、外国奉行は開港場に近い関内の太田屋新田に遊郭を建設することを計画。品川宿の岩槻屋佐吉らが泥地埋め立てから建設まで請け負い、約1万5千坪を貸与されて開業。とにかく大規模で遊女は700人ほどいたと言う。そんな時代、藤吉はアメリカにいく夢を持っていた。いつか2人で・・・・・「まだ見ぬ国へ」と歌う、そんな若く希望に満ちた夢、ここはフレッシュで清々しい場面、だからこそ、この2人に起こること、わかっているだけにちょっと胸が痛い。
そして場面が変わり、岩亀楼に外国人の客がやってくる。名前はイルウス(横内正)、仕立ての良いスーツをきこなしている、いかにもお金、持っていそうな空気感。店の主人(佐藤B作)は気合いが入る。大勢の外国人向けの遊女を用意して!これが個性的!ここはショータイム!マリア(久保田磨希)はじめ、派手派手な遊女たちが猛烈アピール!ここは客席は大笑い&拍手!ショーストッパーなシーンだ。しかし、イルウスは首を縦にふらない。そして亀遊が登場、イルウスは一目で気に入り、身請けしたいと言い出す。通訳に入っている藤吉の苦悩、亀遊の悲しみ、しかし、相手は外国人、いやだと言えるはずもなく・・・・・・。身請け話は進行、そんな時にお園が息を切らせて・・・・・亀遊が自害したと知らせにきたのだった・・・・・・。

しかし、これは瓦版屋にとっては格好の『ネタ』だ。早速、時代に合うように「外国人の身請けを拒んだ攘夷なあっぱれな女郎」とかきたてた。もちろん・・・・・事実ではないが、人々はこの話題に食いついた。そして物事はあらぬ方向へと転がりだす。
大地真央のお園はハマリ役、コメディーセンス全開で観客を笑いの渦に。2幕の尊王攘夷の志士たちの質問にとっさに話を”盛って”しまうところや三味線で弾き語りするところは、もう釘付けだ。そしてラストシーンのたった一人になるところは、おかしい仕草がかえって物悲しさを増幅させる。お酒好きなお園、徳利でじか飲み、酔っ払い、これだけで絵になる。”おかしくてやがて悲しき”である。

藤吉と亀遊、2幕で藤吉が幻の亀遊と踊るシーンは幻想的、そして岩亀楼の”大人たち”、こうしないと生きていけない、そんな哀愁も感じる。皆、役柄にあった雰囲気、「ふるあめりかに袖はぬらさじ」、嘘が実になり、実が嘘になる。嘘がまことしやかに流布すれば、それが真実と認知されてしまう。亀遊の自害を時代の時流に乗せて『盛る』行為、今もそれは頻繁に見かける。いわゆる「フェイクニュース」、しかもそれを純粋に信じ込んでSNSでシェアし、拡大していく。ここでは発端は瓦版、そしてお園と岩亀楼の主人が、本当のことを言っても信じてもらえない状況、瓦版の話をさらに盛ってしまう。”世間”にそういったニーズがあったから、お園は、どんどん調子よく話を盛っていく。シニカルで皮肉たっぷりな場面、コメディか、それとも悲劇か、そういった分け方はこの作品には似合わない。しかも悪人はいない。亀遊、藤吉はもちろん、お調子者のお園に、岩亀楼の主人に、亀遊を見初めたイルウス、彼を連れてきた大種屋の主人(温水洋一)、やり手ババアのお咲(未沙のえる)など、どこにでもいそうな人々だ。ラストはハッピーエンドとは言い難いが、これが現実というもの、それがどういうことかは観客がそれぞれに考えること。
杉村春子、坂東玉三郎ら名優が演じてきた作品。そして今回の音楽劇仕立て、現代にあったテンポでトントンとストーリーが進行し、回り舞台で場面転換もスピーディ。21世紀らしい演出で見やすくなっている。『本編』終了後のカーテンコールが賑やかで会場からは掛け声と大きな拍手、楽しく見られる2幕ものだ。

<大地真央プロデュース:限定50食!お園の秋の味覚ヘルシー弁当>

※秋の味覚をしっかり詰め込み、しかも一口サイズで食べやすく!さすがの座長の気配りが反映されている松花堂弁当。柿のゼリー、デザートまでしっかりと!観劇の記念に!
価格: 2,200円(税込)
[ご予約方法]
インターネット「席とりくん」でご予約を承ります。ロビーでも販売中!

【公演概要】
『ふるあめりかに袖はぬらさじ』
日程:2019年11月3日(日)~27日(水)
開演時間:12:00/17:00
料金(税込):
S席: 13,000円 A席: 9,000円 B席: 6,500円 ※6歳以上有料/5歳以下のお子様のご入場はご遠慮ください。
作/有吉佐和子(「ふるあめりかに袖はぬらさじ」中公文庫)
潤色・演出/原田諒(宝塚歌劇団)
出演: 大地真央
矢崎広 中島亜梨沙
大沢健 篠田光亮 林田航平 榊原徹士 瀬戸啓太 未沙のえる 久保田磨希
桜一花 羽咲まな 美翔かずき 樋口綾 石原絵理 小林千花 鈴木章生 伊吹謙太朗 森山栄治 永島敬三
温水洋一 佐藤B作 横内正
インターネット予約「席とりくん」 :https://web.meijiza.com/
公式HP:https://www.meijiza.co.jp/lineup/2019/11/