《座談会》 STAGE GATE(ステージゲート)VRシアター シーエイティプロデュース 代表取締役 プロデューサー江口剛史×アルファコード代表取締役社長 VR/MRコンテンツプロデューサー水野拓宏

ニューノーマルを具現化する観劇スタイルとして「STAGE GATE(ステージゲート)VRシアター」が始動した。記念すべき1回目の作品は会話が秀逸の2人芝居「Defiled-ディファイルド-」。最新技術を駆使したVR映像で観劇、しかも劇場でリアルに観ることも可能。VRでしかもマルチアングル、観客は観たいアングルを思いのままに自由にスイッチできる。1回目を終えた感触や、VRの可能性について、また今後の展開をシーエイティプロデュースの代表取締役でもあり、プロデューサーの江口剛史さん、アルファコードの代表取締役社長 CEOであり、VR/MRコンテンツプロデューサーの水野拓宏さんにお話をお伺いした。
また、第二弾も決定した
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――こちらの戯曲を観劇させていただくのは今回が3回目になりますが、俳優さんが着席して、位置も変わらず……というスタイルは初めて観ましたが、新鮮でしたね。
江口:私どもも、これは初めての試みですね。
――「ソーシャル・ディスタンス」のように言われている今だからこそ、この戯曲をやることになったのかな、と個人的には感じました。普通に劇場で観ると、心理的には歩み寄ろう……というシーンも近づいたりはしますが、朗読なので動かないままですね。


江口:感染症がこれだけ広がって「緊急事態舞台芸術ネットワーク」が劇団四季さんや東宝さんなど多くの団体の方により設立されました。そこに私どもも入っています。その中で劇場再開のためのテーマをずっと考えておりました。「感染対策をちゃんとやって、ディスタンスを確保して」と情報だけは入ってくるんですが、それを具体的にどのように劇場で行うかということを考えたときに、やはり「2人芝居のようなものではじめるしかないのかな」と思いました。偶然ですけれど爆弾犯と刑事によるこのストーリー、すなわち今回の戯曲が当てはまったんですね。ただ、それは見た目の部分もありますけれど、このホンが持っている内容がいかにも「今という時代に適しているのではないか」と考えました。世界が縮まってきている話と、これだけウィルスが蔓延するというテーマとこの物語がもつ背景が「今」に則しているのかなと思い、テーマとしても今上演すべきではないかと考えるに至りました。
――ほかのお芝居では、例えば6月の本多劇場の「ディスタンス」は無観客&生配信でしたし、あるいは同じ本多劇場ですが「劇場を作った男」では客席を半分より少し少なめに入れて、それで配信も行ってというケースもありましたが、今回ヴァーチャル・リアリティ(以降VRと表記)にしようと考えたのは?

江口:今回は無観客でやることも考えてはいました。ただお芝居ってお客様がいて初めて成立すると思ったので、まずは50人入れようと。それでも本来のキャパシティに比べて3割程度に落としてはいますが。ただそこでどうやって配信するか、今まで収録は経験していますが、配信はやったことがありませんでした。たまたま知人の方に今回のスタイルを紹介していただきまして、覗いてみたらこれは面白そうだな、と。そこから一ヶ月も経たないうちに“やろう”と即決でした。あんまりVRというものにピンと来てないうちに直感的に相談させていただきました。実は、以前「W3!(ワンダースリー)」というノンバーバルの舞台をやっていて。最初は「Defiled-ディファイルド-」ではなくあっちかなと思っていたんですよ。言葉を使わず表現できて飛沫の心配がいりませんし。ただ映像にしたときに面白い作品というのでしょうか、配信って平面的というか一方通行で、作り手側が見せたいものだけを決められる。その一方で芝居の良さって自分の目線で追える部分だと思うんです。座りながらなんとなく上手や下手を観たりしているわけですよね。それに近いものはやはり「VR」ではないかと。与えられたものを観ているだけではなく、芝居を観ている感覚で自分でいつのまにか登場人物を目で追って、自分で映像を選べるんですね。より演劇的な体験ができるメディアだなと感じました。

