石丸幹二主演 安蘭けい,相葉裕樹,村井良大共演 ミュージカル『蜘蛛女のキス』運命の出会い、刑務所、己の信念。

ミュージカル『蜘蛛女のキス』好評上演中!東京は12月12日まで東京芸術劇場プレイハウス、大阪は12月17日~12月19日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて。

原作はアルゼンチンの作家マヌエル・プイグの小説。ほぼ全編がモリーナとヴァレンティンという二人の登場人物の対話形式。途中で「報告」などとして挿入される文章はあるものの、いわゆる「地の文」がない。1983年にプイグ自身の手で戯曲化、1985年には映画化、主演のウィリアム・ハートは第58回アカデミー賞の主演男優賞をはじめ、各国の賞をさらい、話題に。日本での上映は翌年の1985年。1990年代にはジョン・カンダーとフレッド・エッブの作詞・作曲によりミュージカル化、1993年にはトニー賞ミュージカル作品賞などを多数受賞。
物語の舞台は刑務所の獄房の一室。怪しい雰囲気のオープニング、政治犯として逮捕された青年革命家ヴァレンティン(相葉裕樹/村井良大)、刑務所に連れてこられる。彼が放り込まれた獄房にはすでに”先客”がいた。彼の名前はモリーナ(石丸幹二)、未成年者に対する性的な行為で投獄されている。原作ではブエノスアイレス刑務所だが、ここでは場所は特定されていない。モリーナは大の映画好き。原作では映画の内容を延々と語るが、ミュージカルなので、ショーアップされた場面が展開する。重く暗い獄房、あまり清潔ではなさそう、しかし、映画場面は一転して明るく華やか。モリーナとヴァレンティンのやり取り、ヴァレンティンはモリーナとは真逆な性格、革命に命を燃やす。

よって、同性愛者のモリーナとは当然のごとく相容れない。絶対に寄るなときつく言う。しかし、モリーナはそんなことはお構いなしにヴァレンティンに絡んでくる。勝手に自分のことを話したり。モリーナはウィンドウスタイリスト、おしゃれには一言、うるさい。明るい曲調のナンバー「ドレスアップ」、ショーウィンドウを嬉々として飾り付けるモリーナ。そんな彼の日常はなくなり、獄房生活。その落差は心痛む。実はモリーナは所長(鶴見辰吾)からあることを頼まれていた。ヴァレンティンのいたゲリラ組織に関する情報を聞き出すように命じられていたのだった。なかなか打ち解けないヴァレンティン。1幕ではその状況がいくつかのエピソードを交えて印象的に描かれる。そして合間に挿入されるオーロラ(安蘭けい)のシーン、オーロラは銀幕のスター、照明も一転して明るくなり、ダンサンブルな場面は、ブロードウェイミュージカルらしく、どこまでもかっこよく、そしてダンサー陣もキメキメのダンスを!そんな場面ではモリーナの表情は明るい。映画のことを考えている時は、その世界にどっぷり、現実を忘れられる瞬間。モリーナはその瞬間は幸せ、時折、映画の場面に溶け込む瞬間もあり、没入しているような。

2幕では物語は急速に展開する。ヴァレンティンはチキンを美味しそうに頬張る。親密になる二人、モリーナの映画の話、ヴァレンティンも楽しそう。だが、ゲリラの情報を聞き出せないモリーナ、所長は業を煮やし、モリーナを仮釈放することに。その思惑、モリーナはヴァレンティンにぞっこん、「なんでもする」と踏んでいるからだ。仮釈放となる前夜、ヴァレンティンはあることをモリーナに頼む…。
印象的な楽曲、いかにもブロードウェイらしいナンバーから、ラテン系の楽曲まで多彩。聴かせどころも多く、「愛しい人」の四重唱は、それぞれの思いを吐露、盛り上がりの場面。また印象的に差し込まれるオーロラの場面と蜘蛛女の登場シーン。オーロラは夢、想像の中、モリーナにとってはユートピア。対する蜘蛛女、不穏かつ怪しい空気を纏う。彼女が現れる場面、モリーナの運命を後押しするかのよう。ひたひたと忍び寄る影のように不気味。

