《インタビュー》 「Run For Your Wife」主演(ジョン・スミス役):山本一慶

レイ・クーニー、キング・オブ・コメディ、ユーモアのセンスは世界一を自負しているイギリス人たちを笑いの渦に陥れるイギリスが誇る作家である。彼の代表作の一つである「Run For Your Wife」が三越劇場にて7月27日から7月31日まで上演される。主人公は平凡なタクシードライバー、ジョン・スミス。彼には実は大きな秘密があった。優柔不断な性格からメアリーとバーバラという二人の女性と二重結婚していたのであった。真面目なジョンはきっちりとスケジュールを管理していたが、ある事故によって完璧なスケジュールが狂ってしまい、窮地に陥るというのがだいたいのストーリー。この作品の主人公を演じる山本一慶に戯曲の面白さや役についての自身の考えなどを語っていただいた。

「『めちゃおもろいやん!』って一人でつい、言ってしまっていました(笑)」

――今回の「Run for your wife」レイ・クーニーの本格的なコメディで非常に有名な戯曲ですが、読んだ感想をお願いいたします。

山本:実はこういった純粋なストレートにコメディ、っていうものをやらせていただくのは初めて。台本をカフェで読ませてもらいましたが、いや〜恥ずかしいくらいに笑って!「めちゃおもろいやん!」って一人でつい、言ってしまっていました(笑)。2.5次元舞台は稽古で実際に立って見て、お互いにコミュニケーションを取り合って作り上げたりして、それが“面白いね”っていうことはよくあるんです。ところがこの作品は台本を、文章を読んだだけでこんなに面白い!人が動く前から!言葉だけでこんなに面白い!っていうのが読んでみた最初の感想、第一印象です。そして改めて自分たちが動いて、そしてお客様の前で戯曲が具現化された時には、さらに面白い素敵なものができるんだなっていう期待も!何よりメンバーが面白いです。

――なかなか個性的なメンバーで。

山本:本当に個性的(笑)絶妙なキャスティングですよね。、あてはめて読ませていただきまして、すごく面白くなりそうだなっていう期待値がかなり上がりました。

――レイ・クーニーの戯曲は完全無欠のコメディですよね。

山本:はい。舞台のト書き、この描写が鮮明に描かれていて、もう読んでいるだけで想像しやすく、演じる側にとってもすごく親切な台本になっていますね。

―翻訳は有名な小田島雄志・恒志先生親子ですね。だいぶ前に作品そのものは拝見しておりますが、元々の戯曲は英語の韻を踏んでいたり、ダジャレがいっぱいありまして、それを日本語にした時に、なぜか日本語的なダジャレが入っているのが面白いところですね。

山本:そうですね、英語のギャグを日本語にすることはとても難しいと思うんですが、元々、日本のものなのかな?っていうぐらい自然ですごく可笑しいですよね。

――英語のギャグを日本的に変えているところが翻訳の面白さ、それでいて原作のテイストを伝えている。

山本:ですね!

「スミスはなんで結婚しちゃったんだろう、どう考えても自分より強者と結婚している彼、これが逆に可哀想(笑)」

――ところで2.5次元舞台は色々とやっていらっしゃいますが、今回の作品は全く趣が異なりますね。

山本:そうですね。でも基本的にやることは変わらないです。ただ、元々、本が完成しているものなので、素直にやればそれで完璧に面白いっていう安心感はありますね。自分たちで発信して面白くして舞台を完成させるタイプのものではないので。「Run for your wife」は本当に完成されていて安心度は高いです。

――主人公のジョン・スミスというキャラクター、
やっちゃいけない二重婚をしている、しかもばれないように暮らしている、世間的には残念キャラですが、なぜか憎めない(笑)。

山本:やっていることは最悪なんですよ(笑)。それなのに、本を読んでいてなんか可哀想になって(笑)。スミスって憎めない、やっていることがわざとじゃないように思える不思議なキャラクターで、トゲがない。観ているお客様は彼を憎めない、なんか可愛らしいイメージを受けましたね。

――二重婚という、世間的には後ろ指を指されるようなことをしていながら、なぜかお客様の側から見ると可愛いとか「早く切り抜けて!」とかね(笑)。

山本:しかもこの女性陣、メアリーとバーバラが読んでいてすごく怖かったんですよ。

一同:(笑)

――確かに!

山本:外国の方の事情はわからないですが、日本人として、この女性と結婚する、しかも二重婚してどうにか切り抜けているわけですが・・・・僕的には、二人ともすごく怖かった!僕、結婚したら絶対に尻に敷かれるなって(笑)。口答え出来ない!二人とも!スミスはなんで結婚しちゃったんだろう、どう考えても自分より強者と結婚している彼、これが逆に可哀想(笑)。二人とも素敵な女性ですけど、僕は怖いですね(笑)。

――相手の女性が結構、パワーありますからね。

山本:そうなんですよ。もし両方とも下手に出る女性だったらいざ知らず、スミスは二重婚なんて絶対に成し遂げられないような相手と結婚しているところが面白かったですね。

――そのジョン・スミスの窮地をなぜか友達が助ける!

