ミュージカル「魔女の宅急便」気付きと生きがいと志と愛と絆の物語

アニメ化されて大人気の角野栄子原作「魔女の宅急便」、最初のミュージカル化は1993年、演出は蜷川幸雄、主演は工藤夕貴。青山劇場をいっぱいに使ったステージングとフライングが話題になった。それから時を経て昨年の2017年、脚本・演出を岸本功喜で再び、ミュージカル化。2018年、熱い要望に応えての再演である。

印象的な幕開き、まずは大きな木の下に座っているキキ。それから流れる雲、ピアノベースの曲が響く。星が煌めく、ファンタステック、ここから観客は物語の世界に引き込まれていく。マントを着たキャストが登場し、歌う、「昔は魔法に溢れていた」と。それから本格的にストーリーが始まる。キキが生まれる、喜ぶ両親、近所の人々。現代は隣に誰が住んでいるのかわからないのがほとんどだが、ここではそういった人と人のふれあいがある様子。「生まれてきてありがとう」と歌う。そして時は過ぎ、13歳になったキキ、独り立ちしなくてはならない。ふと、魔女になろうと決心した時のことを振り返り、いきなり「次の満月には!」と決める。慌てふためく両親だが、キキの気持ちは変わらない。そしてホウキに乗って、人生の冒険に旅立つのである。

よく知っているストーリー、キャラクター、それでもワクワク、ドキドキするのは何故だろうか?プロジェクション・マッピングを有効に使い、あの世界観が舞台いっぱいに広がる。ホウキに乗って港町にたどり着くまでの景色は雄大で、これからのキキの“人生の大冒険”を予感させるようだ。

魔女というだけで好奇の目で見られる。空が飛べる?どんな魔法を使うの?もしかしたら、魔法をかけられちゃう??そんな視線にちょっと耐えきれないキキであったが、それも試練。トンボという人懐っこい少年との出会い、純粋で好奇心旺盛、空を飛ぶことに憧れており、ホウキで飛べるキキはもう、憧れの存在だが、イマイチ、キキには気に入られていない様子、そんなことにめげないトンボ。一歩間違えると“図々しい人”だが、無邪気で憎めない性格、キキも少しづつ心がほぐれていく。気っ風の良いパン屋の女将・おソノに無口な夫のフクオ、ふとしたことから「魔女の宅急便」を始めることに。

音楽と歌があまり途切れることなく、滑らかに進行するステージ、昨年よりも全体的に引き締まり、物語の輪郭とテーマを際立たせる。どこにでもいる人々、そして陥りがちなこと。宅急便を始め、次第に注文が増えて繁盛し始めるが、いいことばかりではない。「遅い」と叱られることもあったり。町長は悪人ではないが自分の評判と次の選挙のことに心を砕く。「いる、いる、こういう人」といった感じのキャラクター。子供が独り立ちして嬉しい反面、寂しい両親、手紙が届く下り、コキリとオキノの喜ぶ姿は共感できる。キャストもキャラクターに合っており、もう、あの「魔女宅」の世界がそこにある。
様々な人々との出会い、出来事。愛情あふれる両親の元から巣立ち、様々な経験をして気付きを得、成長するキキ。いや、キキだけでなく、全ての登場人物は気付きを得る。誰かの笑顔は誰かを幸せにする。キキは宅急便という仕事を見つけ、笑顔を見てそこに生きがいを見出す。もちろん、いいことばかりではないが。仕事はキキにとって“志事”となっていく。そこに志はあるのか、ないのか。それは全ての人に通じる事だ。そして、ラスト近く、ちょっとパステルカラーな恋の予感も。観終わった後は誰でもハッピーになれる。この舞台にはマジックがある。

【概要】
公演名:ミュージカル「魔女の宅急便」
出演:キキ役:福本莉子 (第8回東宝シンデレラグランプリ)
トンボ役:大西流星 (関西ジャニーズ Jr.)
生田智子、横山だいすけ、藤原一裕(ライセンス) / 白羽ゆり 他
原作・監修:角野栄子 (『魔女の宅急便』福音館書店刊)
脚本・演出:岸本功喜
作曲・音楽監督;小島良太
振付;舘形比呂一
〈東京公演〉
期間:2018年6月15日(金)~24日(日)
会場:新国立劇場中劇場
〈大阪公演〉
期間:2018 年 7 月 4 日(水)~5 日(木)
会場:大阪メルパルクホール
主催:フジテレビジョン/アークスインターナショナル(東京公演)
朝日放送/アークスインターナショナル(大阪公演)
企画製作:アークスインターナショナル/フジテレビジョン
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888 (前日10:00~18:00)
公式 HP:http://www.musical-majotaku.jp

文:Hiromi Koh

撮影:梅村昌哉