――水野さんは、今回の話についてどのような感想でしたか?
水野:戯曲の内容もそうですが、私たちの分野とどうとらえるかなと考えたときに、その場所、空間を切り取らずにありのままを提供するというのがVRの面白いところであり、難しさでもあると思います。内容によっては切り取らないと見せられないものももちろんありますけれど、演劇のように「空間を切り取らないことで体験することができる」ことで自分なりに昇華していくことができるエンターテインメントだと感じていましたから、そこに「VRで」と依頼してくださったことはうれしかったですね。また新しい挑戦としてやりがいがあるな、と。今回上演時間は短かったですけれど、今僕らが出せる最高のクオリティで、観た方に伝わることを目指したかった。演劇との組み合わせによってVRの強みをうまくつかっていただけるんじゃないかな、と思いましたね。
――VR的なものの捉え方をすると“目に映るものすべてに物語がある”と以前お話を伺いましたが、今回の「Defiled-ディファイルド-」でしたら「今、図書館の男が喋っているけれど、その時刑事はどんなことをしているのだろうか?」とふと思ったときにスイッチングができる。そこが面白いところだと思いました
江口:自分たちも何度も劇場中継をやったときに相手側が映っていないこともありますよね、ただし芝居の場合はどちらもステージ上にいますから、そういった切り替えができますよね。今回、演出の鈴木勝秀さんとともに作ってきたところがあって、当初はもう少し動きがあったんです。ただ身体的な面でVRを長時間観ていると負担がかかりますから、70分におさめて集中させた画面構成にしようと思いました。
――VRで観ると役者さんの顔が至近距離にあるので、まるで自分のことのよう……芝居への没入感があり面白さを感じました。客席にいるときは物語を冷静に観られる空間・距離がある程度ありますけれど、今回の「Defiled-ディファイルド-」では特に自分ごとのような。ドキュメンタリー性がありますね。

江口:特にこの戯曲ではそうかもしれませんね。オンタイムを切り取っているような感じでしょうか。この70分の物語はブライアンが入ったときからすでにノーカット。途中でシーンが変わったりする作品ではないので、そういう点では70分間のドキュメンタリーを観ているように感じられると思いますね。
水野:やはり、VRの特徴って物語の「壁」を超えて世界に入れるというところだと思うんです。客観的に見ているのではなく、目の前で起きているように見える。台本が目の前にあって演じているのはわかるんですが、一緒にいるような感覚になって。特に顔を見ていると、ともに体験しているかのような感じになります。「観る」の一歩先を体験できることがVRのおもしろいところだと思います。
――単純な「没入感」という言葉だけでは表現できないですよね。
江口:今も配信しているんですが、視聴者のみなさん、びっくりされているようですね。はじめはVRの見方に戸惑いがあったようですが、慣れてくるとその面白さに没頭していただけるようです。実は39回連続配信というのも初めてです。今回はチャレンジばかりしているんですけれど(笑)。
――役者さんも変わるんですよね。観客からすれば一回目に観た時とは違うスイッチの入れ方をすれば、観るたびに視点を変えられるから、何回でも観たくなります。
水野:仮に同じ物語で、同じ演者さんだったとしても、立ち位置で受け取り方が変わるはずなので『何回観てもいい』という部分を出していければ、と思います。VRは使っている技術が映像技術ではありますが『体験できる』というのが売りなんです。映像をスイッチして大きくしたり小さくしたりすることではなく、立ち位置そのものを変えられるんです。
江口:以前「Defiled-ディファイルド-」を映像化したときも、2回目の大沢たかおさんのときは11カメラ入れていました。ディレクターさんに台本を読みこんで頂くかそうでないかで映像が全く変わってくるんですね。今回のようなお客様目線で作れるのはその経緯からいくと画期的。VRであればセットや小道具でさえも意味を持って活きてくるんです。
――こういうトライができるのも、この戯曲の面白さが根底にあるからだと思います。図書館の男にも、刑事にも……行動についてはどう感じるかは人それぞれですが、どちらのキャラクターにも気持ちを入れられる内容ですね。

