矢田悠祐主演 ミュージカル「アルジャーノンに花束を」チャーリィの生き様、”かしこくなりたい”の顛末は。

原作は、作家ダニエル・キイスが1959年に発表した同名小説、日本でも発行部数300万部を超える名作。映画化、舞台化、ミュージカル化、テレビドラマ化、と様々にメディアミックス。2017年春、矢田悠祐を主演に迎えた新生「アルジャーノンに花束を」が大好評、2020年秋、2006年の初演が上演された博品館劇場での再演。
舞台上に一人の女性が登場する。名はアリス・キニアン(水夏希)、声が響く「あの〜おしえてくれませんか?」「よみかた、かきかた」「しんぶんがよめるように」、この物語の主人公であるチャーリィ・ゴードン(矢田悠祐)それからミュージカルナンバー、「その日、彼はここに来た」とアリスが歌い、「ぼくわかしこくなりたい」とチャーリィが歌う。”賢くなりたい”、誰もが一度は願うこと。

学生の頃、答案用紙が戻ってきて、バツを見るたびに「頭がよかったら間違えないのに」と思ったことは誰しもが一度や二度は思ったことであろう。勉強して少しずつバツの数が減っていけば素直に嬉しいものだ。しかし、チャーリィはいくら勉強しても一向に頭はよくならない。IQが68、彼はピークマン大学付属精神遅滞成人センターを訪れ、アリス・キニアン先生に出会う。この出会いがチャーリィを変えていく。


原作を読んでいたり、あるいはこの作品の舞台化を見たことがあるなら、結末も流れもわかっているが、それでも常に新しい発見がある。手術をしてチャーリィは次第に”できなかったことができる”ようになる。嬉しくなるチャーリィ、それは子供が成長するに従ってできなかったこと、今まで読めなかった漢字が読めるようになる、足し算しかできなかったのが九九を言えるようになるのと似ている。そして大人になるに従って、”知らない方がよかった”ことがあるのも理解するようになる。チャーリィはあっという間にパン屋の仲間たちを超え、博士たちをしのぐ天才になっていく。ところが、感情や心がそれについていけない、また、人間の”裏”を知るようになり、苦悩し始めるのだった。

矢田悠祐はチャーリィ役はこれが二度目。初役時と比べると、その後様々な舞台経験をしてきている分、演技や歌に深みが増している。またチャーリィを取り巻く人々、水夏希演じるアリス・キニアン、母性的なニュアンスで温かみを感じる。戸井勝海、複数役を演じるが切り替えが流石、芸達者が揃い、歌も芝居も安定感があり、物語世界を深く表現している。長澤風海演じるアルジャーノン、妖精のようにも見えてファンタジックな雰囲気を盛り上げてくれる。

 

チャーリィが純粋に「頭がよくなりたい」という気持ち、手術を経て少しずつできることが増えていく過程のチャーリィの顔の輝き、そして知能が頂点に達した時の複雑な感情、綺麗事ばかりではない、知恵遅れのチャーリィを下に見ていた人々、そして自分の知能が頂点に達した時の、いつの間にか、自分が他人を見下していること、アルジャーノンの変化を見て不安を感じていく、短い時間でジェットコースターのような人生を歩むチャーリィ。彼と、彼を取り巻く人々の生き様、フィクションなので、知能が格段にUPする方法などあるはずもないが、チャーリィの身の上に起こることや感情は、意外なほど身近だ。思いがけず、何かができたことの喜び、恋愛、信じていたことが実は違っていた時の落胆、人間に関する多くのことが詰まっている作品をミュージカル仕立てにして舞台上で表現する。深淵なテーマ、正味2時間半の上演時間にするには苦労も多かったと思う。とりわけチャーリィ役はほぼずっと舞台上にいる。彼を取り巻く人々、どこにでもいそうなキャラクター、パン屋の同僚、博士たち、チャーリィの父母、母は幼いチャーリィに勉強するように言う、しかし、チャーリィには難しすぎる要求だった。その体験が彼の欲求「ぼくわかしこくなりたい」に繋がっていく。ラストシーン、チャーリィの最後の言葉はシンプルで深い。

<出演者コメント>
矢田悠祐:このような状況の中、初日を迎えることが出来まして、ひとまず安心しております。公演日程はかなりハードですが、毎公演この作品で何か一つでも感じていただければと、チャーリィとしての人生を毎回歩んでいます。
万全の対策でお待ちしておりますので、是非劇場までお越しください。

大月さゆ:「アルジャーノンに花束を」出演のオファーをいただいた時は、とても嬉しくて夢のようで!でも、それが危うくなってしまった今年の初めごろ。悔しい未来に備えながらも、希望の火を消さないでいたあの時間。
こうして初日を迎えられること、そしてお客様がいらしてくださることに深く感謝してこの公演をやりきります!

青野紗穂:「アルジャーノンに花束を」に関われた事とても嬉しいです。そして無事に初日を迎えられた事が何よりも嬉しいです。まだまだ警戒体制が解けない中、沢山の方のお力添えがあってこその私達だなと、実感しています。
この当たり前に出来ていた事に規制がかかった今だからこそ改めて感じられた「感謝」を忘れずに、全員無事に千穐楽を迎える事を願って頑張ります!

戸井勝海:2006年の初演の博品館劇場に再び戻ってこられたことに大きな喜びを感じています。自粛期間中の様々な経験の中で、私がいちばん欲しいものは家族の笑顔だと思い知らされました。コロナで傷付いたりギスギスしている心に、チャーリーが賢くなりたかったワケ、そして純粋な彼の言葉が何かをお届けできたら幸いです。

水夏希:アルジャーノンに花束を。いよいよ開幕しました。初演の博品館に戻って参りました!やる度にチャーリィの魅力に虜になり、チャーリィの生き様が胸に刺さります。美しい音楽と、沢山のメッセージが込められた台詞の一言一言に揺さぶられる2時間半。。存分に浸っていただきたいと思います。

◇Story
32歳になっても幼児並みの知能しかないパン屋の店員チャーリィ・ゴードン。
そんな彼に、夢のような話が舞い込んでくる。
大学の偉い先生が頭を良くしてくれるというのだ。
この申し出に飛びついたチャーリィは、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に
連日検査を受けることに。
やがて、手術により、チャーリィは天才に変貌したが…。

◇出演
矢田悠祐
大月さゆ
元榮菜摘
青野紗穂
大山真志
長澤風海
和田泰右
戸井勝海
水夏希
◇公演概要
公演日程・会場:2020年10月15日(木)~11月1日(日) 博品館劇場
原作:ダニエル・キイス
「アルジャーノンに花束を」(ハヤカワ文庫)
脚本・作詞・演出:荻田浩一
音楽:斉藤恒芳
振付: 港ゆりか
美術:中村知子
照明:柏倉淳一
音響:柳浦康史
衣裳:doldol dolani
ヘアメイク:中原雅子
舞台監督:粟飯原和弘
制作:稲毛明子
プロデューサー:栫 ヒロ
企画製作:博品館劇場 M・G・H
協力・コーディネート:早川書房
主催:ニッポン放送
撮影:宮川舞子