モリーナを演じる石丸幹二、この作品を知ったきっかけは映画だそう。それからブロードウェイで観劇し、幾数年の歳月を経ての出演、しかも主演。さすがの演技力と歌唱力、歌い終わると客席から拍手。対するヴァレンティン、村井良大で観劇、1幕では何かと突っかかるヴァレンティンをイラつかせながら、2幕ではモリーナと親密になり、モリーナが仮釈放される前に頼み事をするのだが、自分はモリーナを利用しているのでは?という複雑な思いを抱く、その葛藤を的確な芝居で見せている。安蘭けいはオーロラと蜘蛛女の2役だが、この役は表裏一体なところもあり、そこはきっちりと雰囲気を変えて演じ分け、またオーロラの場面ではさすがの宝塚の元トップスターらしく、時に白のパンツスタイルで登場した時は元トップスターの貫禄、颯爽と!そして蜘蛛女の場面では、怪しく、ダークに。出番は少ないが所長役の鶴見辰吾、常に囚人を見下す。モリーナをはじめとした囚人たちに対する不遜であからさまな態度、だが、彼は国家の”歯車”であり、”駒”、単なる”ピース”の一つにしか過ぎない。国家の体制にどっぷり浸かり、自分の置かれている立場を最大限に利用し、刑務所の”独裁者”に。シンプルなヒール役に見えるが、この国家体制では、これが彼の生きる道、鶴見辰吾の眼光鋭くモリーナとヴァレンティを差別的に、威圧的に見据える。

原作を読んでいれば、あるいは映画、ストレートプレイを観ているなら、それぞれの違いは興味深い。そして様々なテーマを内包している作品、同性愛に対する見方、差別、暴力、国家、愛、etc.映画やストレートプレイを観ていなくても結末はおのずと見えてくる。原作誕生から40年近くになるが、古くならない今日性。モリーナは自分の意志で行動する、その結末はモリーナは察しはついていたかもしれないが、それでも己の信じる道へ進んでいく。長く上演されているのには訳がある。

<あらすじ>
舞台はラテンアメリカの刑務所の獄房の一室。
映画を愛する同性愛者のモリーナ(石丸幹二)は、社会主義運動の政治犯バレンティン(相葉裕樹/村井良大)と同室になる。人生も価値観も全く違う二人。お互いを理解できず激しく対立するが、時を重ねるうちに次第に心を通わせていく。
モリーナは、心の支えである映画スター大女優オーロラが演じる蜘蛛女(オーロラ/蜘蛛女:安蘭けい)について語り、運命を支配するように、“彼女”は現れるようになる。
極限状態で距離を縮めていく二人。
モリーナは所長から、バレンティンに関する秘密を聞き出すよう取引を持ちかけられている。しかし、バレンティンへの想いから、モリーナは動かない。
ついに所長は、モリーナがバレンティンの仲間と接触することを期待し、モリーナを仮釈放にすることを決める———。

<石丸幹二インタビュー記事>

石丸幹二 インタビュー  ミュージカル『蜘蛛女のキス』モリーナ役

<会見レポ記事>

ミュージカル『蜘蛛女のキス』会見レポ、いよいよ11月26日、開幕

<公演概要>
ミュージカル『蜘蛛女のキス』
[キャスト]
石丸幹二
安蘭けい
相葉裕樹/村井良大(Wキャスト)
鶴見辰吾
香寿たつき
小南満佑子
間宮啓行
櫻井章喜

[スタッフ]
脚本:テレンス・マクナリー(マヌエル・プイグの小説に基づく)
音楽:ジョン・カンダ―
歌詞:フレッド・エブ
演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
翻訳:徐賀世子
訳詞:高橋亜子
音楽監督:前嶋康明
振付:黒田育世

東京公演:2021年11月26日~12月12日 東京芸術劇場プレイハウス
大阪公演:2021年12月17日~12月19日 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

公式HP: https://horipro-stage.jp/stage/spiderwoman2021
公式Twitter: https://twitter.com/@spiderwoman2021
舞台撮影:渡部孝弘