江口:第二弾、第三弾と考えてはいるんですが、心理的に行ったり来たりできる戯曲ってあまりないんですよね。今回は本当にネゴシエートしていくというところが秀逸なので、なかなか次の作品が見つかっていない。次回以降はリーディングではなく立ってみたり、あるいはミュージカルも考えています。スタッフ側も舞台上のどこから撮ればより効果的なのだろうかと模索しています。今後の課題としては、長時間観られるように、パソコンの画面で観られるものを作っていくところでしょうか。新しいVRの見方も提案していきたいですね。
――多様な見方ができて、一つのお芝居に関しても多様な切り口ができるので、お客様にとってはうれしいところなのかな、と感じます。シリーズ化というお話がありましたが戯曲選びについてはいかがでしょうか?
江口:いろいろなアングルを捉えて考えなければならないですね。通常の劇場中継よりもより中に入っていけるので、テーマが近すぎてもいけないですし……。今年はもう何作か考えているのですが、メルヘンな世界観のあるものをご相談している段階です。どんどんチャレンジしていきたいと考えています。今はまだ50人というキャパシティではありますが、劇場を開けた結果はよかったなと思いましたし、配信は劇場が広くなったと捉えてもよいのかなと思っています。
――第二弾も期待しております。ありがとうございました。

<あらすじ>
ハリー・メンデルソン、 図書館員。 自分の勤める図書館の目録カードが破棄され、 コンピュータの検索システムに変わることに反対し、 建物を爆破すると立てこもる。目まぐるしく変化する時代の波に乗れない男たちが、 かたくなに守り続けていたもの。 神聖なもの。 それさえも取り上げられてしまったら…。 交渉にやってきたベテラン刑事、 ブライアン・ディッキー。 緊迫した空気の中、 巧みな会話で心を開かせようとする交渉人。 拒絶する男。 次第に明らかになる男の深層心理。 危険な状況下、 二人の間に芽生える奇妙な関係。 果たして、 刑事は説得に成功するのか。

<7月公演レポ>
https://theatertainment.jp/japanese-play/56956/

<STAGE GATE VRシアター vol.2>
STAGE GATE VR シアター vol.2『Equal-イコール-』(リーディングスタイル)
脚本:末満健一
演出:元吉庸泰
出演:荒牧慶彦、植田圭輔、碓井将大、北村諒、木戸邑弥、小林亮太、鈴木勝大、鈴木裕樹、染谷俊之、
田中亨、辻本祐樹、納谷健、細貝圭、前山剛久、松井勇歩、三津谷亮  ※50音順
[ストーリー]
18世紀初頭、ヨーロッパの田舎町。
肺の病を患い長い間病床に伏しているニコラと、町の小さな診療所で新米医師として働く幼馴染のテオ。
テオはニコラのために、かつて実在しながらも失われた学問「錬金術」を蘇らせようと試みる。
それは「錬金術」における主要研究とも言える「不老不死」の実現を目指すものであった。
しかし、死期の迫るニコラは次第に不可解な行動を見せるようになり、
テオとニコラの運命の七日間がはじまるのだった。
劇場公演
公演日程:2020年9月27日(日)~10月17日(土)
会場:DDD青山クロスシアター
※劇場公演日程・配信日程・チケット詳細は後日発表。
※本公演は総勢16名の出演者が2名1組となりリーディング形式で上演。出演スケジュールは近日発表。
主催・企画・製作:シーエイティプロデュース/ワタナベエンターテインメント
公式ホームページ: https://stagegate-vr.jp
<STAGE GATE VRシアター vol.1 『Defiled-ディファイルド-』(リーディングスタイル)概要>

・作:LEE KALCHEIM
・翻訳:小田島恒志
・演出:鈴木勝秀
・出演キャスト:猪塚健太、伊礼彼方、上口耕平、加藤和樹、岸 祐二、小西遼生、章平、鈴木壮麻、成河、千葉哲也、中村まこと、羽場裕一、東啓介、前山剛久、松岡充、三浦宏規、水田航生、宮崎秋人、矢田悠祐 (※50音順)
撮影/技術協力:株式会社アルファコード
主催/企画・製作:株式会社シーエイティプロデュース

(東京公演)
・会場・日程:DDD青山クロスシアター 7月1日(水)~8月2日(日)39公演
・配信日時:2020年7月6日(月)19時~8月14日(金)19時
・配信方式:時間指定ストリーミング配信

(ライブ配信特別公演)
・会場・日程:博品館劇場 8月9日(日)~8月10日(月・祝)4公演
・ライブ配信日程: 8月9日(日)~8月10日(月・祝)
・オンデマンド配信日時:2020年8月20日(木)21時~8月24日(月)20時59分(各公演順次配信予定)
・配信方式:ライブ配信、オンデマンド配信
Vol.1紹介公式HP:https://stagegate-vr.jp/vol1/
文:高 浩美
構成協力:佐藤たかし