自分たちにとって今面白いものを、と心がけているから、それが結果的に「終わりなき感動をあなたへ」 インタビュー Office Endress 代表取締役社長 下浦貴教

『幽☆遊☆白書』や『ダイヤのA』、『憂国のモリアーティ』、『どろろ』など、様々なコンテンツの舞台化に取り組んできたオフィスエンドレス。2020年の新型コロナウイルス感染症の出現により、演劇を取り巻く環境は大きく変わり、中止に追い込まれる公演が相次いだ。その状況にいち早く対応、配信で見せる『ひとりしばい』をシリーズ化、自宅でも劇場にいるかのようなライブ感覚で観劇できる新しい演劇を創造。今年に入って話題作『東京卍リベンジャーズ』の舞台化、11月には世界中にファンがいるアメコミの代表作の一つ『バットマン ニンジャ』の舞台化、現役プロレスラーを起用する『終末のワルキューレ』舞台化とユニークかつ挑戦的な企画が控えている。こういった話題作を企画し、実行に移しているオフィスエンドレスの代表取締役でプロデューサーでもある下浦貴教さんのインタビューが実現した。

――御社は様々な作品を制作していらっしゃいますが、いわゆる2,5次元は『戦国BASARA』がはじめてですね。

下浦:『戦国BASARA』はもともと人気が高いコンテンツでしたが、当時は2.5次元という単語自体がありませんでしたから、お客様には単純に「舞台化」として受け取られていたと思います。それゆえ現在受けるお客様の反応とはまた違った感触でした。
もちろんゲームだからこそできるアクション表現があったうえで、それを実際の人間がやることによる面白さも期待していただけているような…具体的にいうとゲームだと100人、200人とプレイヤーがバッタバッタと切り倒していく「爽快感」というものがありますが、実際の役者は汗もかくし、息も切れる。逆に言うと、その「汗をかく」というのが人間の心に触れるという部分もある。そこから生まれた熱狂というのが成功した理由じゃないかなって思いました。
中身はもちろんだけれど、ビジュアルにはよりこだわるようにしましたね。衣装とか、メイクとか、武器とか、ビジュアル撮影で一緒に世界観を試行錯誤しながら作っていくという行程が、2.5次元の原点ともいえるのではないでしょうか。

――『戦国BASARA』はシリーズ化もして、2.5次元、とりわけ歴史ものの礎になったのではないかと。

下浦:あの当時は、いわゆる「歴女」と呼ばれる方々もいましたしね。生きた役者とスタッフの努力によって『戦国BASARA』は一つのブームの立役者にはなったんじゃないかな。

――『DIVE!!』についてはいかがでしょうか。

下浦:『DIVE!!』は僕も学生時代に原作を読んでとても印象に残っていたので、アニメ化の話を聞いた際に、東京オリンピックのタイミングとか、かなり原作のストーリーとシンクロした時代だなって思って、で、「舞台化するならば今だ!」と思い10年以上ぶりに再度原作のページをめくった次第です。
普通に考えたら”飛び込み”という競技を舞台でどうやるのか、というのが一番大きな問題で。企画を立てる段階で、こういう表現にしたらどうか?というのをいろいろ考えてはいたんです。飛び込みの空中での演技をアクロバットに変えてみたり。それを企画書に盛り込んでお話をさせていただきました。
同時に、小説を読んだときの受け手の気持ちを言えば、この作品に描かれているのは「青春ドラマ」です。だからこの物語を描く上では若者たちの葛藤だったり、その周りにいる人の想いだったり、これらの要素が非常に重要なので、スタッフ、役者と共に1シーン1シーン大切に作り上げていきました。
ちなみに『DIVE!!』ではアクロバットでしたけれど、そのほかにも『この音とまれ!』では箏曲、『四十七大戦』ではラップと、役者がキャラクターが演じるだけでなく、さらに物語にとって重要なプラスアルファの部分をがんばっている、という…その様が僕自身好きだし、お客様の心を打つということもあるのではないかと。なので比較的無茶をお願いする案件が多いのかも(笑)。

<「DIVE!!」The STAGE!!より>

[稽古場レポート記事:アクロバット風景写真掲載]
https://theatertainment.jp/japanese-play/13253/

[公演レポ記事]
https://theatertainment.jp/japanese-play/13679/

――たしかに、お芝居の稽古だけでなく、それ以外の技能のマスターも必要ですしね。

下浦:そうなんです。とくに『この音とまれ!』では、ヒロイン役の田中日奈子さんは半年以上、箏曲の稽古をしてもらったりしていましたからね。

――そこがなかなか他の制作会社がやらないような部分なんですね。それと、昨年の3月ごろから新型コロナウィルスの問題でいろいろな舞台が中止になりました。その中で「ひとりしばい」というシリーズをやられていましたが。

