城田優主演 ミュージカル『NINE』迷走する心、妄想、幻想、それでも人生は続いていく。

城田優主演 ミュージカル『NINE』、11月12日よりTBS赤坂ACTシアターにて開幕した。

『NINE』は、フェデリコ・フェリーニによる自伝的映画『8 1/2』をミュージカル化し、トニー賞を受賞した同名ブロードウェイ・ミュージカル。2009年には映画化もされている。『8 1/2』(はっか にぶんのいちイタリア語: Otto e mezzo, 「8と半分」)は1963年に製作・公開されたイタリア・フランス合作映画で、タイトルの意味は、この作品がフェリーニの8本目の映画であり、アルベルト・ラットゥアーダが共同監督をしたので「半分(1/2)」を加え、それでタイトルを『8 1/2』としたそうである。グイド・アンセルミ役はマルチェロ・マストロヤンニ、アカデミー賞衣装デザイン賞、外国語映画賞を受賞。
ミュージカル『NINE』、初演は1982年、トミー・チューン(Tommy Tune)演出、46th Street Theatreで初演され、729ステージのロングラン。トニー賞では、作品賞・演出賞・作詞・作曲賞など5部門で受賞し、「ドリーム・ガールズ」と賞の多くを分け合った。その後、演出がデヴィッド・ルヴォー(David Leveaux)に代わり1996年ロンドン、1998年ブエノスアイレスなどで上演した他、2003年にはブロードウェイでも再演されている。日本では、デヴィッド・ルヴォーの演出で、2004年と2005年に上演、翻訳は青井陽治。1983年には、振付トミー・テューン、堀内完演出で、東宝によりオリジナル演出版も上演されている。
そして今回は藤田俊太郎演出、翻訳小田島則子、城田優主演、振付には、新海絵理子、そして出演もするDAZZLE。

主人公が舞台に登場、映画監督のグイド(城田優)、それから女性たちが次々と登場、彼を取り巻く女たち、撮影現場、彼は周囲から期待されているものの、極度のスランプに陥っていた。そこに妻であるルイザ(咲妃みゆ)に離婚を切り出される始末。「ねえ、私の話、聞いてるの?」と詰め寄られる。離婚したくない、このスランプもどうにかしたい一心でベネチアの温泉へ!ここなら大丈夫…ではなかった。

マスコミが早速嗅ぎつけ、取り囲まれ、電話が鳴る、プロデューサー(前田美波里)からだ。いかにもやり手。とほほなグイド、40を過ぎ、「限界がある」と歌う。回り舞台を有効に使い、展開もテンポよく。様々な動きで状況を表現したり、映画スタッフ陣を演じたりするDAZZLEが、これをよりアーティステックにエモーショナルに見せていく。

そしてセットや小道具も彼らが動かすのだが、風景に溶け込んで、それさえも絵になる。時折、舞台の上の方にスクリーン、ここに映像が映し出されるのだが、今、舞台上でのことを投影したりする。これがドキュメンタリー映画のごとくで、我々はグイドのあらゆることを舞台上で、スクリーンで見ることができる。原作が映画なので、映画的な表現と演劇的な表現が舞台上で混ざり合う。愛人もやってくるし、とにかくグイドは気が休まらないどころか、少しずつおかしくなっていく。

こんな状況が大挙して押し寄せたら、グイドでなくてもひとたまりもない。プロデューサーのアシスタントの評論家(エリアンナ)から「あなたの弱点はプロット」と身も蓋もないことを言われる始末。
妄想と現実、このどん詰まりな状況から逃避したい主人公、そして彼を取り巻く女性たち、多くの女性に愛され、そして彼もまた愛していたが、すれ違い、食い違いの連続。グイドはクラウディア(すみれ)に「1人の女じゃ足りない」と言われてしまう。そして舞台上の少年時代のグイドがことの成り行きを見つめている。母(春野寿美礼)も登場、グイドの孤独、心の中に隠された闇、天才と言われようが、周囲から褒めそやされようが、彼の内面は”壊れた”ままだ。私生活と映画監督としての仕事、心の傷、それが彼の中で混沌としている。その混沌がDAZZLEのフォーメーションでうっすらと見えてくる。カメラは無情にも回り続ける。迷走するグイドの顛末、彼の魂はどこへ向かおうとしているのか…。

ミュージカルナンバー、普通の翻訳ミュージカルなら、すべてを日本語にするのだが、ところどころ日本語でない言葉、英語など多言語にして、その代わりに訳をスクリーンに投影する。日本語以外の言語での歌唱、これが様々な垣根を超えて単純な翻訳ミュージカルでない、インターナショナルな作品にしてくれる。歌唱力の高いキャスト揃いで城田優はじめ、皆、よく響く声で心情や作品世界を歌い上げる。

