舞台『黄昏』開幕! 八千草薫×村井國夫が贈る老いを感じた夫婦と家族の絆を綴る物語

舞台『黄昏』が開幕した。1979年の初演以来、日本を含む世界各地で上演され続けているアーネスト・トンプソンの名作戯曲『On Golden Pond』(邦題『黄昏』)。八千草薫を迎えての2003年上演、2006年の再演を経て、ついに2018年の夏、八千草のエセルが戻ってきた。その初日前日に囲み取材と公開ゲネプロが行われ、八千草、村井國夫、朝海ひかる、松村雄基が登壇した。

明瞭かつ丁寧な演出に定評のある演劇界の重鎮、鵜山仁による新演出で、12年ぶりとなる新たな舞台『黄昏』。誰にでも訪れる老いと、家族の絆という普遍的なテーマを描く本作は、1981年にはヘンリー・フォンダ、ジェーン・フォンダ、キャサリン・ヘップバーンの共演で映画化され話題にもなった。

80歳を迎えようとするノーマン(村井)と彼より若い妻のエセル(八千草)は、今年もひと夏を過ごすためにゴールデン・ポンドの美しい湖畔の別荘を訪れる。ふたりを迎えたのはいつもと変わらぬ湖と隣人たち。郵便配達のチャーリー(伊藤裕一)とは、夫婦の娘チェルシー(朝海)との思い出などを語る。ある日、ノーマンと反発しあっていたチェルシーが、恋人であるビル(松村)と彼の子供ビリー(若山耀人)とともにノーマンの別荘にやってくるのだった……。

映画版とは違い、舞台はゴールデンポンドの別荘内の1シチュエーションのみ。だが、その限定された空間により濃密な人間関係を描き出されている。ほぼ全編を通してステージに立つ八千草と村井によって、老夫婦の機微がステージ上にまざまざと現れていく。

その八千草は12年ぶりの再演について、「今度もまたこの舞台に再会できて嬉しかったです。初めての作品やっているみたいです。こんなにやっぱり変わるものなんだなと感じています」と心境を明かした。続けて、「エセルはすごく魅力的なんですよ。こういう役はなかなかやれないからこそ、大事にしたいです」とエセルという役にかける思いを語った。そんな、八千草に対して、ノーマンを初めて演じる村井は「八千草さんは本当にもう可愛くてどうしようもないんですよ。お守りしなきゃと私の母性本能が目覚めるぐらいですから(笑)」と笑顔で絶賛。

そんな2人が作り上げる舞台は、ゆったりとした時が流れ、客席までもがゴールデン・ポンドになったかのように全てが心地良く感じられる。その一方で、老いを意識したノーマンとそれを敏感に感じ取るエセルのシーンは、現実に迫り来る老いへの戸惑いをリアルに描いており、その場面のカットは映画版のシーンを彷彿させる。

ノーマンとは反発しているが、エセルには変わらぬ愛情を見せるチェルシー。エセル演じる八千草との共演について、朝海は「デュエットダンスを踊らせて頂いていますので、ぜひそちらもご期待下さい」と見どころをあげた。さらに、「舞台稽古でオーラを増した八千草さんを前にドキッとしてしまい、セリフを忘れてしまいました(笑)」と笑顔で稽古を振り返った。

チェルシーを心から愛する優しきビルを演じる松村も「八千草さんとは一場面しかご一緒しないので、稽古中もほとんどは客席で見ていたんですけど、チャーミングでずっと見続けてしまい、僕もセリフを忘れてしまいました(笑)」と朝海に同調。

お互いに素直になれないノーマンとチェルシー、2人の間に入るエセル。八千草、村井、朝海の3人によって、現代でもリアリティーを感じさせる家族の絆とあり方が綴られる。また、村井と松村が色濃くステージに打ち出すノーマンのシニカルさと穏やかであるが芯のあるビルとの対比が笑いとなって観客を楽しませる。

ノーマンの人生を再び輝かせ、彼に若さをもたらしていくビリーを演じる若山は、若者らしさを活発に演じきっていた。そして、伊藤が演じるチャーリーはコメディリリーフ的な立ち位置ながら、ノーマンとエセルにとって、チェルシーとの過去を思い返させるキーマンにもなっている。

八千草が「きっとご覧になったら、そうだなと思われることがいっぱいあると思います。だから、いろんな方に見て頂きたいです」と語る本作。あたたかく静かな時間の流れの中で心の機微を描き、家族のあり方をやさしく伝える舞台となっている。

<登場人物>

エセル・セイアー(八千草薫):ノーマンの妻。伸びやかなエネルギーに満ちた女性。
チェルシー・セイアー・ウェイン(朝海ひかる):セイアー夫妻の娘。父との確執から疎遠になりがち。
ビル・レイ(松村雄基):チェルシーの恋人。
ビリー・レイ(若山耀人):13歳になるビルの息子。
チャーリー・マーティン(伊藤裕一):夫妻と昔馴染みの郵便配達夫。
ノーマン・セイアー・ジュニア(村井國夫):自身の老いを感じながらもそれを楽しむ余裕を持っている。

2018年夏、 『黄昏』(『On Golden Pond』)、エセル役は初演から続投の八千草薫

【公演概要】
「黄昏」
作 :アーネスト・トンプソン
演出 :鵜山 仁
翻訳 :青井陽治
出演 :八千草薫 / 朝海ひかる 松村雄基 ・ 若山耀人 伊藤裕一 / 村井國夫
東京公演日程  2018年8月10日(金)~27日(月)
会場 紀伊國屋ホール
志木公演  9月1日(土) 14:00開演 志木市民会館パルシティ
大和公演  9月2日(日) 18:30開演 やまと芸術文化ホール メインホール
金沢公演  9月4日(火) 14:00開演 北國新聞 赤羽ホール
名古屋公演 9月5日(水) 18:30開演 名古屋市青少年文化センター アートピアホール
9月6日(木) 13:00開演
兵庫公演  9月11日(火)15:00開演 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
9月12日(水)12:00開演
主催:シーエイティプロデュース
公式HP:http://www.stagegate.jp

文:櫻井宏充