下浦:配信を軸に考えられた演出ではあるんですが、普通に一人での”演劇”という形を目指して作ったところはあります。
価値観がこれだけいっぺんに変わるというのは、20年間演劇に携わってきた中で初めての経験でした。作り手も受け手も、一概にコロナ禍と一括りにできない部分がありますが、とにかく本当に状況が激変しました。
今もまだ状況はどんどん変わっている渦中ですし、僕たちの向き合い方も何が正解なのか模索を続けている最中ではありますが、『ひとりしばい』をあの時期にできたというのはすごく大きな意味があると思います。
観客が劇場にいない中で公演する意味や、『ひとりしばい』みたいな公演をこの先も地方でもやっていく考え方とか、色々と考えました。
「配信だけれど演劇なので」ということで、カーテンコールのときにも「ご視聴ありがとうございました」みたいなメッセージをあえて入れなかったんです。やはり「ご観劇」という言葉を使いたい気持ちがあって。それにプラス「いつか、この客席で観てください」っていうことを伝えたいよね、と演出家も演者も思っていますから。しかも『ひとりしばい』ってなかなか興行的な含めて、厳しいものがあるんですよね。むしろコロナじゃなければできない形。だからそういう部分ではこういう話を作りたいとか、役者とどんな話にしようかとか。企画の立ち上げからいつも以上に踏み込んで作れたのはとてもよかったなと思います。もっとそれによってやりたいことが増えたと言うんでしょうか、企画としても、作品としても。

<舞台『ひとりしばい』より>

[ひとりしばい vol.1 荒牧慶彦「断-DAN-」レポ記事]
https://theatertainment.jp/japanese-play/56438/

[「ひとりしばい」に見る演劇配信の可能性:考察記事]
https://theatertainment.jp/japanese-play/71028/

[舞台『ひとりしばい』インタビュー記事:下浦貴教]
https://theatertainment.jp/japanese-play/59884/

――いろいろな可能性ができた企画だったということですね。今、緊急事態宣言が解除されたりしていますが、いつ何が起こるか予断を許さない状態です。その中で今年は『東京卍リベンジャーズ』の上演もありました。こちらは手法が非常にアナログというか、映像を差し込むことなくオーソドックスな演劇だと感じましたが……。

下浦:作品によって、やるべきスタイルというのは考えていて、『東京卍リベンジャーズ』は舞台でやるべき表現や、構成は早々に決まっていました。
そもそもタイムリープという題材は演劇向きだと捉えていました。主人公が現代と過去を行き来し、旅をしていくということを同じ視点で観客はしっかりついて来れますから。映像を入れてテロップで「何年前」とか見せるのはナンセンスでしかない。映像を一切使っていなかったころの演劇表現、すなわち早替えであったりだとか、現代と過去のキャラクターの演じ分けとか、そういったところに焦点が集まるようにと考えて、アナログな形で演出しようと決めましたね。

<舞台『東京卍リベンジャーズ』より>

[舞台『東京卍リベンジャーズ』レポ記事]

木津つばさ主演 舞台「東京リベンジャーズ」開幕!「俺自身の戦いだ!」

――特殊技術という手法を取らなかったのは、逆に新鮮というか。

下浦:作品によって、相性などもあるのではないかと。単純に舞台に映像を持ち込むのがキライとか、そういうのではないんですよ。『憂国のモリアーティ』『四十七大戦』などはかなり映像使ったりしていますから(笑)。

<舞台「憂国のモリアーティ」case 2より>

<舞台「幽☆遊☆白書」より>

[舞台「幽☆遊☆白書」レポ記事]

崎山つばさ主演 舞台「幽☆遊☆白書」事故死して生き返る試練、冒険、そして笑いと人情と。

――これからの上演としては、『バットマン』『終末のワルキューレ』が控えていますが、とくに『終末のワルキューレ』ではゼウス役を現役のプロレスラーの関本大介さんが演じますね。