無機質なセットが、どこかの国、という感じにせずにある意味、グローバルさも感じさせてくれる。グイドは映画監督、クリエイターである。だからと言って彼の孤独や傷は特殊なものではない。誰しも表があれば裏がある。その裏は本人も気がつかない裏かもしれない。グイドについては様々な解釈ができるだろうが、ここは観客の感じ方や捉え方にもよる。そしてやはりエンターテイメントなので、すべてのキャラクターに見せ場があり、緩急つけた演出が功を奏している。また、プロデューサーが客席に向かって問いかけるシーンもあるので!もし問いかけられたら素直に応じよう。
原作の『8 1/2』は1963年に製作されており、軽く半世紀を超えている。それだけ普遍性があるということだろう。映画監督フェデリコ・フェリーニは『映画の魔術師』とも呼ばれ、3作目でヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞、続く『道』(1954年)では、2年連続のヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞、第28回アカデミー賞でアカデミー外国語映画賞を受賞する。『8 1/2』はシンボリックな映像表現でファンも多い作品。今回の演出も映画とは異なるが、舞台ならではの抽象的かつシンボリックな表現に挑戦しており、クリエイター陣の創意工夫が伝わる。またライブ配信も実施、DVDも発売が予定されている。特典映像に劇中カメラで撮影した実際の映像があるそうなので、これはかなり気になる!詳しくはHPを。東京公演は11月29日まで、大阪公演は12月5日から9日まで。

[演出:藤田俊太郎コメント]

ミュージカル『NINE』の開幕を待ってくださっているすべてのお客様へ。

ここまでのリハーサルは、すべてのカンパニーメンバーが協力しあい、時に議論しながら、皆が誇り高い仕事をして新しい芝居を作ろうと突き進んできました。劇中、映画を撮れなくなった監督グイドは虚構と現実の間で格闘しながらも、色気と魅力を纏い、女性たちを愛し続けます。また登場人物の女性たちはそれぞれ、自身の価値観を見出し行きようとします。制作過程で、作品のテーマであるグイドが未来に向かっていく姿、また強く生きる女性の時代が始まるという予感をカンパニーそのものが体現しました。2020年末の今しか届けられないミュージカルを作ることができました。
この『NINE』のタイトルの意味は、私たちが胎内にいた‘9か月’という時間日も由来しています。観客の皆様には観劇を通して、まるで生まれたての赤ん坊が最初に見た光のようなあたたかな希望を持ち帰っていただければと思っています。

コロナ禍の中、感染防止策を取りながらのご来場には感謝しかありません。私たちは劇場で胸を張って皆様をお待ちしております。

そして劇場に来ることが叶わないお客様へ向けて

舞台配信を予定しています。
当作品は映画監督が中心を担う芝居ですから、演劇、映画の枠組みを超える新しい体験をしていただけるような映像作品でのライブ配信となります。詳細はHPに載っておりますので楽しんでいただけたらと思います。

ミュージカル『NINE』、開幕です。

[グイド役:城田優コメント]

とにかく安全第一、キャスト・スタッフ一丸となって大千秋楽を迎えられるよう、いつも通り精一杯に舞台に臨んで参りたいと思います。
この2020年にふさわしい様々な国の言葉や字幕を使った多言語のエンターテインメントな内容で、藤田俊太郎さんがお考えになった演出は非常に面白いので、是非楽しみにしていただきたいと思います。
また、個性あふれる女性の皆さんのエネルギッシュな歌やお芝居にもご期待ください。

<物語>
創作スランプに陥った映画監督のグイド・コンティー二(城田優)は、新作の撮影が迫っているにも関わらず、構想が浮かばず苦悩していた。
そんな中、結婚生活に不満を募らせた妻のルイザ(咲妃みゆ)に離婚を切り出されてしまう。グイドは妻との関係修復とスランプ打開の為、ルイザを連れてベネチアへ逃亡。スパのマリア(原田薫)が誘うベネチアの温泉で癒しの時を過ごす筈が、グイドの新作と離婚危機スキャンダルを嗅ぎつけたマスコミが押しかけてきて休まる暇もない。その上、グイドの愛人カルラ(土井ケイト)が追って来て妻との溝も深まるばかり。挙句に映画プロデューサーのラ・フルール(前田美波里)がアシスタントで評論家のネクロフォラス(エリアンナ)を伴い脚本の催促にやってきた。撮影は4日後に迫っている。
女性たちに翻弄され現実から幻想の世界へと迷い込んだグイドは、少年時代に戻り母(春野寿美礼)の元へ。さらに は自身の性を目覚めさせた娼婦サラギーナ(屋比久知奈)との出会いへと思いを馳せ、失った愛を追い求める。
迷走するグイドは、成功の鍵となる自身のミューズ、女優のクラウディア(すみれ)に新作映画への出演をオファーする が・・・

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<概要>
◇脚本:アーサー・コピット
◇作詞・作曲:モーリー・イェストン
◇演出:藤田俊太郎

◇出演:城田優 咲妃みゆ すみれ 土井ケイト 屋比久知奈 エリアンナ
原田薫 春野寿美礼 / 前田美波里
DAZZLE (長谷川達也、宮川一彦、金田健宏、荒井信治、飯塚浩一郎、南雲篤史、渡邉勇樹、高田秀文、三宅一輝)
彩花まり 遠藤瑠美子 栗山絵美 Sarry 則松亜海 原田真絢 平井琴望 松田未莉亜 大前優樹・熊谷俊輝・福長里恩(トリプルキャスト)

◇東京公演:2020年11月12日〜29日 TBS赤坂ACTシアター
◇大阪公演:2020年12月5日〜12月9日 梅田芸術劇場メインホール

◇東京公演主催:TBS 梅田芸術劇場
◇大阪公演主催:ABCテレビ 梅田芸術劇場
◇企画・制作:梅田芸術劇場

◇HP https://www.umegei.com/nine2020/
◇Twitter @nine_2020_

舞台写真提供:梅田芸術劇場

文:高 浩美