世界初演!新演出!360°回転!ブロードウェイミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」バーンスタイン生誕100年、疾走感あふれるラブ・ストーリー。

初演から62年たっても色褪せない不朽の名作が新演出で!360°回転するアジアで唯一の劇場、IHIステージアラウンド劇場で!2020年にはスピルバーグ監督が映画リメイク版を手がけることでも話題の作品、そして今年、2019年はバーンスタイン生誕100年、というアニバーサリーイヤー、7月にはバーンスタインの愛弟子である佐渡裕が「オン・ザ・タウン」を世界最高峰のスタッフを集めて上演したばかり。21世紀、初上演100年に向けて、「ウエスト・サイド・ストーリー」が新たな歴史を刻もうとしている。

脚本、音楽、これは全く変わらない。オーヴァーチュアー、グラフィックなデザインのニューヨークの街が映像が上下するのだが、この瞬間、客席が上下しているような錯覚に陥る。これはこの劇場の特徴である。よく知っている冒頭の、金網を飛び越える場面、これを映像で表現しているのだが、ここはスタイリッシュ。そして幕が開いて、ジェット団の面々が舞台に。それから、ファンならよく知っている場面が繰り出されていく。劇場の大きな特徴である360°回転することを生かした演出、よって今まで描かれなかった部分も描けるようになった。例えば、シャーク団の若者の収入はジェット団の若者の半分しかないという意味のセリフがあるが、シャーク団は徒歩で移動(客席通路を使う!)するのに対してジェット団の一部の若者はバイクで移動する。収入の差をビジュアル的に示す。しかもその収入の差はシャーク団の若者は移民であるのに対してジェット団の若者はアメリカ人。人種の差から生まれてくる『差』だ。今までの演出よりシンボリックに、リアルに、しかもロジカル、そしてファンタステックなシーンは映像を駆使してよりファンタジックに、幻想的にしているのが大きな『変更点』だ。

有名な「Tonight(トゥナイト)」のシーンではバルコニーごとどんどん空を昇っていき、遥か彼方まで!こういったシーンは21世紀ならでは。また「Somewhere(どこかへ)」は何もない舞台で皆が仲良く暮らせる世界がどこかにあると歌うが、ここでは映像でバックに雲のようなものが映し出されるが、曲調の変化に合わせて、それがだんだんと暗い不穏なものに変わっていく。ビジュアル的にもわかりやすく、彼らが現実に徐々に引き戻されていく様子が手にとるようにわかる。

初演時から時を経て舞台技術も大きく進歩、そして繰り返し数え切れないほど上演されてきた作品、よって当然のことながら脚本の読み込みも深くなる。細かいことを挙げればキリがないが、彼らの服装にもそれが如実に現れている。ジェット団のバイクを乗り回している者はかっこいいライダースジャケットを着ている。年頃の若者らしいところだ。シャーク団の若者たちはそういったことも面白くないと思っているに相違ないことは簡単に想像できる。またブティックでマリアと一緒に働いているアニタ、花柄のワンピースを着ているが、しかし、下着はゴージャスでセクシーだし、ダンスパーティでは目一杯、おしゃれなドレスを着てくる。

そんな細かいところを見ていくと、そこにキャラクターのバックボーンや性格が透けて見えてくる。作品の奥深さを感じられるところだ。また最後のシーン、トニーはマリアに会えるのだが、その瞬間、チノに撃たれてしまう、その場所が公園。天使をモチーフにした噴水があるが、シンボリックな印象だ。また場面転換中も『芝居』、トニーがチノを探して迷いながら歩くが、ここでトニーは会う人全てに「チノは?」というジェスチャーをしながら移動する。もはや場面転換ではなく、動く一つの『場面』と化している。そういったところは随所に見られる。よって物語はスピーディに展開、元々の演出もスピード感があったが、それをさらに上回る疾走感。そしてこのミュージカルでは唯一のコミカルな場面、「クラプキ巡査どの(Gee, Officer Krupke)」では、今までよりも小道具を多用し、よりエンターテイメント性の高いシーンに。
振付はジェローム・ロビンズのオリジナルを尊重し、ほとんどがそのまま、それだけ完成度の高い振付だったことがよくわかる。演出や舞台機構を変えてメリハリを効かせた新しい「ウエスト・サイド・ストーリー」、全く、何も変えずに上演し続ける、歌舞伎や能、狂言はそういう方向性で現代でも脈々と受け継がれているが、この「ウエスト・サイド・ストーリー」のように変化させて存続させる、というのもまた一つのやり方、きっとずっと上演され続けていくのだろう。幕が降りて映像でこれまで上演されてきた場所が文字でスクリーンに映し出されたが、そんなことに思いをはせる、さすがの不朽の名作であった。

なお、カーテンコールは撮影可能!ぜひ、スマホをスタンバイ!皆、スマホでパチリ。終演後はしばらく曲が演奏されるのだが、拍手は鳴り止まず、客席から音楽に合わせて「マンボ!」の合唱。多くのファンに愛されてきたからこそ、だ。

【公演概要】
日程・場所:2019年8月19日〜10月27日 IHIステージアランドシアター
(8月19、20日はプレビュー公演)
公式HP:https://www.tbs.co.jp/stagearound/wss360_2019/
問い合わせ:ステージアラウンド専用ダイヤル 0570-84-617(10:00〜20:00)
Photo: Jun Wajda
文:Hiromi Koh