下浦:プロレスと演劇ってちょっと近いところにいるというんでしょうか、エンターテインメントの先輩でもある。肉体で表現してストーリーを綴っていくという部分にとてもシンパシーを感じるんですよね、アクションや演奏だったり役者に負荷をかけている我々としては(笑)。小手先で何となくサラサラッとやるものにはお客様も感動しなくて。その人間が本当に真摯に作品や、世界観に向き合っているかというのを観たいんですよ。
僕らももう大人になって、会社単位でとか、いろいろな人間が100人200人と一つの作品に関わっていく中で、それを受け止めてくれる役者にやはり託したい。そういう意味では、我々もプロレスとかプロスポーツと似ているのではないかと。
『終末のワルキューレ』も企画の段階で、本物のプロレスラーの人たちに出てもらいたかったというのがあって。プロレスとかスポーツ観戦みたいな作品にしたかったんですよ。人類側、神側、みたいに囲みステージを中心にエリアを分けて、チケット売ったりしてね(笑)。
実際に演出家との会議をしているんですが、その時にも「応援合戦みたいなのやりたいよね」とか話をしていて。声が出せないから、手を叩いてとか足を踏み鳴らして応援という形になりますけれど。実際に応援してステージ上の役者がそれに応えて、会場全体のボルテージが上がる、スポーツの試合みたいなイベントをやりたいなって思ったんです。

――「舞台俳優」のみに拘らないキャスティングと、イベントとしての楽しさを積極的に取り入れていくと。

下浦:原作のファンの方々の中には、2.5次元化しなくても原作で十分と考えられている方もいらっしゃいます。そういう方々にも楽しんでもらえるようなスタイルのものになるんじゃないかなって期待はしています。
たまたまなんですけれど、『バットマン』もショーを作りたいと思って企画したもの。こちらに関しても目指しているのは、テーマパークのアトラクションとか、ヒーローショーみたいなのを作りたいなと思っていたので。本来は、海外からの旅行者であったりインバウンドを想定していたんですけれどね…コロナもあったせいで形自体は変えざる得ないところもありましたけれど、そういう変わっていったところも出演者やスタッフと今でしか出来ないことしてプラスに変えようと模索しています。

――ほかにもいろいろお話をお伺いしたいところですが、時間がそろそろ来てしまいました。それでは最後にメッセージを。

下浦:オフィスエンドレスの由来は「終わりなき感動をあなたへ」。久々にこのフレーズ言いました(笑)。「終わりなき」ってことは、結局飽きられないことを作ることであるし、僕自身20年以上やっていますけれど同じものばかりを作り続けているかと言うと決してそうではないし。時代も環境も変わりますから、自分たちが飽きない、自分たちにとって今面白いものを、と心がけているから、それが結果的に「終わりなき感動」に繋がっていくと思います。ここ1年半は大きく価値観が変わりましたから、改めて、今までいちばん面白いと思えるものを作ってきたし、これからも作っていきたいですね。

――ありがとうございました。今後の面白い企画を楽しみにしています。

<今後の公演予定>
[『ニンジャバットマン ザ・ショー』英語表記:BATMAN NINJA-THE SHOW]

日程・会場:2021年11月6日~11月30日  Theater Mixa(シアターミクサ)
公式HP:https://batman-ninja.jp
公式ツイッター:https://twitter.com/batmanninja_jp

会見記事
https://theatertainment.jp/japanese-play/87528/

[『終末のワルキューレ』]

日程・会場:2021年11月27日~12月5日 こくみん共済 coop ホール/スペースゼロ
公式HP: https://officeendless.com/sp/ragnarok_stage
公式ツイッター:https://twitter.com/ragnarok_stage @ragnarok_stage

イベント記事
https://theatertainment.jp/japanese-play/87857/

BATMAN and all related characters and elements © & TM DC Comics and Warner Bros. Entertainment Inc. (s21)
(C)「終末のワルキューレ」~The STAGE of Ragnarok~製作委員会
Ⓒアジチカ・梅村真也・フクイタクミ/コアミックス, 終末のワルキューレ製作委員会
©「DIVE!!」The STAGE!! 製作委員会
(C)舞台「ひとりしばい」製作委員会
©竹内良輔・三好 輝/集英社
©舞台「憂国のモリアーティ」製作委員会
©和久井健・講談社/舞台「東京リベンジャーズ」製作委員会
©Ken Wakui, KODANSHA / TOKYO REVENGERS Stage Production Committee. ©KW,K/TRSP
©舞台「幽☆遊☆白書」製作委員会
©Yoshihiro Togashi 1990年-1994年
取材:高 浩美
構成協力:佐藤たかし