《速報》藤田俊太郎演出 ミュージカル『VIOLET』 長距離バスでの旅路の果てに見える景色は_

梅田芸術劇場が英国チャリングクロス劇場と共同で演劇作品を企画・制作・上演し、演出家と演出コンセプトはそのままに「英国キャスト版」と「日本キャスト版」を各国それぞれの劇場で上演する日英共同プロジェクト第一弾となったミュージカル『VIOLET』。
新進気鋭の演出家、藤田俊太郎が単身渡英し、現地のキャスト・スタッフと作り上げたロンドン公演は、昨年の1月から4月まで上演され、オフ・ウエストエンド・シアター・アワードで6部門にノミネート。 中でも日本人演出家の作品が栄誉ある「作品賞」候補に選ばれる快挙となった。
そして2020年4月に上演が決定していたが、新型コロナウイルスの蔓延により全公演が中止になってしまったが、この9月に3日間であるが、一部内容を変更しての上演。また、本来は四方を取り囲む“シアター・オン・ステージ”であったが、感染防止の観点から、従来通りの客席使用(1個ずつ間隔を空けて着席)となる。またスケジュールの都合上、一部キャスト変更の上演となる。

キャストが舞台上に次々と現れる。そこには椅子が点々と置いてある。資料映像が流れる。職と自由を求めた「ワシントン大行進」、およそ25万人がワシントンDCに集まった。そして有名なキング牧師の演説、1963年のこと。この翌年の1964年に米国連邦議会は「1964年公民権法」を通過させた。それは公共の場における人種分離を禁止し、公立学校・施設における人種統合を規定し、人種や民族に基づく雇用を違法とするものであった。この物語の時代設定も1964年、アメリカは激動の時代を迎えていた。

映像が途切れ、スーツケースを持ったヒロイン、そして幼い頃のヒロインも登場する。1964年、アメリカ南部の片田舎に暮らすヴァイオレット(唯月ふうか・優河/Wキャスト)は幼い時に父親による不慮の事故で受けた顔の大きな傷を治したいと思い、また、それは父はわざとそうしたのではないか、という疑念も持っている。そんな時にあらゆる傷をいやす伝道師のことを知り、彼に会いに行こうと決意、長距離バスの旅に出る決意をする。バスには様々な人々が乗り合わせていた。老婦人(島田歌穂)は「私はナッシュビルに行くの」という。乗った数だけ、目的地があり、バスに乗る理由がある。

そこで彼女は二人の軍人と出会う。黒人のフリック(成河)、黒人であるがゆえに差別を受けてきた。「公民権法」は、まだない。そういえば、最近も黒人男性が警官の手によって殺されたニュースがあったが、差別は今もなくならない。原作は「The Ugliest Pilgrim」、直訳すると「もっとも醜い巡礼者」という意味。また幼い時に受けた傷、それは外傷だけではない、見えない心の傷、知らないうちに本人の心理にも影響している。だから、ヴァイオレットは人目を避けて生きてきた。そんな彼女の一大決意、バスに乗って伝道師に会いに行く、そこに希望があるかもしれないからである。そんなヴァイオレットはフリックの境遇に涙する。
幼いヴァイオレットを登場させることによってヴァイオレットの心理を象徴的に見せていく。ヴァイオレットはその伝道師(畠中洋)に会えるが……。奇跡は起きないが、彼女の心に変化が起きる、もっと大事なものとは何か? ということ。

彼女は、自分の価値観を見出していくわけであるが、視覚的にわかりやすく観客に提示する。また、複数名のキャストは様々な役にスイッチしながら、舞台転換もキャストが行う。これが有機的に作用し、エンターテイメント性を向上させる。そして本来の舞台は四方を客席が取り囲むはずであった。回り舞台を効果的に使用しているが、舞台を取り囲むスタイルにしたら、多分、舞台上で行われている”事象”が間近で感じられて、没入感が得られる感覚になれるのかもしれない。また、畠中洋演じる伝道師の演説シーンをリアルタイムで大写しでモノクロ映像で見せるが、これがドキュメンタリータッチに見える。また歌唱力の高い女優陣がゴスペルで圧巻の歌声を披露してくれるが、ここはもう聞き惚れてしまい、歌い終わった瞬間、思わず拍手をしてしまう。キャスト全員歌唱力があるので、歌のパワーで物語を立体的に奥行きを見せてくれる。
そのままでいるのか、前進するのか、翻って現代、新型コロナウイルスの蔓延、アメリカは再び大きな時代の転換期を迎えている、いや世界中が大きな岐路に立たされているのかもしれない。また、日本においても差別は根強くある。”コロナ差別”という言葉も生まれた。また、”自粛警察”なる人々も登場した。今日的な作品、世界はどこに向かおうとしているのか、そこで人々はどうすればいいのか。その答えに”これ”というものはない。それは千差万別、この物語ではヴァイオレットは彼女なりに”大切な何か”を見出す。楽曲もカントリー調のものもあり、アメリカ的なニュアンスもあるが、実は普遍的なテーマを持つ、グローバルな作品。新型コロナウイルスの影響で、演出を一部変えての上演と聞いているが、様々な形態で上演できる力を秘めた作品ではないかと感じる。なかなか稀有な作品であった。

<概要>
日程・会場:
2020年9月4日(金)~9月6日(日)
東京芸術劇場プレイハウス
チケット料金:SS席 12,000円 S席11,000円 A席8,000円 ※簡易プログラム付

音楽: ジニーン・テソーリ
(『ファン・ホーム』2015年トニー賞最優秀オリジナル楽曲賞)
脚本・歌詞: ブライアン・クロウリー
原作: ドリス・ベッツ『The Ugliest Pilgrim』
演出: 藤田俊太郎
出演: 唯月ふうか/優河(Wキャスト)  成河 吉原光夫
spi 横田龍儀 岡本悠紀 エリアンナ 谷口ゆうな  稲田ほのか/モリス・ソフィア(Wキャスト)
畠中洋 島田歌穂
※公演スケジュールの変更に伴い、一部の出演キャスト変更。
伝道師役 原田優一に代わり畠中洋、リロイ役 森山大輔に代わり岡本悠紀が出演

企画・制作・主催:梅田芸術劇場

公式HP:https://www.umegei.com/violet

文:高 浩美
撮影:花井智子 公式提供