土居裕子,大森博史,荒井遼(演出) 『テンダーシング』 開幕_ 穏やかで慈しみ合う愛は永遠に。

『テンダーシング』はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の台詞を縦横無尽に再構成し、ソネット詩や歌も 加えて生み出された、もうひとつの『ロミオとジュリエット』。
ロミオとジュリエットという名の老夫婦の愛と別離を描いた物語。
独創的な手腕で原作を巧みに再構成したのは、NTlive『リーマン・トリロージー』が話題のベン・パワー。 翻訳監修はシェイクスピア37戯曲の完訳を成し遂げた松岡和子。 老夫婦となったロミオとジュリエットを演じるのは、土居裕子と大森博史。 土居裕子は東宝版『リトルプリンス』や『サンキュー・ベリー・ストロベリー』などが記憶に新しく、本作でもその歌声を披露、大森博史は様々な演出家からの信頼が厚く、最近では『スカパン』や『ある馬の物語』などに出演。 ベテラン俳優二人による円熟の『ロミオとジュリエット』。
演出は7月に『これだけはわかってる〜Thigs I know to be True』(於:東京芸術劇場シアターウエスト)も手がけた荒井遼。本作の初演によって、シアターアーツ「2021年回顧アンケート」 ベストアーテイストに選出されている。

舞台セット、所々に青い花が見える。カーテン、ベッド、テーブル、質素だが、どこか品のあるどこかの家、といった風情。音楽、一人の男が入ってくる、年齢は70歳ぐらいに見える。「明かりをくれ」、舞台が明るくなる。有名な「ロミオとジュリエット」の台詞、クライマックスの、ジュリエットが眠っているシーンで語られるロミオの言葉、ベッドに誰かが横たわっている。起き上がる、「御機嫌よう、神父様」、女性、こちらもかなり年齢がいってる様子。

年老いた二人、結婚から長い年月が経っているのだろうか、あの「ロミオとジュリエット」の二人がもしも死なずに一緒に年齢を重ねたらこうなるのかな?という想像もしてみたくなるような。ゆったりとした二人、愛の言葉をつむぐ、ゆっくりとダンスをする、ロミオ、そしてジュリエット。ワインを傾けたり、お互いを見る眼差しは穏やかで優しさに満ち溢れている。原作の「ロミオとジュリエット」のようなジェット・コースターのような展開はない、同じ台詞を使っていても、だ。何も起こらない、風がカーテンを揺らすだけ。そこに流れる空気は静かでどこか温かい。

抱きしめたり、ダンスも若々しさはなく、時には”ガタガタ”、歳を取れば、ダンスもそう長続きはしない、できない。それでもお互いに手を取る、取りたい気持ちが”体力”を凌駕する。ロミオとジュリエット、愛を育んできた二人だからこそ、踊る。ベッドに横たわる、”死が二人を別つまで”という言葉があるが、二人の間には”愛”が流れている。いや、愛のみ、かもしれない。純粋な気持ち、ふっと離れたかと思うと近づく、二人だけのリズム感。本を読んだり、ジュリエットにネックレスをかけるロミオ、笑顔のジュリエット、老夫婦の日常。原作は熱く、ほとばしる激情が言葉に乗せて観客に迫ってくるが、同じ台詞なのに、この「テンダーシング」では穏やか。

愛は特別なことをしなくても育まれる。この年老いたロミオとジュリエットの愛も何も特別なことはない。愛だけがそこにあり、愛だけで生きていられる。ラストは、ちょっとサプライズだが、リバース。メビウスの輪のよう。愛は永遠に、そして世界中で囁かれている愛。その景色は美しく、永遠に輝く。
また、今回は関連上演として『リーディングドラマ ロミオとジュリエット』も上演することに。今回は原作『ロミオとジュリエット』の朗読劇。

ロミオを演じるのは、村井良大、小西詠斗、梅津瑞樹。 ジュリエットを演じるのは熊谷彩春、佐藤日向、堀内まり菜、大西桃香。 そして、山口森広、町田マリーの2名が全ステージ出演し、物語を支える。 こちらは、日替わりキャストの一度きりのステージ。
ベテラン俳優による味わい深い『テンダーシング』。若者が演じる王道の『ロミオとジュリエット』。
一つの原作から生まれた二つの舞台、どちらも”愛”、熱くほとばしる情熱の『ロミオとジュリエット』、穏やかにじんわりと響く『テンダーシング』、比べて観ることのできる貴重な公演、13日まで。

<2021年前回公演レポ>

『テンダーシング -ロミオとジュリエットより-』愛を育み、慈しむ、究極の愛の形。

概要
『テンダーシング-ロミオとジュリエットより-』
日程・会場:2023年8月10日(木)〜13日(日) あうるすぽっと
原作:W・シェイクスピア
作:ベン・パワー
翻訳監修:松岡和子
演出:荒井 遼
出演:土居裕子 大森博史
スタッフ
振付 宮河愛一郎 / 美術 池宮城直美 / 照明 横原由祐 / 音響 藤田赤目 /
衣裳 藤崎コウイチ / ヘアメイク 河村陽子 / 映像 松澤延拓、松尾佑一郎 / 演出助手 小見山千里 / 舞台監督 深瀬元喜 / 制作 吉越萌子、稲井田恵里 / 制作協力 MAパブリッシング / 宣伝美術 宇野奈津子 / 助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京 / 主催:一般社団法人幻都

『リーディングドラマ ロミオとジュリエット』
日程・会場:2023年8月10日(木)〜13日(日) あうるすぽっと
原作:W・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
構成:木村美月
構成・演出:荒井 遼
出演
村井良大×熊谷彩春(8/10 出演)
小西詠斗×佐藤日向(8/11 出演)
梅津瑞樹×堀内まり菜(8/12 出演)
梅津瑞樹×大西桃香(8/13 出演)
山口森広(全ステージ出演)
町田マリー(全ステージ出演)

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