山本:友達が入り込んできて、一緒に手伝ってくれるんですが、スミスって僕的にはとんでもない奴だと思うんです。とにかく嘘をつき続けていて、それが逆に、彼をどんどん追い詰める、よくぞこの2時間以上の本に!本当は逃げきれないのに、すごくうまく嘘をついている風に聞こえて、なんかいい具合に噛み合うじゃないですが、そこがすごく面白いなと。あと、舞台上で電話のやりとりが多く、そのやりとりがすごく表現が難しい上に、彼の嘘が噛み合っちゃうっていうのを舞台上でしかも電話で表現するところはすごく難しい。なかなか難易度が高いなと。

――かなり難しいですね。

山本:こうしてね、直に対面して、ごまかしていく、騙していくのはわかるんです。ところが電話で嘘をついていて、相手は声だけでそこにはいない。その様をお客様に見せる、その不思議な、今までやってきたお芝居にない構造を使って表現していかなきゃ・・・・どう見られるかは楽しみですけど、難しいなと。

――そこがこの作品の面白いところ。トリック的なところでもありますね。

山本:そうですね。どうなっていくのだろう、コメディなのに、まさに推理小説、探偵物みたいに感じてきちゃうような面白さなんです。

――何しろ、物語の展開がスリリング。

山本:だいぶスリリングですよね。

――話を知っていても、想像できちゃっても次はどうするんだろうみたいな期待感(笑)。

山本:すぐに想像できる、追い詰められて嘘に嘘を重ねてさらに追い詰められていっちゃうんだろう、って容易に想像できる内容ですけど、その想像の範囲内で面白く表現されている、ここがすごく不思議。オチが想像できたら普通は面白くない。それなのに、こんなに面白くできるんだって!

――それが本の巧みさですね。

山本:本当に。

「主人公が残念っていう、そこが面白い。しかも観ていてなんか可哀想になるのがちょうどいいんでしょうね(笑)」

――共演の方も、年が近い方もいらっしゃれば、ルー大柴さんも。

山本:はい。特にルー大柴さんとはこういう機会がなかったら共演させてもらうこともない方なので、本当に共演が楽しみです!

――ルー大柴さんの役はスミスに振り回される役ですね。

山本:そう!思いっきり振り回されていますね。

――レイ・クーニーの戯曲は基本的に大いに振り回される人が必ずいます!

山本:(笑)、そうなんですね!

――去年、レイ・クーニーの別の作品を見ましたが、やはり振り回される人がいて、主人公はかなり残念(笑)。

山本:主人公が残念っていう、そこが面白い。しかも観ていてなんか可哀想になるのがちょうどいいんでしょうね(笑)。

――それは「Out of order」という作品で、主人公が国の与党副大臣で、国会の真っ最中だというのに高級ホテルの最上階で不倫している。

山本:(笑)、不倫、好きですね!

――しかも相手の女性が野党の議員秘書。

山本:おもろすぎる!

――どっちも残念ですね。

山本:なるほど(笑)。

――「いいホテルだね」ってカーテンを開けたら、死体があった!

山本:なんちゅう!とんでも!とんでもないことに!

――設定を聞いただけで、もうおかしい!

山本:これは嘘をつききれないですね。つききれないことをどうにか隠す。どうせ、ばれるって想像できる範囲内ですが、これも面白いですね。ついた嘘がうまくかみ合っちゃったりして(笑)。

――「Run for your wife」も「Out of order」もお客様の側から見ると「そんな嘘ついても無駄だよ」って思う。ところが舞台上のキャラクターは、『この嘘でどうにか切り抜けられる自分』を本気で信じている。ところがどっかで綻びが出て、大慌て!

山本:そのパターンですよね(笑)。

「心の奥底からこみ上げてくるような、笑いに笑いが重なって徐々に、徐々に顔がほころんでしまうような、そういう心からの純度の高い笑いになるんじゃないかなと思います」

――最後に、これから観にくるお客様、あるいは観ようかなっていうお客様に向けて!

山本:僕自身もこういった純粋なコメディ作品に初めて出させていただくのですが、台本を読んだだけですごく楽しめました。これを素敵なキャストでどう形にしていくか、っていうのが今から楽しみなんです。確実に楽しい、面白いコメディになるのは間違いないし、上質な作品になると思います。単に面白いことを舞台上で繰り広げてただ笑っている以上に、心の奥底からこみ上げてくるような、笑いに笑いが重なって徐々に、徐々に顔がほころんでしまうような、そういう心からの純度の高い笑いになるんじゃないかなと思います。そのためにはキャストひとりひとりが緻密な計算と、それをお客様に感じさせないようなお芝居を、それがこのメンバーでできると思っています。すごく上質な笑いを楽しみに来ていただけたらと思います。

――そして登場人物には誰一人として本当に悪い人はいない。

山本:そうですよね。誰のせいでもないんじゃないかと思わせてくれる、不思議な魅力がある戯曲です。皆さん、お楽しみに!劇場でお会いしましょう!

――公演、楽しみにしています。

 

<あらすじ>
ジョンは真面目で平凡なタクシー運転手。だが、人には言えない秘密があった・・・その優柔不断な性格から、二重結婚するハメになり、2人の妻と、2つの家庭をタクシーを運転しながら、正確に行き来する日々を送っていた!
ところがある日、事故に巻き込まれてそのスケジュールが狂ってしまうところからストーリーは始まります。必死で隠そうとするジョン。ウソにウソを重ねて大変な騒ぎに!

【公演概要】
日程・場所:2019年7月27日(土)〜7月31日(水) 三越劇場
訳:小田島雄志/小田島恒志
演出:菅原道則
出演:山本一慶、花奈澪、七木奏音、鮎川太陽、青木空夢、我 善導/ルー大柴
企画・製作:アーティストジャパン
お問い合わせ:アーティストジャパン 03-6820-3500 https://artistjapan.co.jp
撮影:金丸雅代
文:Hiromi Koh